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「私、中村哲先生みたいな医師になりたいんです」と瞳を輝かせていた  

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アフガニスタンとパキスタンで病や戦乱、そして干ばつに苦しむ人々に寄り添いながら命を救い、生きる手助けをしてきた医師・中村哲先生は医療支援と用水路の建設を35年にわたり行ってきました。

中村先生が建設した用水路群の水は、かつての干ばつの大地を恵み豊かな緑野に変え、65万人の命を支えています。

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20年前、私が趣味で通っていた太極拳の道場での話です。
私とほぼ同時期に通い始めたNさんは自身の進路に悩んでいました。

当時、Nさんはまだ女子大生でした。
「私、中村哲先生みたいな医師になりたいんです」

きっかけはたまたま目にした中村先生の新聞記事だったそうです。
「井戸を掘る医師」として話題になっていました。

太極拳の練習後に立ち寄った喫茶店で、先生の活動組織ペシャワール会の会報をテーブルに広げると、Nさんは自分の想いを熱く語り始めたのです。

私は歯科大学を卒業し、都心のデンタルクリニックの勤務医として勤めはじめたころで、Nさんの話を聞きながら自らの器の小ささを思い知らされました。

当時の私の悩みは勤務先での過大な金銭的ノルマや、職場内での険悪な人間関係、なかなか習得できない治療技術などに嫌気がさして、歯科医を辞めることばかり考えていました。

理事長や先輩のスタッフたちから散々怒られたりして意気消沈。

帰宅途中の新宿駅のホームの端で立ち止まり、急ぎ足で通り過ぎる人の流れを見ていました。
すっかりやる気が失せていたのです。

Nさんみたいなキラキラした瞳を持っていたのは一体いつのことだったんだろう。
いや、そんな瞳で何かを見たことなど、これまでの人生でなかったかも知れません。

なんだかこのまま逃げ出すのもあまりにも情けないと思ってNさんが話していたペシャワール会の会報を取り寄せてみました。

「水すらも満足に手に入らない国で歯科治療を施す」
ほんの一瞬ではありますが、本気で取り組んでみようと自分に言い聞かせてみたのです。

しかし、Nさんと私の間には大きな差がありました。

Nさんは心から「人を救いたい」と思い「平和には戦争以上の力ある」と信じて、大学生活を一年棒に振ってでも実行しようとしていました。

アフガニスタンで難民を助ける仕事をしたいという願望。
人の役に立とうとする純粋な憧れ。
それがNさんを突き動かしていました。

それにひきかえ私は進むべき道が見えず、現状から逃げ出したい一心での会報請求です。

その差は大きすぎました。

きらきらと輝く瞳で将来を見ているNさんと目を合わせることができなかったのです。

そんな私は相変わらず迷いながら勤務医として歯科治療を続けていました。

あれから20年が経ちました。

ありがたいことに、その後、ご縁があって入れ歯治療に活路を見いだして当院を継ぐことができました。

久しぶりにNさんを思い出したのは、アフガニスタンに関する記事を新聞紙面やニュースで頻繁に目にするようになったからです。

2019年12月、アフガニスタンで中村哲先生が襲撃され亡くなり、イスラム勢力タリバーンが政権を奪取しました。

海外安全情報でもレベル4の退避勧告が出ています。
とてもじゃありませんが外国人が現地入りすることは不可能です。

その後Nさんは一年間の浪人を経て、見事に国立大学医学部に合格。
さすがにアフガニスタンには行っていないものの医師として活躍されています。

一方、私のアフガニスタン行きの夢は消えてしまいましたが、困っている人がいるのは日本でも同じです。

あれから10年ほど経過した30代後半になってようやく進路に迷うことなく歯科治療に専念できるようになりました。

ペシャワール会の会報に載っている、中村哲先生と肩を並べている現地の方々の笑顔の写真は、当院での治療がうまくできた後に患者さんが見せてくださる笑顔と同じです。

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治療後の素晴らしい笑顔を増やすことで微力ながら世界平和に貢献したい。
この気持ちだけは中村哲先生と通じるものがあると勝手に考えています。

中村哲先生への憧れを以前のような単なる表面的なものでなく、心の中へ、ほんの少しですが落としこむことができるようになりました。

たまに「今日は入れ歯の治療がうまくできた」と家庭で話すことがあります。

そんな話をするときの私の瞳が、妻と子どもにどう映っているのか最近気になります。

「私も、中村哲先生みたいな歯科医師になりたいんです」と熱く語っていたあのときのNさんみたいな瞳を遅まきながらようやく手に入れつつあると思っているのですが、果たしてどうなのでしょうか。

今の私には確認する手段がありませんが......。

「西荻窪 いとう歯科医院」ホームページhttps://www.ireba-ito.com

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