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最近チャットツールが注目されています。話題に応じて複数の部屋をすぐに設定して社内や社外の人と適切なコミュニケーションを構築できるほか、タスク管理、大容量ファイルのやりとり、そして電話映話会議ができるタイプもあります。そんなツールを開発している会社での、チャットでワークする日々を皆様にご紹介します。

無印良品の分譲地が出現、決め手はユーザーアンケート

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こだわりは、外構、街並み

 無印良品が家を売り始めたのが、2004年からになる。「木の家」、「窓の家」、そして「朝の家」とシリーズが続いている。そのコンセプトは、耐久性、快適性、可変性、普遍性、買いやすさという点での価格表示。

 その無印良品が今回挑戦したのが、戸建て分譲地のプロデュースだ。これまでは1区画の建物と外構だけだったが、家と家との位置関係や庭のありかた、公共スペースにまで踏み込んでプロデュースした初めてのケースが、今回紹介する「白井小町」というわけだ。

 オリックス不動産が分譲する「白井小町」は、北総線、白井駅から歩いて19分。いわゆる千葉ニュータウンの西端に位置する。2007年にオリックス不動産が取得し、177区画のうちの22棟が、まずは無印良品の家として分譲される。

 1区画あたりの平均面積は約48坪。建物面積は32坪平均。100m2を超えるくらいが多く、カーポートが必ず2台用意されている。平均価格帯は、3,000万円台~4,000万円台半ばを予定。

 今回ベースとなった無印良品の「窓の家」は、基本的に白い。軒がなく、正方形な窓があるのが特徴。屋根の勾配も統一されている。1軒1軒がアートのような外観だが、無印良品の家がこのように並んで街並みを形成しているのはココが最初ということになる。


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エーゲ海地域にある白壁の家のような雰囲気を漂わせる、白い家


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小町の風景


 どのように区画を割っていくか、その敷地のなかにどのように建物を配置していくか。それによって街の基本的な風景が形成される。

 通常はめいっぱい北側に家を寄せて、南側に自分の庭を広くとろうとするが、無理にやるとプランが難しくなったり、北側は人一人通れるだけのスペースになったりする。白井小町では、住民同士のコミュニケーションが取りやすいよう、セミパブリックエリアとしてデザインされている。

 ここでは正確な碁盤の目のような区画割りにはしていない。建物の配置もそうだが、南に向いた窓と北に向いた窓がお見合いをしないように高さや向きをずらしつつ、南側の庭と北側の庭が続きであるかのような作りをして、隣家、そのまたとなりまでを借景のように見せている。

 その工夫の一つが、庭と庭とのしきり。目線のじゃまをしないよう、フェンスとも言いにくい、高さ400ミリの細いスチールバーを配置。通常の分譲地の仕切りフェンスは800~1,000ミリとのことで相当低い。

 庭はわざと水平にしていない。微妙な起伏をつけて、微妙に波打たせている。波が隣家に続くことで、つながっていること表現する視覚的な効果をねらっている。元々は平らな分譲地だが、わざと土を盛って起伏をつけた。ここまで見通しがいいと、防犯にも役立つだろう。


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庭のフェンスと、盛り土。隣の庭、その先のお隣まで一体化して見えるような外構デザイン、配棟、庭の形に配慮した


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シンボルツリーとライトアップ。門灯とともに、夕方には強制点灯する


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オリックス不動産株式会社 住宅開発事業本部 販売グループ 第三チームの西田透氏



もちろん1棟1棟が無印良品の家

 室内も無印良品の家としてのコンセプトを持っている。今回は無印良品の家具を配置したモデルルームを見学した。簡素簡潔で生活に必要なものだけを採用していく、無印良品のコンセプトが無印良品の家という空間の中で完成した光景ということになる。

 無印良品7,500品目の集大成プロダクトとして2004年に始まった無印良品の家。この事業は前年比68%増だと、ムジ・ネット専務の田鎖郁男氏は述べている。

 ユーザーの言うとおりに家を建てるのが注文住宅だが、無印良品の家は、違う。コンセプトがあり構法や建材は決まっていて、標準化されている商品として販売され、考え方のベクトルが同じユーザーが購入していく、注文住宅とは似て非なる存在なわけだ。


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無印良品だけでそろえたモデルハウスの寝室


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窓の家に特徴的な、隣家の敷地まで目線が通るリビングに配置された窓


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乾燥コーナー バスルームである程度乾燥させた後、こちらで仕上げ乾燥という想定。無印良品の定番アイテムである透明な衣装箱がぴったり置けるような設計


 ムジ・ネットの川内氏によると、「家単体では絶対にできないことがあります。その一つがコミュニティのある暮らしです。だからこそ家と家が集まってできる街づくりには、そこに住まう人同士の良好な関係は欠かせない要素だと考えました。だからと言って、"集会所"をつくればそこにコミュニティが生まれるというものではありません。日常の生活の中でお隣同士が自然に声を掛け合う仕掛けが必要だと考えました。それが家と家の間をセミパブリックスペース=ガーデンコモンとすることであり、その借景を享受しながら、お互いの視線が邪魔にならないように配置された窓の在り方なのです。コミュニティプラザや、バーベキューコンロを設えた広場もつくりましたが、これらはコミュニティを生むための装置ではなく、あくまでガーデンコモンで日常的に培われたコミュニティを受け止めるための器と考えています。これらの公共施設がどう使われるかは、ここに住まわれる方達次第。きっと作り手の想像以上に賑わう場になってくれると思っています」ということだった。

 また今回白井小町で建てられた家は、「窓の家」と全く同じというわけではない。性能面で窓の家との違いは無いが、床材、外壁材などの仕上げ材は別のものを使用しており、「窓の家」という、グッドデザイン賞金賞を受賞した商品をモチーフにした、「無印良品の家」ということになる。

 そして、無印良品の家の標準的仕様である、ロジカルに構造計算できる木造軸組金物工法と外断熱が特徴ということになる。


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ムジ・ネット株式会社 住空間事業部 開発部長の川内浩司氏


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設備リスト。少々残念だと思うのは、室内乾燥コーナーや吹き抜けなど全棟には装備されていない点



無印良品の家はユーザーアンケートに支えられている

 商品コンセプトを語り始めるといくらでも語れてしまう無印良品の家だが、「2万人アンケート」を活用しており、それに基づいて仕様を策定していったという。私が注目したのは、この"アンケート"だ。

 そもそも無印良品の家が始まるにあたって、自己流の勝手な思い込みで仕様を策定していったわけではない。「ムジ・ネット 無印良品の家」のサイト上で行われている、「みんなで考える住まいのかたち」というユーザーとの情報交換・アンケートメインのコミュニティ上で出てきた意見を反映させてきた。

 今回は家のつくりだけでなく、街区そのものもアンケートで聞いており、無印良品ファンからの"戸建分譲地"に対する意見として、非常に興味深い。

 郊外の一戸建てに住んで手に入れたいものとして、散策やサイクリングに良い環境、家庭菜園、ガーデニング、バーベキューなど、都会ではなかなか得られない庭というスペースで、自然に親しんでいきたい、子供を庭で育てたいという希望が出てきている。

 まちとして実現したいことでは、公園や広場、景観維持のための街路樹、ゲスト用施設などが挙げられている。またご時世なのだろうか、防犯カメラについても47%が賛成している。

 中でも塀についてのエピソードは興味深い。サイト上のコラムでアメリカのように塀を作らない分譲地を提案したところ、ユーザーは、塀が無い分譲地・家など考えられないと反発を受けたそうだ。とはいえ視線を遮る塀はセキュリティ上よろしくなく、塀があるとお隣同士のコミュニケーションも減る。そこでどのような塀ならいいかということをアンケートで引き出したという。


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ムジ・ネットでのアンケート 郊外の一戸建てに住んだ場合に欲しいもの


街で実現したいこと.jpg

ムジ・ネットでのアンケート 郊外の一戸建てのまちで実現したいこと


 こちらのケースのように、セグメントされたユーザーのアンケートは、潜在しているニーズを引き出す。このアンケート結果が重要なのは、4,000名以上の人が回答しているという精度と、母集団がムジ・ネットのメルマガ登録会員80万人であるという点だ。

 住宅という上物の商品のマーケティングとして、有効な手法の一つだろう。ちなみに今回のケースである戸建分譲地の場合、さらに立地という条件、相場感などが、供給側にとってもユーザー側にとっても商品の大きな部分を占めてくる。

 その際に有効なのが、地価公示、エリアごとの平均販売価格、平均的供給面積、間取り別の供給量などを踏まえた商品開発であり情報収集だ。各種調査機関やポータルサイトが発表しているほか、HOME'Sでは「HOME'Sマーケットレポート」にて、実際にサイト内のユーザーの興味関心の数量を示す問合せログのマクロデータを公開しているほか、有料での提供も行っている。

 無印良品の家は、ともすると先鋭的な企業の内部の人が独創的なものを提供しているように見えがちだが、そういう側面も大切にしつつ、ユーザーの声を反映させる仕組みを取り入れているところがいい。

 どのくらいそれを徹底するか、しないほうがいいか、さじ加減はケースバイケースだったりする。そういった商品開発のさじ加減の1つの結果である、白井小町。事前問合せは1,000件を超えており、完全予約制の内覧の案内が始まっている。

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