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日本の未来について悲観的な情報ばかりが飛び交う昨今ですが、一筋の光が明滅するのを最近実感します。それは成功企業の中に、アメリカ型経営とは一線を画す日本古来の伝統経営哲学がしばしば見出されるようになったことです。数百年の風雪に耐えて今なお顧客や社会に支持される老舗企業に特有な哲学や経営姿勢が、図らずも若いベンチャー企業群に見出される――その経営の在り方を「主客一如型経営」と名づけ、今後の日本の産業界をリードし、再生に導く存在になり得るものと期待しています。本ブログではこの主客一如型経営に関し、その原動力となる「不変と革新」というキーワードから解明してゆきたいと思います。

音楽的伝統と同時代性を表現

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過去2回にわたって掲載させていただいた「名門ウィーン・フィルに転機」(上)(下)という記事。

 

実は、一昨年、フジサンケイビジネスアイに掲載された際に、ふだんクラシック音楽を聴いていらっしゃらないビジネスパーソンの方々から大きな反響をいただいたので、この「誠ブログ」でもアップさせていただいた次第です。

 

今回は、そのウィーン・フィルに関連して、ヨーロッパ芸術の伝統と革新について格好の題材とも言うべき、アルベン・ベルク弦楽四重奏団についてご紹介したいと思います。

 

下記は、やはりフジサンケイビジネスアイにおいて、私が担当した全44回の連載の中の、第35回として、2008年7月22日に掲載された記事です。

 

 

音楽的伝統と同時代性を表現

 

40年近くにわたり世界を代表する弦楽四重奏団として君臨し、世界のクラシック音楽ファンから愛されたアルバン・ベルク四重奏団が、今月をもってその歴史に終止符を打つ。

 

名門ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めていたギュンター・ピヒラー(ウィーン音楽大学教授)が、ウィーン・フィルを退団して同僚の教授陣と1970年に結成したこの団体こそは、「不変と革新」の識別と実現において傑出した存在であった。

 

「ウィーンの音楽的伝統を守ること、現代音楽を演奏すること」を、自らの「ミッション」として掲げ、その実現のために、音楽家として既に頂点に立っていたにもかかわらず、現代音楽の演奏を学びに渡米し、1年間、ラサール弦楽四重奏団の指導を受けた。

 

1971年、世界デビュー。彼らの演奏はまさに衝撃的であった。ハイドンやモーツァルトの、聴き慣れ、あるいは聴き飽きた曲が、あたかも、たった今、目の前で創造されたかのような新鮮さをもって現代によみがえったのである。

 

「ウィーンの音楽的伝統に立脚しつつも(=不変)、同時に、現代音楽への取り組みを通じ、"現代を生きる芸術"として世界の人々の心に訴求し得る「同時代性」と「グローバル普遍性」を強く持ったこと(=革新)による成果だった。

 

その衝撃は、ちょうど、同じ70年代、孤高の天才指揮者、故カルロス・クライバーが、ウィーン・フィルにデビューした際に全世界に与えたのと全く同種のものであった。

 

その後の彼らは、ベートーベン弦楽四重奏曲全集のCDが全世界で100万セールスを記録するなど、最高峰としての地位を確固たるものにしてゆく。

 

バリリ、ウェラーなど、ウィーン・フィルのコンサートマスターが結成し世界的になった四重奏団の多くが、「ウィーンの音楽的伝統」を表に出していたのに対し、アルバン・ベルクはその伝統に立脚しつつも、むしろ「同時代性」や「グローバル普遍性」を表に出していた点は注目される。

 

それでも、94年に録音したヨハン・シュトラウス&ヨゼフ・ランナーのワルツ&ポルカ集のCDでは、現代的でありながらも、濃厚なウィーン情緒が醸し出され、彼らが「ウィーンの音楽的伝統」に軸足を置いていることを再確認させたのである。

 

「伝統は革新によってこそ守られる。革新なき伝統は伝承に過ぎない」と言われるが、彼らこそは、それを体現した団体であった。

 

彼らなき後、室内楽の世界において、「ウィーンの音楽的伝統」は、いったい誰によって革新され、"現代を生きる芸術"として表現されてゆくのだろうか?

 

 

 

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