「もったいない」と接待文化~残飯使い回し事件への視点(後編)
お店側(料理人やその他スタッフ)と、商談のための接待目的で使うお客側に、しばしば生じる「目的」の乖離。
素晴らしい食材を用いて、丹精込めて作った料理を、心ゆくまで堪能してもらいたい、というお店側。
いただいた命に感謝しつつ、それを最大限に生かそうという思い。
その根底にあるのは、自分たちは、自分たちを取り巻く森羅万象と不可分一体なのであって、その中で「生かしてもらっている」という"主客一如"の価値観。
しかし、お客側、なかんずく、接待客には、「高級店で高いお金を払ってご接待して差し上げている(して頂いている)」という意識の人々も少なくなく、そういう人々は、「高い金を払っているんだから、出された料理をどう扱おうが客の勝手だ!」という意識を持ちやすい。
こうした、「乖離」に対して、お店として、いったい、どう対応すべきなのか・・・そういう問題提起を前回しました。
そこでポイントになるのは、やはり、
自分たちにとって、何があっても決して「変えてはいけないこと」(=「不変」の対象)は、何なのか?
環境変化に即応して「変えなければいけないこと」(=「革新」の対象)は、何なのか?
ということでしょう。
創業以来の、食材への思い、料理への思い、お客への思いを何よりも大切なものとして貫徹するのであれば、自分たちにとって本意とは言えない現在の顧客構成比に関して、自ら、"非連続・現状否定"型で変えてゆかないといけないでしょう。
逆に、名のある店として繁栄し続けることこそ、自分たちの「不変」の対象であると考えるのであれば、気持ちの上でも割り切って、「接待客の商談がうまく行くようサポートすること」に傾注し、料理人やその他スタッフに関しても、それを実現するに相応しい人たちにチェンジすることが必要となるでしょう。
これもまた"非連続・現状否定"型の「革新」です。
たとえば、アメリカ型の「コンファレンス・ビジネス」においては、コンファレンスで使用されるホテルなどの施設は、レストラン部門を含め、コンファレンスが当初の目的を実現するためのサポートに徹します。
一番良くないのは、自分たちにとって、何が「不変」の対象で、何が「革新」の対象なのか、についての"識別"ができていないケースです。
その識別が明確でなければ、当然のことながら、不満に満ちた現状に対して、何ら有効な手は打てません。
そういうお店は、たとえば、こんな風な"迷走"をするかもしれません。
食材としての動植物の命を最大限に生かし、お客様に心ゆくまで堪能していただくのが料理人としての使命・・・・・・・しかし、来店する客の多くは、そんなことに大した関心も払わず、連日連夜作られる残飯の山・・・・・
「もったいない・・・・!」
どうせ食べないし、食べたって味もわからないような客ならば、「食べ残し」にもう一度、軽く火を通して、他の客に出したって構わないのではないか?
もらった中元や歳暮を、そのまま別の人に贈るという、世間一般の人々がやっている行為と大した違いはない・・・そう考える店もあるかもしれません。
「客の食べ残しを使い回す」という発想には、以上のような心理的側面もあるのではないか・・・・・私には、そう思えてなりません。
「不変」と「革新」の対象の"識別"がいかに大切か、ということです。
それに失敗したために"迷走"し、それはやがて世間の知るところとなり、破滅してゆく・・・・・・
念のために申し上げておきますが、私は、「接待文化」が悪いと言っている訳ではありません。
そうした接待客を迎える側のお店として、接待客たちの振る舞いに、自分たちの「思い」との乖離を感じ、違和感を感じるならば、そこで、今一度、自分たちにとっての「不変」と「革新」を、明確かつ的確に"識別"して、それを踏まえての、"非連続・現状否定"型の「革新」を行う必要があると言っているのです。
自分たちの「思い」と、客側のふるまいとが、股裂き状態のままで営業し続けることは、両者に決して良い結果はもたらさないのです。
それともうひとつ。
お客の側に関しては、「高い金を払ったのだから、食べ物をどう扱おうが、この空間でどう振舞おうが、客の勝手!」という姿勢だけは、早急に正すべきではないでしょうか?
以前、「大学の学級崩壊」について書きましたが、あれは、大学の迷走が有力な要因となって、一部の学生たちが、「高い入学金や授業料を払ってやってるんだ。お前らにとって、俺たちは客だろ! だったら、俺たちが、大学でどう振舞おうが俺たちの勝手だろ! ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと卒業証書を渡せ!」という心理状態で暴走している、という内容でした。
まさに、同一の行動パターンですよね!
こうした不健全な現象は、バブル経済以降の"失われた20年"がもたらした「負の遺産」そのものですが、一日も早い克服が望まれます。