医療サービスのイノベーション~24時間対応在宅診療システム
「設備と人員の充実した大病院」と「近場にあって小回りの利く町医者(クリニック、医院)」が、相互に機能を補完し合うというのが、日本の医療サービスをめぐる「変わることのない」在り方でした。
換言するならば、それを「不変」の対象として貫徹しつつ、それを前提として、様々な「革新」が、大病院、町医者の双方で試みられてきたと言ってもよいでしょう。
ところが、最近、この2大体制が必ずしも「不変」の対象とは言えないのではないか、むしろ、「革新」の対象ではないのか、という"非連続・現状否定"型の問題意識をもって、新たな試みをスタートさせた医師がいます。
今回ご紹介するのは、医師でありながら、MBAを取得した、"医療サービスのイノベーター"舩木良真さんです。
舩木医師のチャレンジは、日本における環境変化を的確に捉えた、たいへん画期的なものであり、自宅のそばにこんなお医者さんがいたら、どんなに安心だろうと思うことしきりです。
下記の記事は、フジサンケイビジネスアイで私が担当した全44回の連載の中の第31回として、2008年6月17日に掲載されたものです。
医療にも顧客第一主義の新しい風
最近、公務員、医療従事者など、以前であれば、経営学には縁遠かった業界の人たちが熱心に学ぶ姿をよく見かける。
とりわけ、看護師で経営学を学ぶ人たちの熱意は素晴らしい。
「顧客満足とは何か」などについて、真摯に取り組んでいる。
こうした流れの中で、先日、顧客第一主義を実践する医師との邂逅があった。
名古屋で三つ葉在宅クリニックを経営する舩木良真医師(30)だ。
舩木医師は、従来のような、救命・治療を使命とする「問題解決志向」の「病院」でもなければ、患者の家庭環境や心情にも配慮し「人に焦点」を当てる「赤ひげ的町医者」でもない、両者の強みを生かす「チーム制による24時間365日対応可能な在宅診療システム」を構築して成功している。患者数は約400人。
水道の蛇口をひねれば、いつでもきれいな水が出てくるように、患者のニーズに応じて良質な医療サービスを提供することで人々が安心して暮らせる地域社会を作ってゆきたいという。
しかし、「赤ひげ」的に1人で対応していたのでは続かない。
そこで志を同じくする医師ら約10人で「チーム」を結成。
さらに外部の訪問看護ステーションや介護ヘルパー事業所ともアライアンスを構築。
電子カルテ、朝夕のコンファレンスなど徹底した「情報共有」を通じて、従来の「病院」のような「私の患者」ではなく、あくまでも「私たちの患者」という視点に立ったサービスを展開する。
さまざまな業種の成功企業経営者と接して痛感するのは、彼らが多用するキーワードがほぼ同一だということ。
たとえば、若いスタッフの活性化に成功し躍進中の居酒屋チェーン経営者(註;KUURAKU GROUP福原裕一氏)の用いるキーワードは、舩木医師とほぼ同じである。
この経営者は現代のリーダーシップのポイントとして、
「『人のために貢献したい』という『思いの強さ』」、そして、
「小さな約束を守ること」、すなわち、
「人が見ていないところでも、自分自身の発した言葉を誠実に実行すること」
を挙げた。
そして、これこそ、舩木医師が述べた現代型リーダーシップの本質だったのである。
それだけではない。
「成功体験="顧客からの感謝"によって、スタッフの意識は変革し得るものであり、それを通じて、経営理念の共有化は促進できる」と、同じことを述べる。
舩木医師の成功は今や業界の注目の的であり、将来、このビジネスモデルを採用するクリニックが続々と現れることだろう。
しかし、形だけをまねても成功はおぼつかない。
自分の使命に対する強い想いをベースに、真摯な経営ができるかどうかが問われよう。
この「新しい風」が業界革新へと発展することを期待したい。