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日本の未来について悲観的な情報ばかりが飛び交う昨今ですが、一筋の光が明滅するのを最近実感します。それは成功企業の中に、アメリカ型経営とは一線を画す日本古来の伝統経営哲学がしばしば見出されるようになったことです。数百年の風雪に耐えて今なお顧客や社会に支持される老舗企業に特有な哲学や経営姿勢が、図らずも若いベンチャー企業群に見出される――その経営の在り方を「主客一如型経営」と名づけ、今後の日本の産業界をリードし、再生に導く存在になり得るものと期待しています。本ブログではこの主客一如型経営に関し、その原動力となる「不変と革新」というキーワードから解明してゆきたいと思います。

フィギュアスケート・ジャパン・オープン開催~浅田真央選手の今季は?

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フィギュアスケート2010~11シーズンの幕開けとなる「ジャパン・オープン2010」が、つい先日開催されましたね。

 

日本、欧州、北米の3チームによるチーム対抗戦で、今回は、日本チームが(浅田真央、安藤美姫、高橋大輔、小塚崇彦)が僅差で北米を押さえ、2年ぶりに優勝しました。

 

しかし、私にとって最大の関心事は、浅田真央選手が、今シーズン、いったいどんなプログラムで臨むかという点でした。

 

 

2008~9年シーズンから、浅田選手は、ロシアのタチアナ・タラソワ・コーチにつきましたが、浅田選手が昨年、2010年のバンクーバー五輪向けプログラムを発表したその時から、私は一貫して、「このプログラムでは決して五輪で勝てない」とブログ上(アメブロ)で発言し続けてきました。

 

時として、熱狂的な浅田選手ファンからの怒りを買うこともありましたが、「不変」と「革新」という観点から見て、完全な失策だと確信していたので、私は断固主張し続けました(それでも、心の中では、"奇跡"が起きることを祈りましたが・・・)。

 

それは、次の2つの点からも明白でした!

 

① フリー・プログラムで使用する楽曲; 

ラフマニノフ作曲の「鐘」のオーケストラ・バージョンで、陰鬱で重苦しい雰囲気の曲です。

そこで描かれる世界は、圧政に喘ぐロシア民衆の苦悩・怒り・悲哀・・・・

浅田選手の第1印象は、「なんか平凡な曲だなあ・・・」(← 流石、鋭い直感です!)。

あの"真央ちゃん"(当時19歳)が、虐げられたロシア民衆の苦悩を表現!??

 

それでも、その後の浅田選手は、今までの自分になかった新しい世界を切り開こう、表現域を広げようと努力を続けました。

マスメディアは、励ます意味もあったのでしょうが、彼女の新たな挑戦を賞賛し続けたものです。

 

② プログラム構成;

ショート・プログラムで1回、フリー・プログラムで2回、実に3回ものトリプル・アクセルを入れてきました。

世界を見渡しても、トリプル・アクセルを国際試合で成功させ得る女子は、その当時から浅田選手ひとりでしたが、その彼女ですら、成功率は必ずしも高くはありませんでした。

それなのに、1試合に3回も!

 

問題はそれだけではありません・・・・その当時のルールや、ジャッジの採点傾向("離れ業"よりもワザの完成度重視)から言っても、そうした戦略が時代に合わないこと(=勝負に勝てないこと)は、一部の専門家からも指摘されていました。

 

そうした中、彼女は、「それ以上体脂肪を減らしたら将来子供が生めなくなるかもしれない」との忠告を振り切ってまで体脂肪率を下げ、トリプル・アクセルを3回確実に跳べるよう懸命な練習を続けました(ちなみに浅田選手は、子供を10人以上欲しいと言うほどの子供好きです)。

 

 

<不幸にも的中した予言>

2009年9月からスタートしたオリンピック・シーズン、彼女の戦績は、国際舞台デビュー以降、未だかつて見たことのない惨敗続きとなりました。

浅田選手のキャラクターと楽曲の表現内容とのミスマッチはもちろんのこと、ただでさえ成功率の低いトリプル・アクセルに過度に依存した"博打"のようなプログラム構成が、彼女を過度にナーヴァスにし、トリプル・アクセルの成功率をさらに一層低くしただけでなく、他のジャンプや、本来、ピカイチだったスピンやステップの精度まで低下させていました。

結局、10月から11月の「グランプリ・シリーズ」での異様なまでの不振のため、12月の「グランプリ・ファイナル」への出場権すら得ることはできませんでした。

4シーズン前、15歳で「グランプリ・ファイナル」に出場し優勝した時とは別人のような姿に、多くの人々は愕然としたものです。

 

テレビで試合の解説をしていた荒川静香さんは、「今なら、オリンピックに向けて、プログラムを変えることもできるから・・・」と、暗に今のプログラムでは勝算がないことを仄めかしていました。

 

しかし、タラソワ・コーチは、そういう決断はしませんでしたし、浅田選手側も、彼女のもとを離れるという決断をしませんでした(荒川さんは、4年前のトリノ五輪直前、それまで師事していたタラソワ・コーチのもとを離れました。トリノ五輪優勝)。

 

そして迎えたバンクーバー五輪。

シーズン中の戦績から言えば、優勝どころかメダル獲得すら不可能に思えましたが、浅田選手は、ベスト以上の力を発揮して、2位・銀メダル!

あの状況の中で、本当によく頑張ったと思いますが、優勝した韓国のキム・ヨナ選手には圧倒的な大差をつけられての敗北でした。

 

 

<「不変と革新」から言えること>

 

「不変」の対象とされるべきものに、中核能力としての「メタ・コンピタンス」が挙げられます。

 

前回の記事でご紹介したマルハ・レストラン・システムズ(現在のMRS)の小島由夫社長は、それを、「お客様から見て愛情の対象になっている部分は決して変えてはいけない」と、たいへん的確に表現されていましたね。

 

結局、タラソワ・コーチは、浅田選手の有する「不変」であるべき部分に対して、「革新」のメスを入れてしまったために、結果として、彼女の持ち味は封殺され、彼女は完全に精彩を失い、成績も低迷したということではないでしょうか?

 

まず、ロシアの虐げられた民衆の苦悩・怒り・悲哀を表現するというプログラムの世界観設定は、その典型です。

 

また、トリプル・アクセルにのみ過度に依存した博打的プログラム構成もまた同様です(浅田選手がそれを望んだから・・・という報道もありますが、選手のアイディアだけでうまく行くなら指導者など必要ないということになります)。

 

彼女は、何もトリプル・アクセルがなければ勝てない、それしか取り柄のない選手などでは決してないのです。

 

2008年3月の世界選手権において、彼女はトリプル・アクセルを跳べませんでしたが、優勝しています。

 

スピン、ステップなどを含め、それほど、技術的なバランスの良い選手なのです。

 

 

<浅田選手の今シーズン>

浅田選手は、(つい最近やっと決まったのですが)佐藤信夫コーチについて、今シーズンを戦うことになりました。

佐藤コーチといえば、男子の小塚崇彦選手のコーチとして、そして、昨シーズンまでは中野友加里選手(現・フジテレビジョン社員)のコーチとしてお馴染みですね。 

 

今回の「ジャパン・オープン」で浅田選手が披露した新プログラム(フリー・プログラム)は、リスト作曲の「愛の夢」第3番を用い、浅田選手の持ち味をよく生かす方向で作られているように思います。

 

換言するならば、彼女の「不変」であるべき部分を、しっかりと守っているということです。

 

では、環境変化に適合した「革新」は???

 

着任後、まだ日の浅い佐藤コーチのもとでの新プログラムに未だ習熟していないためか、トリプル・アクセルを含む4つのトリプル・ジャンプに失敗(不発or転倒)し、成功したのはトリプル・サルコーのみという有様で、得点も92点に留まったために、プログラムの全体像は、必ずしも、明確ではありません。

しかし、今シーズンの目標は、何か新しい「革新」を行うというよりは、タラソワ・コーチ時代に封殺された彼女の優れた持ち味の数々を、"原状回復"することにあるのではないか、と私は思いました。

 

そして、その上で、来シーズン以降、「不変」の対象を貫徹しつつ、「革新」にも取り組み、2014年のソチ五輪を目指すのではないかと。

 

今月末から始まる「グランプリ・シリーズ」で浅田選手が、どんな戦いぶりを見せるか、要注目です!!

 

 

(実は、それ以上に注目されるのは、今シーズンからシニア・デビューする"浅田真央2世"村上佳菜子選手です。おそらく、ソチ五輪では、彼女が日本女子フィギュアのエースとしての重責を担うことになることでしょう! 彼女については、後日、また別途、記事を書こうと思います)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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