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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

クラウド効果は、コスト削減よりもビジネス・スピードの向上

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 クラウド・コンピューティング・モデルの適用は、従来のコンピューティング・モデルと異なり、お金さえ支払えば、好きなだけの容量のコンピューティング・リソースを利用することができる。そういう意味では、クラウドを活用する上でROI(投資対効果)を考えないわけにはいかない。

「The Future of Business Computing is Here」というテーマで、シリコンバレーにて開催された「Cloud Connect Conference」では、業界リーダー、アナリスト、コンサルタント、エンドユーザーの立場からクラウド適用におけるTCOとROIについて活発な議論がされた。(基調講演のプレゼン資料はこちらからダウンロードできるので抑えておきたい)

 今回は、クラウドのROIについてのパネル・ディスカッションの様子を紹介しよう。

クラウドの投資対効果の測定は難しい?
結論から言うと、「IT資産をデータセンターからクラウドへ移行する際のROI計算手法は存在するが、コスト削減効果の期待は、クラウドへ移行する際の僅かな理由でしかない。」ということだ。

 コンサルティング会社のSugatuck Technologyの創設者であるビル・マクニー氏(Bill McNee)によれば、「従量課金制のクラウドサービスを利用することは、自社のデータセンターで維持管理するよりも安価である。しかしながら、クラウドに移行したいというビジネスは、「Business Disruption Cost(ビジネスの途絶コストとでも訳そうか)」を計算する必要がある。いくらITコストを30%削減したとしても、このビジネス途絶コストで相殺されてしまうことになるだろうとの見解。

 また、「コラボレーション・アプリケーションなどのいくつかのアプリケーションは、クラウドに向いているが、全てのアプリケーションが向いている訳ではない。」と述べ、オンプレミス環境のアプリケーションがキャパシティ制限に近い状態で稼働していて、利用のバラツキが低いのであれば、クラウドに移行するより、そのままにしておいた方が良いとの見解。つまり、クラウドは既存のアプリケーションよりも新しいアプリケーションに適用する方が向いているとも言える。

 同氏は、「IT予算の70%は、既存システムの維持に利用されているが、これから12ヶ月から24ヶ月の間に、残りの30%の新規プロジェクトに費やされるIT投資のうち20%がクラウドに利用される。」と予測。そして、2014年までには、クラウド投資は、新規プロジェクトIT投資の55-60%に拡大すると言う。この新規プロジェクトIT投資は、時間の経過とともに既存システムとなる。つまり、2014年には、全体IT予算の25-30%をクラウド関連経費が占めることになると結論づけた。

クラウド適用に向いている4つのタイプのアプリケーション
 議論は、「どのアプリケーションがクラウドでの運用に適しているか?」という話に移った。マイクロソフト社のWindows Azureビジネス戦略担当のディアン・オーブリエン氏(Dianne O’Brien)によれば、「そのアプリケーションがどのような振る舞いをするかにかかっている。」とのことで、クラウドに適したアプリケーションは以下4つのタイプに分類できるとの見解。

  1. 「ON and OFF」:流通店舗とカード会社との間で行われる夜間バッチ処理に代表されるように、トラフィックが散発的に発生するようなアプリケーション
  2. 「Growing Fast」:人気のソーシャルネットワーキング・サイトやオンラインゲーム・サイトなど急成長するようなアプリケーション
  3. 「Unpredictable Burst」:通常はトラフィックの少ないサイトだが、人気テレビ番組などで取り上げられて急遽にアクセスが殺到するような予測不可能なバーストがおこるアプリケーション
  4. 「Predictable Burst」:年末商戦を迎えるオンラインショッピング・サイトなど、一定期間や時間にアクセスが殺到するような予測可能なアプリケーション

クラウドのTCO/ROIシミュレーション・ツールの効果は如何に?
 マイクロソフト社のオーブリエン氏によれば、同社では、Windows Azureへの移行効果を事前に積算可能なTCO/ROIシミュレーション・ツールを提供しているという。これを利用することで即座にクラウド移行時の月額・年額コストが積算できる。また、セールスフォース・ドットコム社のアリエル・ケルマン氏(Ariel Kelman)氏からも同様にTCO/ROIシミュレーション・ツールが紹介され、同社の提供するPaaS (Force.com)上で、アプリケーション開発をすると、オンプレミスでの開発と比較して、十分なコスト削減効果を享受することができるとのこと。

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 しかしながら、コンピュータ・アソシエイツ社のスティーブ・オバーリン(Steve Oberlin)氏によれば、「クラウドの費用対効果を、コスト削減の観点から見ることは、あまりにも短期視点すぎる。計算するのは難しいが、Agility(機敏性)の向上がもっと大切なのではないか。」と反論。機敏性のあるビジネスとは、コンピューティング容量をマーケットの変化、新製品の開発、市場への速やかな展開などを考慮して、スケールアップしたりダウンしたりすることで、「このクラウドのAgilityは、皆さんが考えている以上の価値をもたらす。」とコメント。

 また、「IT予算の平均は、企業の売上高のわずか2-4%程度である」ことを指摘し、Agilityによる従業員の生産性の向上は、クラウドへ移行に要したコスト以上に見返りのあるものであるとのこと。「例えば、クラウドサービス事業者からのサーバー・インスタンスは12¢/時間。従業員一人あたりのコストを$160,000/年とすると、$76.92/時間、1秒あたり2¢/秒という計算になる。もし、サーバーを追加してアプリケーションを稼働させる時間を、クラウドに移行して短縮することで、従業員一人あたり毎時6秒の時間を節約することができれば、損益分岐点に達成するという計算になる。」とコメント。確かに計算上はそうなるが、少しこじつけのような感は否めなかった。

 本パネル・セッションを聴講して感じたことは、自分の身近に、このクラウドの「Agility面」の恩恵を受けることになるビジネス・シーンが存在するということ。スピーディーなビジネス展開という、お金には変えられない価値を見出すことができる。

 例えば、当社では、お客様へのシステム提案構成を裏付ける事前評価や、新規事業をスタートするのに、新規ベンダー製品の評価は欠かせない。あるソフトウェア製品を評価しようと、サーバー5台を用意するとなると、技術部内の空いている資産を探すところから始まる。運悪く空いているサーバーが無ければ、他部からの借用を交渉したり、新規に購入したりすることになる訳だが、購入するとなると見積を数社から取り、比較した上で発注。2週間後に納品され、それからラックマウントして、パッチを当ててOSを揃えてなどなど、評価開始までに3-4週間かかることはざらにある。とにかく、時間がかかるのだ。

 それが、社内のプライベート・クラウド(評価検証用)を利用すれば、テンプレートからサーバースペックを選択し、数分後には新規ベンダーのソフトウェアの評価が実施できる。エンジニアの仕事の本質は、サーバー5台を準備することではなく、ソフトウェアの評価をすることだ。

 プライベートクラウド環境で、上記を実現するのであれば、仮想化のみならず、利用当事者がオンデマンドで利用可能なセルフサービス・ポータルを提供し、プロビジョニング作業を自動化することが必要になってくるだろう。今回のカンファレンスに出展していたVMOps社Enomaly社などのスタートアップ企業は、このセルフサービス・ポータルを提供し、テンプレートを自由に作成することができ、5台の仮想マシンは、当事者がわずか3分で作成することができる。XenやKVMなどの複数のハイパーバイザーに対応し、これらのニーズを満たすクラウド管理ツールと言える。仮想化ホスティングを提供している国内のサービス事業者は多いが、本当の意味でのクラウドサービスとは、セルフサービス・ポータルを介して即座にコンピューティング・リソースを提供し、ビジネス・スピードを向上させることができることと言っても過言ではない。

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