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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

2010年CESのトレンドはこれ!ENO's Top 3 Trends to Watch

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 今年も、世界最大の家電見本市、「コンシュマー・エレクトロニクス・4253179242_7569face3a_4 ショー(CES)」が、1月7日〜10日の会期で、ラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)にて開催された。関係者によると来場者は14万人で昨年と同じ。出展者は昨年より200社少ない、2500社程度であるが、そのうち330社が、初参加のベンダーとなっている。今回は、SANS会場を使わなかったとのことで、LVCC会場は通路が狭くなっていたこともあり、昨年以上に人が溢れていたように思われた。(昨年のCESの様子はこちら)

 基調講演に先立ち、全米家電協会(CEA)のCEO、ゲーリー・シャピロ氏は、2009年家電業界市場を振り返った。同氏によると「2009年は大変厳しい年であり、家電出荷数は昨年比10%増にもかかわらず、売上高は昨年比7%減という結果。」とのことで、これは過去20年で初めての経験であり、世界中に広がった経済不況は、消費者の購買意欲に大きな影を落としたことになる。

 しかしながら、同氏は「あらゆる消費者意識調査を総合的に判断すると2010年は、再び市場拡大へ向かうだろう。」「不況を打破する最も最適な方法は、新製品の発明にある。」とし、技術革新を支援する「The Innovation Movement」を展開するなど、今回のCESで生まれる新しいイノベーションが、消費者需要拡大に繋がることに期待を寄せていた。

 展示会場は、昨年同様に、ビデオ・オーディオ、ホームネットワーク、ホームシアター、ワイヤレス、ゲーム、ロボット、モバイル、スマートグリッドと幅広いカテゴリーをカバーしているが、個人的な観点から「ENO's Top 3 Trends to Watch」と題して、今回のCESの3つのトレンドを挙げてみたい。

  1. Beyond HD TV(高画質を超えた次世代テレビ)
  2. NextGen Home Network without Cable(次世代ホームネットワーク)
  3. Innovation for Mobile Device(モバイル端末の進化)

コンテンツを多角化して捉える視聴者に対応する家電メーカー

 高画質薄型テレビの次にくるものとして、注目を浴びていたのが、「3D対応テレビ」とOver the Top(OTT)Videoと呼ばれるインターネット経由の動画視聴に対応した「IPTV」だ。HD対応テレビを超えるトピックとしてこの2つは外せない。

 サムソン、LG、パナソニック、ソニーのブースでは来場者にメガネを配り、迫力あるコンテンツを体験させていた。ソニーの説明員によると、2010年夏には、スポーツチャンネル「ESPN」のメイン・スポンサーとして、ワールドカップ・サッカーを3Dで放送するという。そのタイミングで、3D対応テレビの発売予定とのこと。

 ちなみに、「Best of CES Award」全カテゴリーの中で「Best in Show Award」に輝いたのは、パナソニック社の「VT25 プラズマ 3Dテレビ」。東芝やサムソンも2Dと3Dを統合した製品を出展していたが、これらの製品は、2Dのコンテンツを3D効果がでるよう変換する必要があった。同社の製品はそれらのプロセスをすることなく3Dのソースをダイレクトに配信することができる。また、同社がDirecTVとの提携を進めたことにより、3Dチャンネルを3D対応テレビで試聴することができる。

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「Best in Show Award」に輝いたPanasonic VT25

 家電メーカーによるコンテンツの拡充も進展している。各家電メーカーは、レンタル・ビデオ大手のブロックバスターと提携するなど、各種コンテンツを集める一方、単に動画を見せるだけではなく、ソーシャルネットワーキングサイトを活用したユーザー同士の交流の場を与えている。これは、コンテンツを多角的に捉え始めている視聴者のニーズに対応したとも言える。

 また、パナソニックとLGの2社は、Skype対応の薄型テレビを2010年半ばに発売する見込みと発表した。Skypeビデオに最適化されたHD対応Webカメラを提供することで、多少離れていても明瞭な音声と映像が得られるという。

 例えば、遠くに離れた田舎のおじいちゃん、おばあちゃんは、PC操作はハードル高いも、テレビのリモコン操作で、かわいい孫と会話をすることができたり、留守電ならず留守映像も近い将来実現されることが期待できる。Skype同士の通話は無料で、携帯電話や固定電話への通話も経済的であることから、品質をクリアした今、圧倒的に優位なコミュニケーション手段となるだろう。

面倒なケーブル接続作業は、もういらなくなる?

 ホームネットワークの進展に伴い、各家庭にはケーブル事業者から配布されるSTBや、DVR(デジタルビデオレコーダ)、インターネット対応テレビなど様々なケーブルが家の中に存在しているのが現状。新しい家であれば、各部屋にイーサネットケーブルを引き回すのも一苦労といったところ。そこで注目を浴びているのは、ホームネットワークのワイヤレス化だ。

 D-Link社トニー・ティサオ氏(CEO)の基調講演によれば、「PCのみならず、ハードディスクやホームサーバ、テレビ、冷蔵庫など全てのデジタル・デバイスがワイヤレス接続され、管理される時代になる。」とし、2010年Q2に出荷を予定している「ワイヤレスアダプター」のニーズの高さに期待していた。

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オープンソースベースのホームサーバー「D-Link BOXEE BOX」

 そして、D-Link社の提供するホームネットワーク製品群の中で、特筆すべきは「BOXEE BOX」 だ。これは、オープンソースベースのIPTV対応ホームサーバーで、インターネット上のアプリケーションやコンテンツを、お茶の間のテレビで楽しむことができる。ユーザーは、テレビの前のソファーからリモコンひとつで、映画、音楽の視聴、FlickerやPicasaなどの写真共有も可能だ。もちろんワイヤレス対応している。民放局NBCの取材も入るほどブースは来場者で溢れていた。

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「Best of CES Award」にノミネートされた「BOXEE BOX」

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「BOXEE BOX」のデモの様子

Google自社ブランドの「Nexus One」で「iPhone」に対抗!

 端末系のトピックとしては、マイクロソフト社のスティーブ・バルマー氏(CEO)が、基調講演の中で、Windows7搭載の「スレート(石版の意味)PC」をリリースする他、デルもこの市場に参入を表明。アマゾンの電子書籍端末「Kindle」やソニーの「Reader Pocket」などの電子書籍が話題であったが、スレートPCはWindows7が搭載されカラー表示もできるとして注目されていた。

 しかし何といっても注目は、Googleのスマートフォン端末「Nexus One」であろう。同社は、自社ブランドのスマートフォン端末を披露し、自ら消費者家電市場に旋風を巻き起こした。携帯OS 「Android(アンドロイド)」を搭載したタッチパネル・タイプの端末で、アプリケーションや画像アルバムなどのアイコンが3D表示されたり、ノイズキャンセラー機能搭載により、音声認識・検索が向上している。

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Google、自社ブランド端末「Nexus One」を披露

 通信キャリアは、ベライゾン、Tモバイル、ボーダフォンを選択し、スマートフォン市場をリードするiPhone・AT&T連合に攻勢をかける形となる。日本語対応もしており、遅かれ早かれ国内メーカーによる製品化も進むのではないか。

 マッカラン空港から飛び立つ帰りの飛行機で、配下に広がるラスベガスの街を眺めながら、ふと、Interop 2007、シスコのジョン・チェンバース氏の基調講演が頭を過ぎった。「コンシューマーで培ったノウハウが、エンタープライズに適用される。」

 今回のCESを通して感じたことは、日々の生活のあり方が変わろうとしている。PCを操作せずにして、お茶の間でのインターネットが当たり前になる時代、物心ついたころから、デジタル環境(インターネットやPC、携帯端末)を水や空気と同じように触れているデジタル・ネイティブが台頭する時代。これらの変化を肌で感じながら、イノベーションをベンチャースピリットを持って追い続けたい。

 

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