書籍紹介 5 : 「ヒューマン・シグマ」J.H.フレミング/J.アスプランド
シックス・シグマを知らないビジネス・パーソンは少ないでしょう。1980年代に米モトローラが開発した品質管理手法、または経営手法で、「100万回の作業を実施しても不良品の発生率を3.4回に抑える」ことを目標としたものです。ヒューマン・シグマは著者が顧客と従業員、あるいは顧客と企業の関係性をこのシックス・シグマの手法を応用し、関係性の質の重要性を科学的な検証を用いて説明したものです。
人類とは、理性よりも感情に支配される生物である
サミュエル・アダムス(米国の国家主義者)
著者が書の中で取り上げている上記の引用がこの書の要約と言えます。
マーケティングに於いて顧客との関係性はいくつかの変遷を経ており、単なる商品を購入してもらう対象(ターゲット)から、顧客満足度を向上させ継続的に購買あるいはサービス利用をしてもらう関係性を築く対象、そして近年は一緒にものを作ったり、知人に推奨してもらったりする共創関係=エンゲージメントを築く「パートナー」として考えられている。本ブログはこの顧客とのエンゲージメントを感がるブログであるが、この書はその拠り所の一つとして上げられます。(お恥ずかしい話、最近知人から教えてもらったのですが..)
著者の属するギャラップ社は過去50年、1000万人以上の顧客インタビューで、顧客と企業との関係の本質についての調査を行い、そして、次の6つの基本原則を見出しています。
- 顧客をただ満足させるだけでは十分でない
- 顧客との関係を形づけるのは感情である
- 顧客との結びつき=健康である
- 顧客は企業に対して、常に同じ感情を抱いているわけではない
- バラつきは企業の名を傷つける
- すべての政治は現場で決まる
そして、単なる満足度だけでない「情緒的な価値」を顧客と共有している企業やブランドがその顧客の生涯価値(Life Time Value)が、「合理的な価値」のみの共有している企業より高いことを証明しています。その証明方法は極めてユニークで、被験者に上記を引き出すための11の質問(ギャラップCE調査)をfMRIで脳をスキャンしながら、どの項目に脳のどこがどうが反応したかで検定し、その被験者の利用動向と脳スキャンとの結果を照らし合わせるという極めて科学的な手法を採用しています。
この結果、業種ごとによってその程度は異なりましたが下記のような違いがでています。
- 高級セレクトショップで情緒的な価値に共感している顧客(情緒的な支持者)はそうでない顧客(合理的な支持者)の年間約4倍の買い物をしている
- 国際的なプライベート・バンキングでの資産運用シェアは29ポイントも違う
- 国際的なホテルでの宿泊総数では11ポイントの違う
- 国際的なカード会社では情緒的な支持者は合理的な支持者より半年の利用金額で約1.9倍、月間平均利用回数も1.24倍であった
上記は満足度レベルでは同等であったにもかかわらず、結果に相違がでています。
この本ではヒューマン・シグマ・マネージメントの核をなすルールを下記の5つ定めています。
- 多様性の統一。従業員と顧客の経験を、別々のものとして管理しようとしてはならない。経験はひとつの部門で一緒に管理されるべきである
- 感情こそが現実であり、感情が従業員と顧客のコンタクトの質を決定づける
- 従業員と顧客コンタクトの質は、従業員と顧客が実際に接する現場である末端組織で評価・管理されなくてはならない
- 従業員と顧客とのコンタクトの質やそこから生まれる効果は、単独の指標=ヒューマン・シグマを使って定量化し、要約することができる。その結果はビジネスとの相関性が高い
- 従業員と顧客のコンタクトの質を改善するためには、末端組織レベルでの取り組みと組織的な改革の両方を計画的に実施し、外部から定期的に、積極的な助言や指導を活用する
ここ数年、特にコンタクセンター周りでの実施されていた顧客との対話品質調査は、マニュアル通りに答えられていたかが主であったが、Beyond CS(Customer Satisfaction)はこのヒューマン・シグマ=いかに顧客と情緒的な価値を共有できるかが重要になってきています。