保険金不払い問題で揺れる保険業界の切り札とは?
ITmediaでは、日本の企業経営を担うエグゼクティブを対象にしたSNSコミュニティー、「ITmeidaエグゼクティブ」をこの春から運営しています。12月中旬には、「情報管理」と「ビジネスプロセス管理」という、いま企業の情報システム部門が直面する2つの大きな課題をテーマに掲げ、ラウンドテーブルを開催しました。12月24日版のITmedia Podcast「マンデー・エンタープライズ」では、この話題を取り上げてみました。
オルタナティブ・ブロガーとして活躍しているテックバイザージェイピーの栗原潔さんは、情報の管理や活用ということでは第1人者のひとりでもあります。得意分野ということで、ラウンドテーブルで講演をお願いしました。
栗原さんの講演は、「情報活用」という幅広いテーマでしたが、要約すると、「データは、それ単体ではなく、背景情報(コンテキスト)と組み合わせて評価すべきであり、ビジネスプロセスの引き金としてアクションにつなげることで、さらにその価値が高まる」とメッセージにまとめられそうでした。そして、かつては独立した領域と考えられていた定型データの分析(ビジネスインテリジェンス)、背景情報になり得る非定型コンテントの管理、そしてビジネスプロセスをPlan、Do、Check、Act(PDCA)のサイクルで改善していくビジネスプロセス管理、つまり「BPM」が、しだいに融合しつつあり、ハイブリッド化が進行しているということにも気づかせてくれました。
実はこのラウンドテーブル、保険金不払い問題で揺れる保険業界のエグゼクティブを対象に企画し、三井住友海上火災保険のIT推進部で損害サービスと海外システムを担当する玉田孝一郎部長にも同社の業務改革の取り組みについてお話をいただきました。
2005年以降、保険会社の保険金不払い問題が相次ぎました。損害保険大手の三井住友海上火災も例外ではありません。2006年7月には金融庁から行政処分を受けています。
この行政処分を境に同社は、抜本的な経営管理態勢の改善に乗り出しました。今年3月には、他社に先駆けて不払いの調査結果を発表し、再発防止策も取りまとめています。
玉田氏は、「顧客基点の品質向上を基本戦略とし、信頼を勝ち取り、それによって成長するという変革にグループを挙げて取り組んでいる」と話します。折しもこの三連休から、保険商品の銀行窓販も全面解禁されました。
品質向上に向けた業務改革には、情報システム部門も重要な役割を担っています。今年2月に設置された損害サービスイノベーションプロジェクトチームには情報システム部門の参画が求められ、ビジネスとITが一体となって顧客基点の業務プロセス改革に取り組んでいるそうです。
「顧客不在の事務処理があったり、顧客の問い合わせにも十分応えられず、それが顧客の不満や不安につながっていた」と玉田氏は話します。
2005年、従来型の開発手法に行き詰まりを感じていた玉田氏は、ビジネスプロセスモデリングやBPMに注目し、技術や製品に関する調査研究に着手しました。仕事のやり方を見える化するビジネスプロセスモデリングによって、顧客の不満や不安を生むプロセスを改め、あるべき姿を策定、一部の損害サービスセンターにおけるパイロット検証を経て、来年10月から新たなビジネスプロセスを全国に展開していく計画といいます。
こうした業務改革の取り組みを一過性のものとして終わらせないためには、ビジネスプロセスをPDCAのサイクルで改善していくBPMが優れているのは確かです。ITの支援によって継続性が実現できるからです。業務の変化に対応したり、統制を効かせることもできます。しかし、すべてのビジネスプロセスをBPMに実装するのはナンセンスだし、どの業務をどの粒度で実装すべきか、など課題はたくさんあります。調査研究活動の結果、「最終的にはBPMを導入しないという判断もあり得る」と玉田氏は指摘します。
栗原さんは、最強のビジネスプロセスエンジンは、人の頭だと話します。ITはあくまでツールに過ぎないのです。