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企業アカウントと人間性に関する考察 - 「ビジネス・ツイッター」書評

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ループス斎藤さん絶賛「ビジネス・ツイッター」 。まだ読み途中なのだが、1ページめくる度にとても刺激を受けている。まず最初の「イントロダクション」が、これから始まるツイッターという名の”ドラマ”の始まりを予感させる。

ジェイムズ・バックのツイッターメッセージは、たった一語だった。「逮捕された」(Arrested)。この「つぶやき」がやがてジェイムズ・バックを留置場から救出し、私にこの本を書かせるきっかけとなった。しかし、2008年4月10日、午前9時33分、われわれ2人はどちらもそんな展開になることとは知らなかった。バック青年はこのとき、エジプトのナイル河口の都市マハラで、パトカーの後部座席に乗せられて留置場に連行される途中だった。 

イントロダクション P.11

バックはアメリカの大学院生で、写真ジャーナリズムを専攻。マハラには食糧問題に端を発するストライキを撮影するためだった。逮捕は不当逮捕で、エジプトの警察官による暴行は以前から問題視されており…このあとどうなったかは本書で確認いただきたい。

書名には「ビジネス」と名が付いているとおり、豊富な企業ツイッター活用事例が紹介されている。ただ、著者のシェル・イスラエルは企業の利用でも「個人と個人とのコミュニケーションが大切」というスタンスで一貫して貫いている。

このイントロダクションで紹介された話は企業の事例ではないが、いかにツイッターが「人の人生そのもの」であるかということを紹介しているのだと思う。人の一生は、それ自体が物語であり、ツイッターはその物語の一部を「つぶやき(tweet)」で切り取ったものだ。1人1人のタイムラインは、その人が誰をフォローするかによって異なる。その人だけの物語がTLには流れているのだ。

■企業のTwitterアカウントはどうあるべきか
著者のスタンスが良く現れているのが、「ロゴ・アカウント」への批判である。
ロゴ・アカウントとは、企業のロゴマークをアイコンにして、なおかつ誰が発言しているかを明示していないアカウントのことを指す。

私自身はあまり好ましいやり方とは考えていないのだが、大半の企業がこうした匿名でつぶやくアプローチを取っている。私としてはどんな場合でも、ただのロゴより生身の人間を相手する方がいい。コーラの缶などに話しかけても面白くないと思う。  P.168

一方、日本では「軟式アカウント」と呼ばれるものがある。私自身の理解としては「企業の公式なtwitterアカウントで、そこで不特定多数とコミュニケーションを取っている」=「軟式アカウント」だと言われているような気がしている。この定義は色々とあるとは思うが、以下の4つのうち1と3がごっちゃにされているのではないだろうか。

  1. 担当者明記 + 会話あり (つぶやきの後に「^山岡」と付けるのもこれに当てはまる)
  2. 担当者明記 + 会話なし (一方的な発信のみ。すでにブランドが確立されていればあり?)
  3. 担当者不明 + 会話あり (ロゴ・アカウント。これが最も多い?)
  4. 担当者不明 + 会話なし (ロゴ・アカウント。リリースなど言いたいことだけを発信する。botと間違われないように気を付けて!)

私も、出来ればその企業の中の誰がつぶやいているのかは知りたい。人間味が感じられる発言内容であればもちろん「親近感」が沸くが、それが誰の発言なのかを知ることで、より「信頼感」が得られる可能性は高いと思う。

ただ、企業の目的や事情によって違うアプローチを選択するというのはもちろんあるだろう。本書で紹介されている事例のなかでは、「エバーノート」が4番を選択している。

(前略)  しかしオープンソース文化の上に優秀なサービスを作り上げた企業が、ツイッターでは主として在来のPR手法である一方的なメッセージ伝達しかしていないのを発見して、私はいささか驚いた。しかもこの新しいベンチャー企業は2009年5月時点で2万人近くのフォロワーを集めているのだから、私の当惑は深まった。

文中ではフォロワー2万人と書かれているが、1年後の現在、2010年4月時点では4万人以上がこのアカウントをフォローしている。

@evernote
http://twitter.com/evernote

一方、エバーノートのWEBサイトの企業概要のページには「The Team」という項目があり、そこではCEOを始めとしたチームメンバーの個人アカウントが紹介されている。彼らは実名、顔出しでそれぞれtwitter上でも会話を交わしている。もしやロゴ・アカウントだけの戦略はやめたのだろうか、と思ってフォロワー数を見てみると、思ったよりも少なかった。CEOで2,000程度、そのほかの社員は数百から数十というものもあり、引き続き公式のTwitterアカウントが主たる告知ツールとして使用されているようだ。
http://www.evernote.com/about/corp/team.php

ちなみに、著者はロゴ・アカウントには否定的な立場だが、エバーノートというサービスそのものは気に入っている。それを表した下記の文章は、強く私の心に残っている。

 私はこういうサービスを必要としている。しかし将来エバーノートのライバルが現れて、それが少しでもエバーノートより優れていることがわかったら、私はちゅうちょなくそのライバルに乗り換えるだろう。というのも現在のエバーノートの方針では、私がこの会社と意味のある双方向の関係をもてる可能性はなさそうだからだ。

 とはいえ、私がエバーノートで学んだ大きな教訓は、製品そのものの優秀性はソーシャルメディアに関する戦略よりもずっと重要だということだ。


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