電子書籍ビュワーに必要な条件を挙げてみて分かったこと
講談社に続いて文藝春秋社も独自ブランドで参入。大手出版社が次々とiPhone/iPadでの電子書籍出版に本気で取り組んでいることが明らかになっています。内訳は明らかではありませんが、講談社の京極夏彦「死ねばいいのに」は1万部を超えたとか、紙の書籍へのポジティブな宣伝効果があったとか、この分野にとってははっきりとした追い風になっています。
前回はサービス面から国内の電子書籍サービスを見てきましたが、次にビュワーについて考えてみました。
iBookstore、Kindleにある機能から主要なものをピックアップ:
・本棚(ビュワーから読める書籍一覧)
・ブックストアへの誘導
・フォント種類選択
・フォントサイズ選択
・背景色選択
・明度選択
・しおり(ブックマーク)
・ノート(メモ)
・ハイフネーション、禁則処理
・テキスト選択(本文内検索、ネット検索、辞書連携)
・目次
・ゲージ(現在位置表示)によるスライド移動
・ページめくり(タップ and/or フリップ)
・縦の場合は1ページ、横の場合は見開き表示
・文字の拡大・縮小(ピンチイン、ピンチアウト、ダブルタップ)
・Project Gutenbergへのアクセス
・PDF閲覧
両方のビュワーに全機能が入っているわけではありませんが、ほぼ共通。ただし、思想が違います。iBookstoreはこれらがすべて常時表示されているのですが、Kindle for iPadでは本文以外の要素はページ数とタイトル以外は非表示となっています(下の画面は、画面下部をタップして表示させたもの)。
テキスト選択は、iBooksとKindleはこのようになっています:
これに日本独自の追加機能を入れる:
・縦書き
・縦書き用フォント追加
・縦書き←→横書き変換
・青空文庫へのアクセス
これらがほぼ完璧に入っているのがi文庫HDと言えます。その豊富な設定は、ビュワーに取り組む人たちならぜひ見ておくべきでしょうね。というか、見ていない人はいないでしょう。i文庫HDの中からどこを選び、どこを削り、さらに新しい何を追加するか、ということで独自性を見いだしていくことになるのではないでしょうか。
i文庫HDの豊富な機能を説明するような画面をいくつか挙げておきます:
なぜi文庫がここまですごいものになったかということを考えると、それは青空文庫に行き着きます。
iPhoneが出たときから青空文庫はほぼ唯一といっていい電子書籍ソースであり、数多くのビュワーアプリが登場しました。初期の機能競争については、このブログでも何度か触れています:
・ありそうでないiPhoneアプリとその理由
・【Wikipedia】ネット環境なしのiPhoneで使える「史上最強の読み物」を手に入れた【青空文庫】
・縦書き、オフラインで青空文庫を読める文庫リーダー・「soRa」
・iPhone用青空文庫リーダー、もう不満はない
ぼくがiPhoneに青空文庫がほしいといっていたのが2008年7月で、10月には横書き青空文庫リーダーが出て、11月には最初の縦書きリーダー登場。同月、i文庫のiPhone版が出たとき、ぼくは「もう不満はない」と宣言しています。青空文庫リーダーとしては、この時点で完成されたのだと思います。
つまり、Kindle for iPhoneよりも1年も前にできていたわけです。同時期に複数のビュワーがほぼ同等の機能を実現しているので、この市場の激しい競争が作り上げた完成度とも言えます。
それから1年半。iBooks、Kindleと、黒船が押し寄せていると見る向きもありますが、ビュワーから見れば、日本の青空文庫ビュワーのほとんどが、iBooksやKindleに比肩しうる機能を備えているのです。実際、青空文庫リーダーのSkyBookは、ダイヤモンド社の電子書籍のベースになっていますし。
もちろん、ボイジャーのドットブックリーダーはさかのぼればフロッピーやCD-ROM書籍の時代からですし、モリサワ自身が開発に乗り出しフォントまで内蔵する文春のリーダーアプリもでてきました。前のエントリーで、日本の電子書籍のサービス部分に関する不満点を挙げましたが、リーダーアプリそのものについてはおおいに期待しています。