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光通信関連市場、CPO(Co-Packaged Optics)市場は2030年に166倍超の驚異的な成長市場へ

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富士キメラ総研は2026年1月20日、光通信関連の世界市場に関する調査結果「2026 光通信関連市場総調査」を発表しました。

本調査は、生成AIの急速な普及とデータセンターへの巨額投資を背景に、2030年の市場規模や技術トレンドを予測したものです。ここで示された数字は、単なる市場の拡大を示唆するだけではありません。物理的な「通信速度」と「消費電力」の限界に直面した人類が、コンピューティングの基盤を「電気」から「光」へと根本的に作り変えようとしている、歴史的な転換点を浮き彫りにしています。

今回の調査で提示された、光通信関連装置市場の142兆円(2024年比2.7倍)への到達、そしてCPO(Co-Packaged Optics)市場の166倍という驚異的な成長予測は、ビジネス構造の劇的な変化を予感させます。本稿では、爆発するトラフィック需要の裏にある「エネルギーの壁」という課題、CPOというゲームチェンジャーの台頭、そしてグローバルなサプライチェーンにおける競争優位性の源泉、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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生成AIが引き起こすトラフィック爆発と142兆円市場の衝撃

2026年現在、私たちが目撃しているのは、インターネットの登場に匹敵、あるいはそれを凌駕するインフラの再構築です。発表されたデータによると、光通信関連装置の市場規模は2030年に142兆7,830億円に達すると予測されています。この数字の背景には、生成AIの社会実装に伴うデータトラフィックの指数関数的な増加があります。これまでの通信需要は、人が消費するコンテンツ(動画やSNS)が主導していましたが、現在はAIが生成し、AIが処理する「マシン・ツー・マシン」の膨大なデータフローが主役となりつつある状況です。

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出典:富士キメラ総研 2026.1

光通信関連市場の拡大は、単に「数が増える」ことだけを意味しません。質的な転換、すなわち「ハイパースケール化」と「分散化」が同時に進行しています。2025年、データセンター投資はサーバー単体から、データセンター間接続(DCI)へと及んでいます。これは、ひとつのデータセンターでは処理しきれない計算資源を、光ファイバーで物理的に離れた施設と接続し、あたかも一つの巨大なコンピューターとして機能させるニーズが高まっていることを示しています。

光ファイバー市場が2030年に6,870億円(2024年比147.7%)へ成長するという予測は、この「分散した巨大脳」をつなぐ神経網としての重要性が増していることの表れといえます。海底ケーブルや陸上の幹線網への投資は、デジタル経済の血管を太く、速くするための必須条件となっており、このインフラを制する者が次世代のプラットフォーマーとしての地位を固めることになるでしょう。

「熱の壁」を突破する166倍の成長領域、CPOの革新性

本調査で最も注目が集まるのは、CPO(Co-Packaged Optics)市場の動向です。2024年比で166.9倍、14兆1,850億円という異次元の成長予測は、従来の技術延長線上にはない断絶的なイノベーションが起きていることを証明しています。なぜ、これほどまでにCPOが求められているのでしょうか。その根源的な理由は、半導体の進化を長年支えてきた微細化技術だけでは解決できない「消費電力」と「発熱」の問題にあります。

従来の電気信号による伝送は、高速化すればするほど発熱量が増大し、物理的な限界(熱の壁)に直面します。CPOは、光トランシーバーの機能をシリコンチップ上に集約し、半導体パッケージの内部まで「光」を引き込む技術です。これにより、電気信号の移動距離を極小化し、劇的な省電力化と高速化を実現します。これは、データセンターが抱える「計算能力よりも冷却能力がボトルネックになる」という存亡に関わる課題への回答となります。

2025年時点では1,130億円規模にとどまるこの市場ですが、NVIDIAなどの主要プレイヤーがラックスケールAIシステムでの採用を進めることで、2029年頃から爆発的な普及期に入ると予想されます。これは、コンピューターのアーキテクチャが「電子中心」から「光電融合」へとシフトする歴史的な瞬間であり、ハードウェアの設計思想そのものを覆すインパクトを持っています。

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出典:富士キメラ総研 2026.1

800G・1.6T時代における「垂直統合」と競争のルール

光トランシーバー市場においても、質的な変化が加速しています。市場規模は2030年に10兆7,328億円へ拡大すると見込まれていますが、その内訳は劇的に変化します。現在は400G製品が主流ですが、2026年以降は800G、そして1.6T(テラ)へと、倍々ゲームで帯域幅が拡張されていくでしょう。ここで重要となるのは、単に速い製品を作れるかという製造能力だけではありません。

高速・長距離伝送を実現するためには、LD(レーザーダイオード)やDSP(デジタル信号処理プロセッサ)といったキーデバイスの性能が決定的な差別化要因となります。調査結果が示唆するように、これらのコア部品を自社で調達・内製できる「垂直統合型」の企業の優位性が高まっています。従来の水平分業モデルでは、最新の仕様変更への追随や、歩留まりの改善スピードにおいて後手に回るリスクがあるためです。

また、1.6T製品が2026年から採用され始め、既存製品からの置き換えが進むという予測は、製品ライフサイクルの短命化を意味します。企業は、現在の主力が稼いでいる間に、次、そのまた次の世代の技術開発を完了させていなければなりません。この過酷な開発競争に耐えうる資本力と技術力を持つプレイヤーだけが、10兆円市場の果実を得ることができる過酷な淘汰の時代に突入しています。

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出典:富士キメラ総研 2026.1

地政学リスクとサプライチェーンの再構築

技術的な進化と並行して無視できないのが、地政学的な文脈です。光通信市場、特に低速領域では中国メーカーの存在感が大きい一方で、米中貿易摩擦の影響はハイエンド製品のサプライチェーンに影を落としています。キーデバイスの調達難に直面した一部の中国メーカーが内製化を急ぐ動きは、独自の技術生態系(エコシステム)が形成されつつあることを示しています。

これは日本企業や西側の企業にとって、二つの意味を持ちます。一つは、コモディティ化しやすい低速・中速領域での価格競争からの脱却が必要であること。もう一つは、経済安全保障の観点から、信頼できるサプライチェーンを構築するパートナーとしての価値が見直されていることです。特に光ファイバーやハイエンドな光アクティブデバイスにおいて、高い品質と安定供給能力を持つ企業の戦略的重要性は、以前にも増して高まっています。

市場はグローバルで拡大しますが、その供給網はブロック化する可能性があります。どこで作り、誰に売るかというビジネス戦略は、純粋な経済合理性だけでなく、国際政治の力学を読み解きながら構築する必要があります。この複雑な方程式を解くことが、2030年に向けた成長のカギとなるでしょう。

今後の展望

2030年に向けて、光通信技術は単なる「通信手段」から、コンピューティングの「基礎代謝」を決定づける核心的技術へと昇華します。CPOの166倍という成長予測は、私たちが利用するAIサービスの背後で、物理層の刷新が行われることが想定されます。

今後のビジネスにおいては、この「光電融合」の波をいかに捉えるかが重要となるでしょう。データセンター事業者は、電力効率(PUE)の改善だけでなく、光技術を前提としたファシリティ設計への転換が求められます。また、デバイスメーカーにとっては、CPOエコシステムへの参入や、キーデバイスの内製化による付加価値の囲い込みが急務となります。

残る課題は、製造コストの低減と標準化のスピードです。爆発的な需要に応えるためには、高度な実装技術の量産化確立が不可欠となります。日本企業には、素材や精密実装における強みを生かし、この新たなハードウェア・パラダイムの中で不可欠なポジションを確立することが期待されます。

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