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2026年半導体市場予測:半導体「2nm時代」の勝者と敗者

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半導体市場の動向は、世界経済の先行指標として注視されています。2026年1月、Nasdaq Global Indexesが発表したレポート「Semiconductor Research - SOX」は、半導体業界が新たな成長フェーズに突入したことを示唆しています。2025年の市場規模は前年比22%増の7,720億ドルに達し、2026年にはさらに26%拡大し、9,750億ドルに迫ると予測されています。この成長の背景にあるのは、生成AIの実装フェーズへの移行と、それに伴うインフラ投資の急増です。一方で、この急速な拡大は新たな「歪み」も生み出しています。AI向け半導体へのリソース集中が、既存の民生機器向け供給網に影響を与え始めているのです。

今回は、Nasdaqの分析をもとに、AI推論へのシフト、深刻化するメモリ不足、そして市場の二極化という構造変化について取り上げたいと思います。

AIインフラ投資の質的転換と「推論」へのシフト

AIブームは一過性のものではなく、産業構造を根底から変える長期的な潮流であることがデータから読み取れます。巨大IT企業(ハイパースケーラー)によるデータセンターへの設備投資は、2025年第3四半期に前年同期比で59%増加しました。重要な点は、これらの投資がドットコムバブル期とは異なり、企業の営業キャッシュフローによって賄われていることです。これは、現在のAI投資が実需に基づいた持続可能なものであることを示しています。

また、AI半導体の需要構造にも変化が見られます。これまでの「学習(Training)」中心の需要から、学習済みモデルを動かす「推論(Inference)」への需要拡大が鮮明になってきました。NvidiaがスタートアップのGroqとライセンス契約を結んだ動きは象徴的です。Groqは推論処理に特化した技術を持っており、Nvidiaはこの技術を取り込むことで、より広範なAIワークロードへの対応を強化しようとしています。Nvidiaの次世代プラットフォーム「Rubin」は、推論コストを従来の10分の1に削減することを目指しており、AIがコスト効率よく社会実装されるための鍵となると考えられます

メモリ市場の構造的な供給不足と価格高騰

AIシステムの性能向上に伴い、メモリ半導体の需給バランスが大きく崩れ始めています。レポートによると、2026年以降も深刻なメモリチップ不足が続くと予測されています。AIサーバーには、高速なデータ処理を可能にするHBM(広帯域メモリ)やDDR5といった先端メモリが不可欠です。Micron Technologyなどの主要メーカーは、生産能力をこれらAI向けの収益性の高い製品へ集中的に振り向けています

このシフトは、結果としてスマートフォンやPC向けの汎用メモリの供給制約を招いています。供給不足は価格高騰を引き起こし、SamsungやSK Hynixはサーバー向けメモリ価格を最大70%引き上げる構えを見せているといいます。この影響は消費者市場に波及し、半導体コストの上昇によって最終製品の需要が冷え込むことが懸念されます。実際、2026年の世界のスマートフォン出荷台数は2.1%減少すると予測されており、AIの恩恵を受ける分野と、コスト増のあおりを受ける分野の明暗が分かれる状況です

半導体株のパフォーマンスに見る「優勝劣敗」

2025年の株式市場において、半導体セクターは際立ったパフォーマンスを見せました。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)のトータルリターンは43.5%に達し、S&P500指数を26ポイントも上回りました。しかし、その内訳を詳細に分析すると、セクター内での格差が浮き彫りになります。SOX指数を構成する上位10銘柄の中で、最も上昇したMicron Technologyのリターンが240%であったのに対し、Texas Instrumentsはマイナス4%にとどまりました

この245ポイントものパフォーマンス格差は、投資家が「半導体関連」というだけで資金を投じるのではなく、AIサイクルの恩恵を直接享受できる企業を選別していることを示しています。特に、HBM市場でシェアを急拡大させたMicronや、AIチップ製造を独占するTSMC(+56%)、カスタムシリコンで存在感を示すBroadcom(+51%)などが市場を牽引しました。一方で、産業機器や自動車向けなど、従来型の半導体需要に依存する企業は、マクロ経済の不透明感や在庫調整の影響を受け、株価が伸び悩む結果となりました。

次世代プロセスとカスタムシリコンの台頭

半導体製造の最前線では、微細化競争とカスタム化が同時に進行しています。世界最大のファウンドリであるTSMCは、2025年第4四半期から2nmプロセスの量産を開始しました。これは、AIアクセラレータやエッジAIデバイスの性能を飛躍的に高める基盤技術となります。TSMCの2025年の売上高は前年比32%増の1,206億ドルに達しており、AIインフラ構築がハードウェア製造の限界に挑戦し続けていることがわかります

また、Broadcomの躍進は「カスタムシリコン(ASIC)」の重要性が高まっていることを示しています。GoogleやMetaなどのハイパースケーラーは、汎用GPUへの依存度を下げ、自社のワークロードに最適化した独自チップの開発を加速させています。Broadcomはこれらの企業と共同でチップを開発し、第5の顧客から10億ドル規模の注文を獲得するなど、AI特需の新たな受け皿となっています。汎用品の大量生産から、顧客ごとに最適化された特注品へのシフトは、半導体業界のビジネスモデルを持続的なものへと変えつつあると考えられます。

技術的特異点に向けた2026年の展望

2026年は、AIが「実験」から「実装」へと完全に移行する年になると想定されます。市場規模が9,750億ドルへと拡大する中で、企業にはAIによる収益化のプレッシャーがさらに高まるでしょう。ここでの課題は、AIの計算コストを持続可能なレベルまで引き下げることです。NvidiaのRubinプラットフォームのような技術革新により、推論コストが低下すれば、自動運転や物理AI(Physical AI)といった新たなアプリケーションの普及が加速すると期待されます

一方で、供給制約は依然として大きなリスク要因です。HBMの市場規模は2028年までに1,000億ドルに達すると予測されていますが、この需要を満たすための生産能力増強は、他の製品群の供給を圧迫し続けます。企業や投資家は、単に市場全体の成長に期待するのではなく、サプライチェーンのボトルネックがどこに生じ、どの企業がその解決策(ソリューション)を握っているかを見極める必要があります。AIが生み出す価値と、それが引き起こすリソース争奪戦。この二つの側面に同時に目を向けることが、2026年の市場を読み解く上で重要となります。

今後の展望

2026年の半導体市場は、AI需要による「スーパーサイクル」の到来と、供給制約による「ボトルネック」が共存する複雑な局面を迎えます。AI推論へのシフトが進むことで、データセンターだけでなく、エッジデバイスや自動運転車など、物理世界でのAI活用が本格化すると考えられます。これにより、社会全体の生産性向上や新サービスの創出が期待されます。

一方で、メモリを中心とした供給不足は、民生機器の価格上昇や製品投入の遅れといった形で、消費者や非AI企業に負荷をかける可能性があります。ビジネスにおいては、半導体調達の戦略的重要性がかつてないほど高まるでしょう。安定的なサプライチェーンを確保できるかどうかが、企業の競争力を左右する状況です。私たちは、AIの進化という光の側面だけでなく、それがもたらすリソース配分の歪みという影の側面にも注意を払い、戦略的な意思決定を行うことが求められています。

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