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YouTubeが最も信頼される理由――AI検索時代のブランド戦略

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Gartnerは2025年10月13日、「SNSにおける情報の信頼性に関する消費者調査(Gartner Consumer Survey)」の結果を公表しました。

Gartner Consumer Survey Identifies Most Trusted Social Media Platforms for Information Accuracy

米国の消費者365人を対象に行われた本調査では、情報の正確性において最も信頼されているプラットフォームとしてYouTubeが首位に立ちました。続いてRedditが2位、Instagramが3位に位置しています。生成AIによる検索がSNS投稿を結果に含めるようになった今、情報の「見られやすさ」だけでなく「信頼されるかどうか」が企業のブランド戦略を左右する段階に入っています。

Gartnerは、AIによる情報流通の再編が進む中で、企業は"信頼"を基軸にプラットフォーム戦略を再構築すべきだと警鐘を鳴らしています。今回は、調査結果の要点と、ブランド価値維持のために求められるSNS運用の新たな視点、そして今後の展望について整理します。

「可視性」から「信頼性」へ――変化するSNS戦略の基軸

SNSはこれまで、ブランドの露出を高める「可視性の場」として重視されてきました。しかしGartnerの調査は、AI時代においては「信頼性」が新たな競争軸になることを示しています。

2025年7月から8月に実施された調査によると、YouTubeを「正確な情報を得られる」と回答した消費者は61%に達しました。Redditは47%、Instagramは32%となり、X(旧Twitter)やTikTokなど他のプラットフォームを大きく上回る結果となりました。

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出典:Gartner 2025.10

この順位は単なる人気投票ではなく、AIによる情報抽出の仕組みが変わる中で、消費者が「どの情報源を信じるか」という心理を反映しています。生成AIが検索エンジンの一部としてSNS投稿を引用するようになった現在、低信頼なプラットフォームの情報がブランドに悪影響を及ぼすリスクが拡大しています。

Gartnerのアナリスト、クラウディア・ラターマン氏は「信頼性はもはや社会的評価ではなく、マーケティング投資の核心的な指標になった」と指摘しています。AI時代の検索環境では、単に拡散されることよりも、"どのプラットフォームで語られるか"がブランド価値を決定づけるということです。

YouTubeが最も信頼される理由――可視化と検証の両立

YouTubeが首位を獲得した背景には、動画形式の特性と運営方針の両面が関係しています。動画は発言者の表情、声のトーン、文脈を含む情報を視覚的に提示でき、視聴者が真偽を自ら判断しやすいという特徴があります。

またYouTubeはAIによる誤情報検知システムの強化を進めており、フェイクニュースや改ざん動画に対して早期に警告や削除対応を行う体制を整えています。こうした取り組みが消費者の「透明性」への信頼を高めたとみられます。

一方で、Redditが2位に入ったことは注目に値します。匿名性が高い掲示板型のプラットフォームでありながら、専門的な議論や一次情報が集まりやすい構造が評価されたと考えられます。特定分野の専門家や実務家が議論する場として、AIが参照する情報源としての信頼性も高まっているのです。

これに対し、Instagramは視覚的魅力を重視する傾向が強く、情報の正確性よりも印象や共感を軸にしたコミュニケーションが中心です。結果として「信頼される情報源」としての位置づけはやや限定的になっているとみられます。

AI検索の新潮流――「発見される情報」から「選ばれる情報」へ

生成AIを搭載した検索エンジンは、従来のキーワードベース検索から「文脈理解型」へと移行しています。この変化により、SNS投稿や動画コメントなど、これまで検索対象外だった情報がAIの回答に含まれるようになっています。

問題は、その情報が「誰にとって信頼できるものか」という点です。消費者のAIへの信頼度は依然として高くなく、出典が不明確な情報がブランドの評判を損なう危険性があります。Gartnerはこのリスクを「AIディスカバリ・リスク」と呼び、信頼性の低いプラットフォームに過度に依存することがブランド毀損につながると警鐘を鳴らしています。

したがって、マーケティング責任者(CMO)は単に流行するSNSに投資するのではなく、信頼性の高い情報空間を優先的に活用する戦略が求められています。企業公式チャンネルや専門家による監修コンテンツの比率を高めることが、AI検索時代のブランド保護策となります。

信頼性を可視化する新たなKPI――「ブランドトラスト・インデックス」

これまでSNS戦略の成果指標(KPI)は、フォロワー数やインプレッション数など可視的な数値が中心でした。しかしGartnerは今後、「信頼度」を測る定性指標の導入が必要になるとしています。

たとえば、「ブランドトラスト・インデックス(BTI)」のように、プラットフォーム別に消費者が感じる信頼度を継続的に測定する指標を設定することで、どのSNSが長期的なブランド価値の形成に寄与しているかを把握できます。

また、AIが情報源を参照する頻度と信頼スコアを組み合わせて評価する「AI可視性スコア(AI Visibility Score)」のような新たな指標も有効です。こうした定量化の動きが進めば、企業は広告投資やコンテンツ制作の優先順位を科学的に判断できるようになります。

信頼性を測る時代には、「感覚的なマーケティング」から「証拠に基づくブランド戦略」への転換が求められているのです。

今後の展望――AIが選ぶ時代、信頼がブランドの"通貨"になる

SNSの戦略はこれまで、「拡散」と「話題化」を軸に構築されてきました。しかし今後は、AIが情報の流通を仲介する「選別の時代」に入り、ブランドの評価軸も変わっていきます。

AIが生成する回答の中で、どの企業の情報が引用されるか。その選定基準に「信頼」が組み込まれるとすれば、信頼を得ていないブランドは検索結果から消える可能性もあります。

企業は、以下の3点を意識した戦略転換が必要になるでしょう。

  1. 信頼の高いプラットフォームへの重点投資――YouTubeやRedditのように、透明性と検証性が高い場を主軸に置く。

  2. オーセンティック(真実性)の追求――生成AIが引用しても誤解を生まないよう、ファクトベースの情報発信を徹底する。

  3. AI可視性の最適化――自社コンテンツがAIによって正しく理解・提示されるよう、メタデータや出典明示を強化する。

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