オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

AI推論でAI-Optimized IaaSが新たな成長エンジンに

»

米調査会社ガートナーは2025年10月15日、「AI-Optimized IaaS(AI最適化インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)」に関する最新の市場予測を発表しました。

Gartner Says AI-Optimized IaaS Is Poised to Become the Next Growth Engine for AI Infrastructure

報告によると、AI最適化IaaSへのエンドユーザー支出は2026年に375億ドルに達し、2025年末時点の183億ドルからわずか1年で倍増すると見込まれています。

その中でも、生成AIやリアルタイム推論の普及に伴い、「推論(Inference)」処理が市場成長の主軸となることが明らかになりました。ガートナーは、2026年にはAI最適化IaaS支出の55%が推論用途に向けられ、2029年には65%を超えると予測しています。

AIが企業活動のあらゆる領域に浸透する中、従来のCPUベースIaaSでは性能・効率面で限界が見え始めています。ガートナーは、今後5年間にわたりAI向け高性能インフラへの需要が加速度的に拡大し、クラウド市場構造そのものを変える可能性を指摘しました。今回は、この市場変化の背景と今後の展望について見ていきたいと思います。

AIインフラ需要の主役交代 ― CPUからGPU・TPUへ

AI最適化IaaSとは、AI処理に特化したGPUやTPU、AI ASICなどの高性能演算基盤をクラウド上で提供するサービスを指します。これらは、従来のCPU主体のIaaSと異なり、大規模なAIモデルの学習や推論を高速かつ効率的に実行できるよう設計されています。

ガートナーのプリンシパルアナリスト、ハーディープ・シン氏は「伝統的なIaaS市場が成熟する一方で、AI最適化IaaSは今後5年間で最も急成長する分野になる」と述べています。生成AIの普及やAIエージェント、業務オートメーションの浸透により、企業は膨大な演算処理を継続的に行う必要に迫られています。その結果、GPUクラスタや高帯域ネットワーク、分散ストレージといったAI専用インフラへの投資が急増しています。

2024年から2029年にかけて、AI最適化IaaSは従来型クラウドの成長率を上回るペースで拡大する見通しです。ガートナーによれば、AIインフラ市場の構造転換はすでに始まっており、クラウドベンダー各社はHPC(高性能計算)資源の提供強化に乗り出しています。

推論が新たな主戦場に ― 常時稼働するAIアプリケーション

AIモデルの開発・運用における計算処理は、「学習(Training)」と「推論(Inference)」の二段階に分けられます。これまでGPUリソースの多くは、モデル学習に使われてきました。しかしガートナーは、2026年に推論向け支出が学習向けを上回ると予測しています。

推論処理は、生成AIの応答や推薦システム、不正検知、医療診断など、リアルタイムで結果を出す場面で常時行われるものです。モデルの学習が数週間単位のバッチ処理であるのに対し、推論は24時間365日稼働する「本番運用の心臓部」と言えます。したがって、今後はAI推論を支える低遅延かつ高効率なIaaSの構築が、事業競争力の鍵を握ると見られています。

2025年には推論関連支出が92億ドルに達し、翌年には206億ドルに倍増する見通しです。これは全AI最適化IaaS支出の過半を占める規模であり、クラウドプロバイダーにとって新たな収益の柱となります。AIの民主化が進むなかで、「推論をいかに低コストで高速化できるか」が、今後の市場競争を左右する焦点となっています。

スクリーンショット 2025-10-17 21.23.52.png

出典:ガートナー 2025.10

クラウド戦略の転換点 ― AI専用IaaSがもたらす競争地図

AI最適化IaaSの拡大は、クラウド業界の勢力図にも大きな変化をもたらしています。大手ハイパースケーラーに加え、GPUクラウドやAI専業の「ネオクラウド」事業者が急成長しており、AIワークロードを軸にした新しいクラウド市場が形成されつつあります。

これまで企業は、汎用IaaSを利用してアプリケーションを構築してきました。しかしAIの台頭により、学習・推論の両フェーズで高密度かつ電力効率の高い計算環境が求められるようになりました。その結果、従来のCPUベースIaaSでは対応しきれない領域が増え、AI専用インフラへの移行が進んでいます。

ガートナーは、こうしたAI-Readyクラウドの拡張を「次の技術的破壊の波(Tech Disruption Curve)」と位置づけています。今後5年間でクラウド基盤は、AIアーキテクチャを中心に再編され、データセンター設計・運用・電力管理のあり方にも大きな影響を与える可能性があります。

今後の展望

AI最適化IaaSの成長は、クラウド市場の拡大にとどまりません。推論処理が常時稼働する時代において、インフラは「動的なAI実行基盤」へと進化します。モデルの性能向上と省電力化、ストレージやネットワークの最適化、そしてAIチップの分散配置など、複合的なイノベーションが求められるでしょう。

また、この潮流は日本企業にも直接的な影響を与えます。製造業や金融、自治体などがAI活用を進める中、クラウドリソースの選定・管理は経営課題の一つになりつつあります。国内でも、GPUクラウドの利用やワット・ビット連携による分散データセンター、AI推論向けインフラの展開向けた動きが進むと考えられます。

一方で、AI特化インフラの電力消費やコスト上昇への懸念も残ります。ガートナーが示すように、AIインフラの次の焦点は「効率性と信頼性の両立」です。企業はクラウド選定を単なるコスト比較ではなく、AI推論の運用効率や環境負荷の観点から再定義する必要があるでしょう。

Comment(0)