オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

新成長戦略:科学・技術・情報通信立国戦略と工程表

»

政府は、6月18日、菅直人首相が掲げる「強い経済」実現への道筋を示す「新成長戦略」を閣議決定しました。

新成長戦略の基本的な考え方は、公共事業中心の政策(第一の道)と「行き過ぎた市場原理に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の政策」(第二の道)ではなく、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげ」る第三の道を提唱しています。

7つの戦略分野では、

  1. グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
  2. ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
  3. アジア経済戦略
  4. 観光立国・地域活性化戦略
  5. 科学・技術・情報通信立国戦略
  6. 雇用・人材戦略
  7. 金融戦略

今回は、「科学・技術・情報通信立国戦略」での戦略の要旨と成長戦略実行計画(工程表)を整理してみたいと思います。

科学・技術・情報通信立国戦略」における2020年までの目標は、

  • 『世界をリードするグリーン・イノベーションとライフ・イノベーション』
  • 『独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数の増』
  • 『理工系博士課程修了者の完全雇用を達成』
  • 『中小企業の知財活用の促進』
  • 情報通信技術の活用による国民生活の利便性の向上、生産コストの低減
  • 『官民合わせた研究開発投資をGDP 比4%以上』

の6つを上げています。情報通信技術の利活用に少し焦点をあててみましょう。

~IT立国・日本~      
(情報通信技術は新たなイノベーションを生む基盤)
      
情報通信技術は、距離や時間を超越して、ヒト、モノ、カネ、情報を結びつける。未来の成長に向け、「コンクリートの道」から「光の道」へと発想を転換し、情報通信技術が国民生活や経済活動の全般に組み込まれることにより、経済社会システムが抜本的に効率化し、新たなイノベーションを生み出す基盤となる。      
(情報通信技術の利活用による国民生活向上・国際競争力強化)
    
我が国の情報通信技術は、その技術水準やインフラ整備の面では世界最高レベルに達しているが、その利活用は先進諸外国に遅れを取っており、潜在的な効果が実現されていない。個人情報保護、セキュリティ強化などの対策を進めて国民の安心を確保しつつ、情報通信技術を使いこなせる人材の育成などを強化して情報通信技術の利活用を徹底的に進め、国民生活の利便性の向上、情報通信技術に係る分野の生産性の伸び三倍増、生産コストの低減による国際競争力の強化、新産業の創出に結びつける。行政の効率化を図るため、各種の行政手続の電子化・ワンストップ化を進めるとともに、住民票コードとの連携による各種番号の整備・利用に向けた検討を加速する。子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育の実現など、教育現場や医療現場などにおける情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用を更に進める。加えて、温室効果ガス排出量の削減、事業活動の効率化、海外との取引拡大、チャレンジドの就労推進等の観点からも情報通信技術の利活用を推進する。あわせて、情報通信技術利活用を促進するための規制・制度の見直しを行う。

21 世紀の日本の復活に向けた21 の国家戦略プロジェクト』の一つに「情報通信技術の利活用の促進」があげられています。

16.情報通信技術の利活用の促進      
我が国は情報通信技術の技術水準やインフラ整備では世界最高レベルに達しているが、その利活用は先進諸国に比べ遅れ、国際競争力低下の一因ともなっている。特に、今後のサービス産業の生産性向上には、情報通信技術の利活用による業務プロセスの改革が不可欠である。自治体クラウドなどを推進するとともに、週7日24 時間ワンストップで利用できる電子行政を実現し、国民・企業の手間(コスト)を軽減するとともに、医療、介護、教育など専門性の高い分野での徹底した利活用による生産性の向上に取り組むことが急務である。このため、個人情報保護を確保することとした上で、社会保障や税の番号制度の検討と整合性を図りつつ、国民ID 制度の導入を検討する。また、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 戦略本部)を中心に、情報通信技術の利活用を阻害する制度・規制等の徹底的な洗い出し等を実施する。あわせて、「光の道」構想(2015 年頃を目途にすべての世帯でブロードバンドサービスを利用)の実現を目標とし、速やかに必要な具体的措置を確定した上で、所要の法案等を提出する。

次に『科学・技術・情報通信立国戦略(~IT立国・日本~)』の成長戦略実行計画(工程表)を見てみましょう。本、工程表は総務省の『原口ビジョンⅡ』をベースにしていると思われますが、2010年度に実施する事項としては、

国民本位の電子行政の実現に向けて、

  • 行政サービスのオンライン利用計画の策定、サービス拡大のためのロードマップの策定開始
  • 電子行政推進の基本方針の策定
  • 国民ID制度の導入について検討

などがあげられています。

また、地域の絆の再生については、

  • 情報通信技術の利活用を阻害する制度・規制等の徹底的な洗い出し等及び所要の具体的措置を策定

などがあげられています。

2013年までに実施すべき項目として注目されるのは、

  • 国民の50%以上が行政のオンラインサービスが利用可能
  • 国民ID制度の整備

になるでしょう。特に、個人情報保護などについても議論となっており、どこまで、国民ID制度が整備されるのかが、注目されます。

また、2015年を目処とした「光の道」の実現も、NTTの再編等の議論とともに、実現の方向性が注目されます。

image

2枚目の資料では、2010年度に実施する事項として、

  • 「教育の情報化ビジョン(仮称)」の策定
  • データ利活用を促進するための制度見直し等のクラウドコンピューティングの競争力確保のための環境整備
  • データセンター国内立地整備等の制度見直しの検討
  • デジタルコンテンツを含む著作物の権利制限の一般規定について、法制度整備のあめの具体案とりまとめ
  • 戦略分野への技術開発の集中・推進(新世代ネットワーク、クラウド、革新的デバイス、立体映像システム等)
  • 大規模サイバー攻撃への対応、クラウド化やIPv6に対応した情報セキュリティガイドラインの策定など情報通信技術を安心して利用できる環境の整備
  • ホワイトスペースの利活用など電波の有効利用のための方策の策定
  • 交通の高度情報化、システムの海外展開を見据えたロードマップの策定などがあげられています。

「教育の情報化ビジョン(仮称)」の策定にあたっては、「学校教育の情報化に関する懇談会」にて検討が進められており、2013年度までに、デジタル教科書という文言は使っていませんが、「児童生徒1人1台の情報端末による教育の本格展開の検討・推進」と書かれているように、どこまで浸透するのか、注目されるところです。

また、「データセンターの国内立地整備等の制度見直しの検討」では、「データセンター特区」などの検討も進められており、外資系クラウド事業者がどこまで国内にデータセンターを構えるのか、注目されるところです。

そのほか、ホワイトスペースなどの新たな電波の有効利用は、新たな産業の創出も期待されています。

image

2010年は今後の10年を見据えた重要な年となります。次の10年が「失われた10年」とならないためには、情報通信技術の利活用による市場の成長の牽引は大きな役割を占めていくのではないかと、考えています。

Comment(1)