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開発ツールビジネスの再生に格闘。マーケティングの視点で解説

無くしたバッグの取り返しサービスを特徴としています - 翻訳のはなし

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先日の出張の帰り、飛行機の出発が大幅に遅れて、空港でずいぶん長い時間をすごしました。半分はひなたで居眠りしていたのですが、ときどきショップを覗いたりして時間をつぶしました。

前回の中国出張のとき、布製のスーツケースが大破して、帰りはガムテープ貼りの情けない状態でもどってきたので、今回は新しいものを調達。そういえばネームタグがついてなかったなぁ、と空港のショップを散策してみました。これは!とインスピレーションが走るものはなかったのですが、添付されている説明書にびっくり。思わず購入してしまいました。

次のようにあります。

無くしたバッグが第三者によって発見された場合、ライフタイム保証は無くしたバッグの取り返しサービスを特徴としています...

言おうとしていることは分かるけど、日本語的には、ひったくられたバッグも果敢に取り返してくれるような印象。日々翻訳と向き合っている仕事をしているだけに、軽く笑い飛ばせない間違いでもあり、う~ん、表面的な翻訳だけでできたことにしてしまうのは大きな落とし穴だなぁと、あらためて感じました。

外資系ITマーケティングでは、主に、技術文書など専門性の高い文書の翻訳、カタログなどのどちらかとキャッチーな世界の翻訳、それから規約や契約書といった法務的に厳密性を重視する翻訳の3種類を扱います。

技術文書の翻訳では、文法的な意味はもちろんですが、日本語の文脈で技術的に理解できるように訳さなければならないという試練が待ち受けています。日本語での訳語はもちろん、言い回しや技術的慣用句も理解を促す重要な要素なので、単純に翻訳業者にお願いして出来上がりというわけにはいきません。最終的に、日本語のうまいエンジニアがしっかりレビューしておかないと、どうも分かりにくい文章、となってしまいます。

厳密性を重視する文章は別格として、カタログなどの表現は、原文を忠実に翻訳するより、何を伝えたいかを大きく捉えて作文するほうが正解です。このとき、技術的なポイントが押さえられていないと、自分の言葉ではなく、あくまでも訳語にすがりたくなる心境に陥りがちです。文法的に合っているんだから間違いではないだろう、という消極的な姿勢では、うまくものを伝えることはできない訳です。

「無くしたバッグの取り返しサービス」も、訳文はあくまでも素材にすぎないのに、簡潔な説明文だけで訳文を作成しようというやり方にそもそも無理があったのだと思います。少なくとも、ひとり分売り上げには貢献しましたけどね。

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