アマチュアオーケストラの選曲事情
演奏会が近づいてくると、並行してその次の演奏会の選曲議論が沸騰してくる。プログラム製作担当の自分としては、プログラム校了前に「次の演奏会のお知らせ」欄用の演目情報が決まらないと困るわけで、あれやりたい、これはいやだ、は別にして、円滑に決まってほしいと願ってしまうものである。
しかし、プロのオーケストラと違い、アマチュアは、興行収入を気にすることなく、好きな演目を選ぶことができるから恵まれているともいえる。まあ、実際には、あまりに自己満足的なプログラムで閑古鳥ではかなわないし、超絶技巧を伴う協奏曲や特殊楽器満載の曲目を選んで、エキストラ代(「トラ代」といいます)や楽器レンタル費用、ソリストへの謝礼などで、会計を圧迫するわけにもいかないのだが。
若いアマチュアオーケストラの場合、中心メンバーがしっかりしていて、やりたい曲がまだまだいっぱいあるため、選曲にはさほど苦労しない。むしろ、「まあ、それは次に必ずやるからさぁ」とか「今回は譲ってくれ」なんていうネゴが必要だったりする。しかし、自分の所属するオーケストラのように、設立したころに生まれた人が入団してくるぐらいに年季が入っていると、まあひととおりの有名どころはやっていて、技術的な事情によって毎回ボツになる曲が目立つぐらいになってくる。常にやりたいと画策する人がいる一方で、「あそこのヴィオラは超絶技巧だからやめてくれ」とか「あんなソロ、ワシら素人にはとても吹けません」なんていう声に抗しきれないのだ。もっとも、そんな曲でも、突然意欲的な人が現れて、ボツ理由が取り除かれ、急にやることになったりするのだが、いずれにしても選択肢が限られてくるのは間違いない。
それから、アマチュアの場合、あなたは今回降り番ですよー、というわけにもいかず、管楽器や打楽器については、ひととおりの失業対策をして全体のプログラムを決めなければならない。後期ロマン派をばりばりやっている大編成アマチュアオーケストラが、(技術的な理由を除いて)古典特集をできない理由はここにある。編成の小さい交響曲をメインに持ってくると、結果的に大編成のやかましい前プロを入れなければならないのも同じ理由による。
かくして、歴史を持つアマチュアオーケストラは、昔やった選曲を繰り返すリバイバルプランや、丁度著作権切れで費用対効果も高い没後50年狙いや、世の中のブームにのっかった生誕100年など、いわゆる旬の話題モノに走るようになる。地域的にも、ロシア、ドイツ・オーストリア、フランスあたりは出尽くした感があるので、イギリスや東欧、北欧、アメリカ大陸なんかに触手を伸ばすようになる。そう考えると、今年はシベリウスが没後50年、エルガーが生誕100年、来年はヴォーン・ウィリアムスが没後50年などなど。
ちなみに選曲の決定方法は、団員による投票、パートチーフ会議による合議、執行委員による独断、音楽監督による推薦などまちまちだが、当団では、ここ数年、持ち点方式による団員投票を実施している。この方式は、ゆるくやりたい曲や絶対やりたい曲などに対して、傾斜配分して投票できるので、なかなか人間的だ。