バルトーク弦楽四重奏曲の色彩
先週に引き続きバルトークの話題を。
弦楽四重奏曲とは、文字通り、ヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロの4人で演奏する楽曲のことである。4人ということは、音は4つなのであるが、弦楽器は重音も出せるし、表現力も豊かで多彩なので、実際、4つ以上の音と色を出すことができる。
特にバルトークの弦楽四重奏曲では、さまざまなテクニックを駆使して、4つ以上を実現している。テクニックというか、奏法でバリエーションをつけるとすると、普通に弓で弾く以外に、弦をはじくピッチカート、弓の木の部分で弦を叩くコールレーニョ、駒よりのところを弾いてぎすぎすした音を出すスルポンティチェロ、その反対にもわっとした音を出すスルタスト、あるいは弱音器の装着、弦をおもいっきり指板に叩きつけるバルトークピッチカート、などなど、特殊奏法が山のようにある。
さらに、全曲がピッチカートの曲もあれば、ピッチカートグリッサンド(弦をはじいてから押さえている指をずらして音を変える)、また、弓で弾きながら、左手でピッチカートなど、バリエーションも多彩。特に最後にあげた奏法は、一人二役的なところがあるので、限られた人員で色彩のバリエーションを出そうと、バルトークの四重奏曲では結構頻繁に使っている。
しかし、音楽の色彩を変える決定的な要素は、これらのアクロバティックな奏法ではなく、メロディ、和音、リズムという音楽の基本要素だ。バルトークの弦楽四重奏曲では、こうした基本要素による色彩の変化に、奏法のバリエーションが加わり、その効果を増幅させている。
例えば、6番の以下の箇所(譜例1)は、ハンガリー民謡的な要素が顔を出すところ。実際、和声的な複雑さから、それほど民謡チックには聴こえないのだが、それ以前の箇所と決定的に違う色彩的な側面支援、例えば、チェロの左手のピッチカート、ヴィオラの重音だけど下だけトリル、みたいな2人で4人分の働きをするアレンジによって、輝きが違ってくる。
譜例1:
実際この箇所でもうひとつ際立って耳に入ってくるのは、そのリズムだ。あまりハンガリー的になじみのない人には、さらっと受け流されてしまう独特のリズムは、例えば、コダーイのハーリ・ヤーノシュなんかにも出てくるパターン(譜例2)。
譜例2:
付点のあるなしの違いはあるけれど、長い音が先にきたり、後にきたりというリズムの特徴は、まったく同じであるといってよい。こういったリズム要素の出現を、それと理解して表現してみせるのは、同時に2役をこなしてテクニックのほうに忙殺されがちなバルトークの四重奏曲では非常に難しいところなのである。