バルトークとショスタコーヴィチをつなぐ偶然のラジオ
先日触れたショスタコーヴィチの「交響曲第7番」は、一度聴けば決して忘れない曲です。なにしろ、第一楽章で延々10分あまり同じメロディを繰り返すのです。延々繰り返しといえば、ラヴェルの「ボレロ」を連想しますが、それよりも直線的でほんとに反復で、合計12回、転調もせずに繰り返します。譜例1は、その後半部分の旋律。
譜例1:
このしつこいくらいの反復をラジオで聴いたバルトークが、その作風をからかって自身の作品に挿入したという逸話がありますが、あまりその信憑性は高くないと思っています。その楽曲とは、「管弦楽のための協奏曲」というバルトークがアメリカに亡命してからの作品で、第4楽章「中断された間奏曲」のまさにその中断が、ショスタコーヴィチのメロディ(譜例2)です。
譜例2:
多彩な変奏技法を駆使する作曲家であるバルトークの手にかかると、ショスタコーヴィチの直線的なメロディも、わずか2小節で変奏されてしまいますが、実は、このショスタコーヴィチのメロディ自身が、バルトークの主題(譜例3)の変奏(反行型)なのです。
譜例3:
この事実に気がつくと、バルトークがなぜ、ショスタコーヴィチのメロディの後半部分だけを挿入したのか理解できます。前半部分(いわゆる「チーチンプイプイ」の箇所)は、バルトークの主題とは一切関係ありませんが、後半部分は、偶然にもバルトークの主題と対になっています。
この主題と格闘しているさなか、ラジオから偶然にもその反行型が流れてきたら、さぞかしびっくりしたのではないでしょうか。
作曲家は音楽以上に語ることが少ないものですが、一番語っている音楽そのものの中に真実があるとすれば、この仮説もまんざらハズレではないように思います。
ちなみに、両方の曲を続けて聴くと、都合2時間あまり。体力に自信のある方は、週末にどうぞ。