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ダヴィンチコードとバルトーク

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そういえば「このブログのタイトル、いったいどういう意味?なんて読むの?」と聞かれることがあるので、今日はそのはなし。

Allegro Barbaroは、アレグロ・バルバロと読みます。バルトークのビアノ曲で、「野蛮なアレグロ」といった感じでしょうか。短い曲ですが、打楽器のようにピアノを扱うその後のバルトークをちょっと彷彿させる作品です。

Allegro Barbaroは、よくバルトークの作曲技法の話しをするときに引き合いに出されます。バルトークは、20世紀前半のハンガリー生まれの作曲家ですが、独自の音楽技法を確立し、理性的な中にも民族的な要素が含まれる独特の音楽を残しています。その彼の技法の特長として、レンドヴァイという研究家は、黄金分割に基づく形式と和声/音階技法を指摘しています。

黄金分割って、あのダヴィンチコードの?

そうです。絵画では一般的に用いられているこの比率(1 : 0.618033988...)を、音楽に用いたのがバルトークなのです。形式への適用では、通常古典的な音楽では、2 + 2、4 + 4、8 + 8のような小節のブロックで音楽を構成していきます。バルトークは、これを、2 + 3、3 + 5、5 + 8、8 +13のように区切ります。この数字、ダヴィンチコードでパスワードに使われていたフィボナッチの数列(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89...)です。

フィボナッチの数列は、前の項と現在の項を足すと次の項になる(2 + 3 = 5のように)という特長があります。つまり、2 + 2のブロックが大きい 4 + 4のブロックの要素になるように、2 + 3のブロックが、次の3 + 5の5の部分を構成する要素になります。バルトークの中期の傑作といわれる「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽(タイトルからするとチェレスタが活躍するような印象ですがほんの脇役で、『打楽器』に分類されているピアノの方が活躍します)」の第一楽章は、全体が89小節で、クライマックスが55小節、その前の小さい盛り上がりが34小節、その前が21小節なんてつくりになってます。

Bartok_1

長い方が前にきて短い方が後にくるパターン(3 + 2など)をポジティブ、短い方が前にきて長い方が後にくるパターン(2 + 3など)をネガティブと呼んで、盛り上がっていく場合にポジティブ、盛り下がっていくときにはネガティブの構成をとるようにするとのこと。

これをらせん状に図化すると、オウム貝の殻と同じ曲線になるとか。これは、フィボナッチの渦巻きといわれている曲線です。ちょっとC++Builderを使って、さびたC言語の知識で作図してみました。

Fibo

興味のある方は、ソースコードもどうぞ。

void __fastcall TForm1::PaintBox1Paint(TObject *Sender)
{
    // 始点
    int x0 = PaintBox1->Width / 2;
    int y0 = PaintBox1->Height / 2;
    // 終点
    int x1, y1;
    // フィボナッチ級数
    int f0 = 0;
    int f1 = 1;
    // 弧の向き
    int mode = 0;
    // 弧の向きに対する係数
    int fx[] = {-1, -1, +1, +1};
    int fy[] = {+1, -1, -1, +1};
    // 弧を描画するための係数
    int ax[] = {-2, -1,  0, -1};
    int ay[] = {-1, -2, -1,  0};
    int bx[] = { 0, +1, +2, +1};
    int by[] = {+1,  0, +1, +2};

    int max = TrackBar1->Position;
    for (int i=0; i <= max; i++) {
        // 次のフィボナッチ級数を求める
        int tmp;
        tmp = f1;
        f1 += f0;
        f0 = tmp;

        // 次の終点を求める
        x1 = x0 + f0 * fx[mode];
        y1 = y0 + f0 * fy[mode];

        // 弧を描く
        PaintBox1->Canvas->Arc(
            x0 + f0 * ax[mode], y0 + f0 * ay[mode],
            x0 + f0 * bx[mode], y0 + f0 * by[mode],
            x1, y1, x0, y0
        );
        // 始点を移動
        x0 = x1;
        y0 = y1;
        // 弧の向きを変更
        mode = ++mode % 4;
    }
}

※こういうときの Arc() って楕円全体のかたちを指定しなければならないから面倒だな。もう少しうまい方法ないかしらん。

あれ、みんな脱落してるって?ところが話しはこれでは終わらず、なんとこれを音階にも適用しています。半音一個を1と数えて、長二度は2、短三度は3として、2 + 3。

え、もう無理?

すみません。興味ある方は、"バルトーク 黄金分割"で検索を。あるいは続きはコメントで。

このように書いていくとバルトークの曲は、極めて理詰めの無機質な音楽だと思われるかもしれません。確かに現代モノで難解なところもありますが、実は非常にエネルギッシュで時としてユーモアもあります。

弦楽器では、バルトークピッチカートというと、弦を指盤に叩きつけて「バチン」という音を出す奏法を指します。なので、弦楽器奏者の間では、「バルトーク好き」というと「なんて野蛮な」というレッテルを貼られます。ちなみに私は、このバルトークピッチカートが得意です。

しかし、バルトークは、ミクロコスモスなんていう子供向けのピアノ教則本を書いてたりしますし、あと、「ビフォアアフター」っていうリフォームのテレビ番組の中盤にかかる軽快なBGM、あれもバルトークですよ。

しかし個人的には、中期の打楽器ピアノ的な曲が好きです。ピアノ協奏曲第1番などがお気に入り。この曲の決定版といってよいレコード(すみません、最初に入手したのはCDではありませんでした)を録音したのが、ポリーニとアバド。このふたりが数年前に来日して、東京文化会館で演奏する前日、東京文化のリハーサル室でうちのオーケストラの練習がありました。なんと(!)、そのとき彼らもピアノ協奏曲第1番のリハーサル。覗くことはできませんでしたが、その音を休憩中トイレで聴くことができました。感激。

あ、この曲は初心者にはお薦めしません。それと、ピアノとオーケストラ全体が打楽器の塊と化していないと、なんだかわからない落ち着きのない曲になってしまうので、勇気を出して聴かれる方もぜひポリーニとアバドを。

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