新規事業ほど古いビジネスはない
「ウチの会社も新規事業を始めようと思うのだが、何かいいアイデアはないだろうか?」
いきなり経営者からこんな相談をされたら、あなたはどんなビジネスを想像するだろうか。
やはりライバルが少ない、新しいビジネスが有利に違いない。
世間が驚くようなビジネスの方が成功しやすいだろう。
新しくて奇抜で、世の中にないビジネス――。すなわち新規事業=〝新奇事業〟と考える人は少なくない。確かに、古いビジネスより新しいビジネス、平凡なビジネスより斬新なビジネスの方が成功しそうな気がする。
ただし本来、新規事業とは「会社にとって新しいビジネス」という意味である。「世間にとって新しい」わけでなく、もちろん「奇抜なビジネス」である必要もない。アパレル会社がレストラン事業を始めたり、ネット企業がリアル店舗を構えたり、建設会社が農業に進出したり、どれも普通のビジネスである。
今、新規事業がちょっとしたブームの様相を見せている。コンサル業を営むボクの元にくる相談のじつに7割は新規事業にまつわるものだ。「本業を補う事業に育てたい」「会社としての新境地を拓きたい」など理由は様々だが、今から10年前、新規事業の相談などほぼゼロだったことを考えると、それだけ未来志向の企業が増えてきているのだろう。
さて、新規事業が増えるのはいいことだが、最近の相談内容を見ていると〝2つの決定的な事実〟を忘れているような気がする。
斬新なビジネスの相手は「古い人々」
最新のIT技術を駆使した新製品を開発した企業があった。それは業務を効率化するだけでなく高精度の発注、人件費の削減なども可能になるという。今後ますます人手不足に悩むことになる日本。なかでも小売業、サービス業、飲食業といった業界をターゲットに設定しているという。
なるほど、いい戦略だ。
ところが、肝心のターゲット業界へのアプローチがことごとくうまくいかない。
なぜか。
小売業などは伝統的に古い業界である。企業イメージは新しそうに見えても、社風やビジネス習慣などの中身は〝一昔前のまま〟というケースは少なくない。本部が介入できないほど権限の強い店長がいたり、決裁権者が複数いたり、見えないタブー規則が方々に存在したり。
さらに言うなら、業界が異なれば古さが異なるのはもちろん、同じ企業のなかですら部署によってブラックボックスは様々だ。そうした数々の障壁を乗り越えやっと商談にこぎつても〝古い部長〟は得てしてこんなことを言う。
「最新のIT製品? ウチが最初に導入して失敗したらイヤだなぁ。とりあえず、よそで成功したらまた来てください」
いくら画期的な新製品だろうと、古い企業・古い人々とスマートに渡り合えるだけの「古い対応」「古いビジネス習慣」を身に付けていないことには商談すら始まらない。皮肉なことに、斬新な新規事業ほど古いビジネスモデルに手こずりやすい。
新しい人々に潜む「古い発想」
すでに新サービスの開発は最終段階に入っており、テストマーケティングでもそれなりの手応えがある。ただ、新規事業としてチームをまとめるメンバーが足りないので何とかならないだろうか、という企業があった。
あるいはこんなケースもあった。すでに商品は開発済みで、営業人員も揃っている。とはいえマーケティングが疎かになっているので、効果的な販売戦略を一緒に考えてもらえないだろうか。
両社に共通するのは「新規事業なんて始めてからでも何とかなるだろう」というスタンス。前者は「人材」を後から何とかしようと試み、一方の後者は「戦略」を後から何とかしようと考えていた。ところが、どちらのケースも何とかならなかった。
なぜか。
「発想が古い」せいだ。新規事業はしょせんスモールビジネス――。そんな奢りや油断は簡単に治るものではない。そのため、ある新規事業がうまくいかなければ「別の新規事業なら何とかなるだろう」と高をくくり、何度も同じ過ちを繰り返すことになる。事業を新しくすることはできても、発想を新しくするのは難しいものだ。
ちなみに、どちらも若い会社だった。
新しいビジネスゆえに気づかない「古さ」
新しいメンバーと、新しいビジネスで、新しい世界を見る――。
新規事業は刺激に満ち溢れ、素敵な発見にワクワクし、それが更なるビジネスチャンスをもたらす。今後も新規事業はどんどん増えていって欲しい。そうすれば日本社会はもっと活気づくし、ボクも儲かるし、まさにいいことづくめだ。
新規事業は新しいビジネスである。しかしその構造を紐解けば、古い人々と対峙することの方が多く、古い発想がときに邪魔をする。新規事業にかかる本人たちがそれに気づかないところに、新規事業の難しさがある。
新規事業ほど古いビジネスはない――。
「古さ」と仲良くしつつ「古さ」と闘うことこそ、新規事業を成功させる秘訣である。時間や人材や費用。そしてせっかくのアイデアをムダにしないためにも、この秘訣をよくよく頭に入れておいてほしい。
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
新規事業に必要なのは古くて新しいマーケティング戦略――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。