オルタナティブ・ブログ > アラキングのビジネス書 >

「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

「上司ファースト」な社員を改心させる方法

»

「都民ファースト」「選手ファースト」――何かとファースト流行りの世の中だが、「本当にそれってファースト?」「どこが優先されてんの?」と思わず首を傾げるケースも少なくない。そんななか、これぞ間違いなくファーストというケースが1つある。

それが「上司ファースト」。常に上司の顔色を窺いながら働く風潮だ。

ベンチャー企業に代表されるように自由でフラットな組織が増える一方、「上司ファースト」な風土はいまなお健在している。そもそも上司の意向を汲むのはビジネスの基本。決して悪いことではない。ただ、近年とりわけ中高年においてその傾向が強まっている気がする。

一般的に日本の組織は人材流動性に乏しく、一度築かれた「上司と部下の関係性」は固定化しやすい。上司・部下ともに高齢化すれば、処世術に長けた中高年ほど「上司ファースト」に陥りやすいのも頷ける。

「いつも私の方を向いてくれるのは有難いんだけどね・・・」

じつは、当の上司にとって「上司ファースト」な社員は迷惑なことも多い。

アナタはどこを向いて仕事をしてるの?

組織運営から考えれば「上司ファースト」は正しい。ところが、小売業やサービス業など消費者と直接向き合う企業」の場合はそう単純にいかない。というのも小売業やサービス業の多くは「お客様第一主義」を掲げるからだ。

「お客ファーストと、上司ファースト。どっちがよりファースト?」

片や理想的な経営理念、片や現実的な処世術。小売業やサービス業のコンサルをしていると、多くの社員は必ずこのジレンマに直面する。笑い話のようだが、笑えない問題だ。

例えば、新たなお客を呼び込む店頭イベントの企画が持ち上がった。当然、新たにお客を獲得するには「いかにお客に関心を持ってもらうか」「どれだけお客にメリットを伝えられるか」「どうやってお客に喜んでもらうか」といった視点が発想のベースとなる。

ところが、である。「上司ファースト」な社員はそうはいかない。「いかに上司に関心を持ってもらうか」「どれだけ上司にメリットを伝えられるか」「どうやって上司に喜んでもらうか」――。そんな下心が発想のベースになってしまう。お客のためのイベントでありながら、お客をちっとも向かず、上司の顔色ばかりを見ているのだ。

こんなイベントがウケるはずもない。

問題は、当の社員に「その自覚症状がない」ことだ。最初こそお客第一で考えはじめても、予算の制約とか直近の販売動向などで試行錯誤しているうちに、いつのまにか上司の意向を汲んでしまう――。

こんな仕事ぶりが定着してしまうと、お客向けのイベントに限らず、あらゆるシーンで「上司ならどう思うか」という思考パターンが基本になる。そして、ついには企業として掲げる絶対的なポリシーである「お客様第一主義」がないがしろになる。

こんな社員が少数派なら問題はない。ところが多くの場合、「上司ファースト」な社員がいる企業はもれなく似たような社員が多数派を占める。すなわち「上司ファーストこそ企業風土」といった状態だ。

スーパーだろうが専門店だろうが「つまらない売り場」は一目見ればすぐ分かる。たとえ綺麗に整えられていても、レイアウトから店員から品揃えに至るまでが消費トレンドと離れていたりトンチンカンな提案だったり、まったくお客の方を向いていないからだ。

もっと言えば、「売りたくないモノを売らされているのだろう」とか「上司は現場を知らないのだろう」といった社内事情まで透けて見えるもの。売り場は、その企業の仕事ぶりを映す鏡でもある。

そんな売り場はたいていお客からそっぽを向かれている。やはり消費者も本能で察するのだろう。

働き方を変える「企画書トレーニング」

「上司ファースト」な社員は一朝一夕には治らない。自覚症状がないわけだし、そもそも「私の顔色ばかり窺うな!」という上司命令を聞くはずもない。そこでオススメしたいのが、どんな仕事も必ず企画書をつくってから始める「企画書トレーニング」という手法だ。

企画書とは、要は「〇〇な理由で△△な狙いがあるから□□な仕事をします」という宣誓書のようなもの。その仕事を達成するための思考の道筋が分かればよいだけなので、ペライチのパワポでもワードの箇条書きでも構わない。

進め方としてはこうだ。上司は、事前に部下がつくった企画書に目を通し、さらには仕事の完了後に再度チェックする。ポイントは、上司は仕事の途中では決して口を挟まず、最後にまとめて総評すること。

「なぜこの段階で〇〇する必要がある? もしかして私が会議で言った△△の意見に流されてない?」

「この□□というアイデア、ちっともお客のメリットになってないけど、どういう風に発想した?」

「この〇〇って、私が数年前に手がけた企画とそっくりだけど、どこがいいの?」

部下の頭のなかを可視化することで「どこを向いて仕事しているか」を見るのだ。思考の道筋なり業務での躓きなりを見れば、上司ファーストな傾向のみならず合理性の薄いアイデアや無理な計画などもあぶりだせる。

コンサルに赴いた企業の上司ファースト濃度が強い場合、この「企画書トレーニング」を実施することにしている。

たいていは3か月も繰り返せば「...あ、確かにここは上司を意識しすぎてた」とか「マーケティング的にはこっちが正解か」など徐々に成果が現れ、半年も経てばすっかり「お客ファースト」「マーケティングファースト」の正しい仕事ぶりが蘇ってくる。

1つひとつの数式が正しくないと正解にたどり着けない難解な数学。同じように、部下の思考の道筋を1つひとつ見直すことで上司ファーストは修正できる。時間はかかる。面倒な作業でもある。テクニックも必要だ。しかし、部下の成長を考えればこちらの方がはるかに健康的だろう。

ダメな上司との付き合い方

日大にせよスポーツの世界にせよ強権的な上司が話題になっている。特殊な世界だから分からないことも多いが、決してビジネスマンも他人事ではない。

本来、会社組織とは少なからず理不尽なものであり、上司とは、やはり少なからず強権的な存在である。それを大前提にしなければならないのだ。むしろ問題は、何かコトが起きるまでそんな風潮を黙認あるいは助長する「上司ファースト」な社員の方ではないだろうか。

皮肉なことに、「上司ファースト」な社員に囲まれた上司ほど、部下を向くこともなく、またお客を向くこともなく、自分の上に居並ぶ経営陣ばかりを向いた〝上司ベリーファースト〟なタイプが多い。こうなると、残念ながら治る見込みは薄い。

「アナタの仕事ぶりが嫌いだから、コンサルを降ります」

ごく稀にこちらから仕事を断ることがある。現場の社員は優秀、業績もいいし展望も明るい。それでも上司がダメ過ぎる場合は縁を切ることにしている。いくらいい仕事をしても、結局、独善的にちゃぶ台をひっくり返されることが少なくないからだ。

ダメな上司とは縁を切る――。それも1つの働き方ではないかと思う。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

3か月で社員が生まれ変わる最強の「企画書トレーニング」――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

ホームページアイコン.png

Comment(0)