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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

なぜ慶応が就活エリートで、早稲田が予備軍なのか? 【就職は3秒で決まる。裏話2】

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「早稲田は常識外れな学生が多いからじゃないか?」「早稲田と言えば、酒を飲んでバカ騒ぎするのが伝統だから?」「すぐ裸になるし、変人が多いし、やはりクセが強いから?」

 私の本『就職は3秒で決まる。』の発売後、私の元には多くの質問や感想が寄せられたが、群を抜いて多いのが〝なぜ慶応が就活エリートで、早稲田が予備軍なのか〟という疑問である。その発端となったのが、本書の発売に合わせて掲載した「何もしなくても就職できる『就活エリート3万人』の実態」という、第1回目のプロモーション記事。

 この記事のなかで、「何もしなくても就職できる学生群」を〝就活エリート〟と名付け、そこに属する10の大学名を掲載した。そこに慶応が入る。そこで多くの人は「慶応が就活エリートなら、当然早稲田も入るだろう」と考えたのだが、予想に反し、なぜか早稲田は就活エリートに選ばれていない。

 プロモ記事の1回目は「早稲田はどうなったのだ?」という疑問を残したまま、ここで終わる。そして2回目のプロモ記事は、あえてこの疑問に触れることなく「面接官は『3秒ルール』を持っている」という、別のテーマへと移った・・・。

 すでに本書を読んだ人なら知っているだろうが、早稲田は「採用の当落線上をさまよう学生群」という扱いに変わり、就活エリートの次に位置する〝エリート予備軍〟に分類される。ちなみに、ここに属する大学はぜんぶで17校。早稲田のほか北大、筑波、同志社といった錚々たるレベルの大学が並ぶ。

 これらの様子は、本書の第1章「3秒で選別される学歴」で詳述しているが、そもそも本書は、学歴うんぬんという類の〝暴露本〟などでは決してなく、「コンサルタントがもし今、就活するなら」が主題の、いたってまっとうな就活対策本である。事実、学歴に関する話題は冒頭1章のたった24ページのみであり、残りの230ページは「面接時の心構え」「企業の選び方」「やってはいけない自己アピール」などなど、実用的な就活ノウハウに割いている。

 にもかかわらず、人々の関心の多くが学歴、なかんずく早慶の「差別問題」に向かっているというのは、それだけ企業の採用スタンスが一般的な社会通念とかけ離れており、特殊な思想によって支えられているため、就活生のみならずオトナまでもが、就活のなかに〝不思議な闇〟を見つけたからだろう。

 さて、本書は学歴本ではないため、就活における早慶の扱いの違いに関しては、まったく説明していない。そんな事情から、早稲田は常識外れだから、バカ騒ぎするからといったような、冒頭に挙げた昔ながらの早稲田イメージ論が脳裏をよぎり、それによって早稲田が〝格落ち〟したと考える人が後を絶たないようだ。

 事実は異なり、早慶のイメージ論とはほぼ無縁である。というのも、面接はれっきとした経済行為であり、企業もしくは面接官が考える〝合理的な理由〟によって、慶応はエリート、早稲田が予備軍とされる。今回はまさに裏話として、本書でも触れていない早慶問題について解説する。

石を投げれば早稲田に当たる

 早慶と並び称されるように、この2校は昔からライバル関係にあるのは、知っての通り。受験の難易度は私大の最難関、加えてさまざまなスポーツで早慶戦という伝統行事があり、何かと世間からの注目も集めやすい。多くの予備校が早慶の合格者数を〝エサ〟に高校生や親を勧誘する手法も、昔から変わらぬ風景。いわば早慶は、実力が伯仲する、永遠の人気2大ブランド。

 さてそんな早慶だが、数字の面から見るといろいろと違いがある。そのひとつが「学生数」。早稲田は1学年およそ10,000人に対し、慶応は7,000人と言われている。

 つまり、慶応の方が学生数=就活生は少ない。

 実はこれが、慶応と早稲田を分かつ1つめの理由なのだ。「7,000も10,000もそんな違いがないのではないか?」と思うだろうが、さにあらず、企業の面接官から見ると、この数字の差は見た目以上に大きな開きがある。

 日本にはおよそ400万以上の企業があるとされるが、就活生が現実的に企業選びの対象とする数は、もっともっと少ない。当たり前、400万社も調べられるはずがないし、その必要もない。

 就活生がよく利用する就活サイト「リクナビ」に求人登録する企業数はおよそ10,000社、同じく「マイナビ」で8,000社。単純に合算すれば18,000社。その他多くのサイトが存在するが、重複登録する企業を考慮すると、現実的には10,000~20,000社くらいが、就活生の企業選びの対象と推測される。

 さて、就活生の平均エントリー数は年度によって開きがあるが、50社くらいと言われている。どの企業も早慶を欲しがるが、彼らの視線は大企業や人気企業に向かいがち。ということは、早慶の就活生をよく見る企業がある一方、まったくめぐり会えない企業も相当数にのぼる。

 慶応の7,000人と、早稲田の10,000人。一見すると十分なボリュームに思えるが、就活生50万人に占める割合は慶応1.4%、早稲田は2%に過ぎない。大学院に進むなど、就活をしない学生も多いので、面接官からすると早慶に対する飢餓感は思いのほか強いのが、実態。

「慶応の学生にはなかなか会えないですよ」と漏らす面接官が意外と多い。これはやはり、早慶の学生数の差を実感している証拠であり、それゆえに、絶対数の少ない慶応に対するプレミアム感は高まりやすい。

 限定商品に行列が絶えないのは、「人より先に入手しなくては」という人間心理が働くから。これは面接官も同じこと、慶応の方が数が少ないのであれば、とりあえずは早稲田より慶応を優先しようと考える。

「石を投げれば早稲田に当たる」というのは、面接官の本音でもあり、ちょっとしたユーモアでもある。

 早稲田の就活生は伝統的にマスコミ志望が多く、テレビや広告代理店といった業界に行けば、それこそ石を投げれば・・・という状態となる。あるいは商社、金融など、とにかく早稲田は1つの業界に偏りやすく、その分、学生数が多いように見られるのだ。

 早稲田もプレミアム感は高いのだが、慶応に比べるとやや劣るというわけだ。

慶応の方が、大学に対するロイヤリティが強い

 慶応が早稲田より優遇される2つめの理由が、慶応の学生は「大学に対するロイヤリティが強い」こと。彼らは母校に対する思い入れが総じて強く、また後輩の面倒見も良く、これが面接官からの評価を高めているとされる。なぜ母校や後輩を愛する精神が、就活に有利に働くのだろうか? ちょっと不思議な理由に、首を傾げる人も多いだろう。

「母校に対するロイヤリティが、そのまま会社に対するロイヤリティへと転じるので、一生懸命に働きそうだから?」「会社に対するロイヤリティが強ければ、転職することも少なく、優秀な人材の流出を防げるから?」などなど、いろいろな想像が生まれるのだが、これらもやはりイメージに過ぎず、理由はまったく別にあり、そして、シンプル。

「慶応を入れておけば、後々の採用活動に有利だから」。

 例えば、早慶の採用実績が少ない企業があり、今後も計画的に、早慶の就活生を集めたいという思惑があったとしよう。後輩の面倒見が良い慶応ならば、彼を入社させることにより、ゼミやサークルなどの後輩を将来引き寄せてくれるかもしれない。つまり、慶応のロイヤリティ、強い人脈に期待しているのだ。

 先に述べたように、元々「慶応の学生にはなかなか会えない」という事情も手伝い、ならば、限定商品を確実に入手するには、それなりの布石を打っておこうという計算だ。

 あるいはもっと先の話、ビジネスの重大局面において、慶応の強い人脈が助けとなることもあるだろう。例えば、進行中のプロジェクトに、どうしても会わなければならない業界のキーパーソンがいた。この人物が慶応だったなら、社内の慶応出身者のツテを頼りに、彼に辿り着ける可能性も高まるだろう。

 一方の早稲田は、一般的に個人主義の風潮が強く、同じ大学だからという理由で後輩をリクルートすることもなければ、ビジネス人脈で先輩を頼ることも少ない。むしろ、大学や早稲田人脈に対するロイヤリティを見せないことが、彼らの矜持というか、粋みたいな雰囲気がある。彼らの内には、それこそ慶応並みの強い愛校心があるのだが、それを表立って表さないし、使わない。これが、就活という特殊な状況においては、慶応よりうま味が少ないと映り、ややマイナス材料となる。

 慶応は後輩の面倒見がよく、早稲田は悪い。これが俗に言う「早稲田カラー」「慶応カラー」と呼ばれるものだが、なかなか〝見えない色〟のため、実際はどうなのか判然としない。ということで、彼らのロイヤリティをはかる面白い指標がひとつある。それが、大学に対する寄付金。

 寄付金とは、主に大学の先輩が後輩のために投資するお金であり、言ってみればロイヤリティである。寄付金の流れを調べてみると、両校の違いがはっきりする。

 たまたま早慶は数年前、ほぼ同時期に大きなイベントを迎えた。早稲田は07年度に「創立125周年」、慶応は08年度に「創立150周年」。この記念すべきイベントに向けて、両校は大々的に寄付金を集め始めた。そこで創立イベントの年を最終年度とし、それぞれ直近3年間の寄付金の集まり具合を調べてみた。

 まず早稲田。05年度=46億円、06年度=44億円、07年度=66億円。トータル156億円。一方の慶応は、06年度=104億円、07年度=105億円、08年度=226億円で、トータル435億円(両校の事業報告書調べ、寄付金は消費収入ベースにて計算)。 

 カネの勢いが明らかに異なる。人のココロはカネで計れるものではないが、大学に対するロイヤリティの違いは明白だろう。これが慶応の強みとされる。

就活の面接は立派な戦略である

 慶応の方が学生数が少なく、プレミアム感が高い。加えて彼らはロイヤリティが強く、将来の採用活動に有利・・・。

 早慶と並び称される2校だが、以上のような2つのポイントにより慶応は就活エリートに、早稲田はエリート予備軍に分けられる。どちらがより優秀とかスマートとかという次元ではなく、いたってシンプル、そして戦略的かつ打算的な理由により、慶応と早稲田は区別されるのだ。質問が多かった「早稲田はバカ騒ぎするから」うんぬんは、まったくの誤解ということだ。

 さて、企業は成長するために様々な戦略を描くのが使命である。お金を有効活用するための「財務戦略」、自社の商品・サービスを効果的に広めるための「マーケティング戦略」、売り上げを伸ばすための「営業戦略」・・・。それぞれの戦略は緻密に練られ、シビアに遂行されて初めて、企業は成長へ向かう。

 ロボットは、各部のパーツが正常に機能して、ようやく歩くことができる。足の関節に不具合が生じても、目の機能不全が起こっても、ネジが一本外れても、ロボットは止まってしまうだろう。企業の戦略とは、一つひとつがロボットのパーツに相当し、疎かにしていい箇所は本来ひとつもない。

 こうした戦略を遂行し、会社を動かしていくのは、一人ひとりの社員である。となると、どんな人材を会社に入れるかも非常に重要で、これが「採用戦略」と呼ばれるものだ。面接官はそのために、優秀な就活生を効率よく、なるべくコストを抑えながら採用するのが課せられた使命。実力が拮抗する早慶と言えども、よりメリットのある慶応を優遇するのは、合理的なビジネス判断であると言えよう。

 ・・・・・・などと、就活における早慶のいきさつを、早稲田出身のとある編集長と飲みながら話していた。「確かに、我々の大学は面倒見が悪いですよね」と苦笑し、「でも、ビジネスの現場では、いざっていうときのパワーはすごいですよね」と納得しつつ、「暴れん坊も多いしね」と、また、笑う。私も早稲田出身。

 考えれば、多くの同世代の同窓生がビジネスの最前線で良い仕事をし、活躍している。「慶応を見習って、我々も早稲田会でも作りましょうか・・・」という編集長に、それ、面白いかもネと、答えた。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

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