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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

ラーメン屋にて地獄を見る・・・再び

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無性にB級グルメを食べたくなるときがある。行きつけの美味いラーメン屋の極上の味わいは十分知っており、先週も食べたし、今日も今日で、きっと私を満足させてくれるだろう。でもね、そんな予定調和で平和な自分を、ときに壊してみたくなるのだ・・・。私は年に3回ほど抑えきれない「B級グルメ衝動」に駆られ、あえて"不味そうなラーメン屋"の暖簾をくぐることにしている・・・。

期待以上の店構え

10年ほど前の夏の日だった。お昼時、当時住んでいた街の幹線道路沿いをブラブラ歩いていると、いかにも不味そうなラーメン屋を発見した。見てくれが非常に悪い。店の外装はくすんだ赤一色で統一されており、屋根も外壁も暖簾もすべて赤、飲食店としてどうなのよ? 食欲が失せる佇まいだった。

こんな店あったか? 近所に住みながらド派手な赤いラーメン屋の存在に気付かなかったのは、日常の"美味いモノ食べたい"アンテナが無意識のうちに避けていたのだろう。

こんな不味そうな店構えのラーメン屋はなかなかないなぁ、どんだけ不味いのだろうか・・・?

むくむくとB級グルメ衝動が沸いてきた。久々の気持ちだった。お店を前から横から1分ほど眺めた。眺めれば眺めるほど不味そうであり、店に近づいて曇りガラス越しに店内をのぞいても、中の様子はまったく窺い知れない。良い感じだ。ますます興味が沸いてきた。きっと期待通り、あるいは想像以上に不味いラーメンを喰わせてくれることだろう。私は扉をゆっくり横にガラガラと開けた。

「・・・っらっしゃい・・・。」

扉を10センチほど開いて私が顔を斜めにのぞかせた瞬間、店主であろうオジサンの低い声が聞こえた。ガラガラ、扉を開ける音はまだ2回ほどしか鳴っていない。客としては、入るか入らないか決めかねている状況とも言える。しかし、獲物は逃さないぞとばかりに、10センチの隙間越しにオジサンと目が合った。

おお、ヤル気のなさそうな顔だ。覇気のない声も気に入った。きっと不味いラーメンを食べさせてくれるに違いない! クーラーをガンガンにきかせて寒過ぎる店内に入った。

お昼時だというのに客はひとりもいなかった。壁にベタベタと貼られた無数のオススメメニューが寂しげだった。不味そうなラーメン屋としてベストチョイス、私の選択は間違っていなかったことを確信した。セルフでコップに水を注いで飲むが、これまた不味いように感じられるのは不思議なものだ。

「醤油ラーメン」と私は告げた。店主は厨房の奥にある小さなテレビで「笑っていいとも」を見て、薄笑いを浮かべていた。2秒ほどして、私を振り返ることもなく「あいよ・・・」という言葉が返ってきた。いいね、この感じ、このヤル気のなさ。気のせいだろうか? あいよという返事の後に、チェッと舌打ちが聞こえたような気がした。笑っていいともを邪魔してしまったのだろうか・・・。

B級グルメは三口食べれば満足

お待ちかねの醤油ラーメンが目の前に運ばれてきた。見た目はごくごく普通、私は一口すすって思わずニンマリした。不味い! 想像以上に不味い! スープはコクがなく香りもなく、ひねりもない。明らかに"素人が作るプロの味"である。想像通り、麺は大量生産の安いものを使用していた。しかも微妙に硬い。

こういうのが食べたかったんだよな・・・。私は期待通りの不味さにいたく満足し、納得したように何度も頷きながらラーメンをすすった。そんな私の姿を店主がじっと見つめていた。傍から見れば、美味いと思って食べているようにも見える。まあ、いっか。

ただし、三口で十分満足した。それ以上は食べる気がしない。たまに訪れる私のB級グルメ衝動とは、最初の不味い! というココロの衝撃を得たいがための行動であり、食べ尽くしたいわけではない。三口以降は、ああ、不味い不味いと思いながら流し込むだけ。勢いで食べるだけの作業である。

お勘定を済ませ店を出て、振り返る。どぎつい赤い外装のラーメン屋、二度と来ることはないだろう。

・・・・・・・

それから半年後、私はまた幹線道路を歩いていた。すると、あの赤いラーメン屋が消えていた。さすがに不味すぎる。当然と言えば当然、あんなものは誰もお金を払って食べたくないだろう。あの店主も諦めたんだな。ヤル気のない顔を思い出した。

赤いラーメン屋の跡地には、また別のラーメン屋が建っていた。幹線道路沿いなので立地条件は良く、出店者はすぐに見つかったのだろう。前の店とは異なり、外装はシックで落ち着きがあり、清潔感があった。そば屋に近い日本テイストだった。オープンしたばかりで花輪も飾ってあった。

うむ、美味そうかもしれない。お腹も空いたし、ちょっと食べてみるかな。

私は扉を横にガラガラと開けて店内に足を一歩踏み入れ、そして、仰天した。

「・・・っらっしゃい・・・。」

おい! お前・・・赤いラーメン屋の店主じゃねえか!

私を出迎えたのは、なんということだろう、あのヤル気のない店主だった。これはデジャブか? 厨房の奥では笑っていいともが映っていた。不味いラーメン屋の店主は自分で居抜き? という荒技を繰り出したのだった。

半年で店主の腕が上がるわけもない・・・。予想外の事態だったが、味は想像できた。案の定、不味いラーメンは変わらぬままに不味かった。変わったのは店主の作業着のみ。昔は汚い白衣だったが、今回はさっぱり紺の衣装できめていた。どこか誇らしげな表情に腹が立つ。

お会計をすると、少しだけ値上がりしていたのが、余計に哀しかった・・・。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

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