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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

農業はファッションから始まる・・・その2 オシャレな女性誌「SPUR」に出てみた

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一月ほど前のことだった。私は広尾にある撮影スタジオにて有名女性誌の撮影に立ち会い、そして、取材を受けていた。私がモデル? のはずがない。ビジネスコンサルタントのお話? それもミスマッチ。その女性誌とは、オシャレなモード誌として有名な集英社の「SPUR」。撮影とは、私が主宰する無農薬野菜の会員制宅配ビジネス『MAKUWAURI』のためだった。

農業はファッションから始まらない、はずなのだが

農村は閉鎖的なところと聞いていた。私が新しく農業を始めるにあたっては、周囲の農家に警戒されないよう注意を払わねばならないと言われていた。私はお気に入りのロン毛のパーマを泣く泣くカットし、ダサイ農作業ファッションで完全武装し、寡黙かつ真面目、笑いにも関心のない立派な"農業男"を演じることにした。以前そんな記事を「農業はファッションから始まる・・・」に書いた。農業にファッション性は求められないのだ。農家の現場ではね・・・。

ところがだ。今の日本メディアは農業にファッション性を求めている。エコ、スローライフ、エシカル消費・・・数年前からの農業ブームにより、旧態依然とした伝統産業であるはずの農業が、格好悪い職業の代名詞である農業が、世間から、メディアから、急激に注目を集めだしている。「おっかしいな~・・・。農業は地味だぞ? ちっともオシャレじゃないぞ?」と、日々畑で鍬を振り降ろしながら、私は世間の様子が不思議でならなかった。そんなある日、私の携帯電話に「SPUR」からの取材オファーがきたのだった。農業はファッションから始まらないはずが、ファッションから始まってしまった・・・。

オシャレな野菜に生まれ変わり、超納得、超感心。

撮影当日。「ほほお~、なるほどね~」。野菜の撮影だというのにスタイリストがついており、彩りやバランスを考慮しながら野菜をレイアウトしていく。それをプロカメラマンが難しい顔つきでパシャパシャ撮っていき、合間にナショナルのCM『きれいなおねいさんは、好きですか。』並みの"キレイな女性編集者たち"が何やら打ち合わせをしている、という光景を、私はのんびりコーヒーを飲みながら眺めていた。「はい、きれいなおねいさんは、大好きです!」などと、しんみり思いながら・・・。

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こちらがMAKUWAURIの野菜たちの撮影風景。私のような素人には思いつかないデザイン性に、感心。

取材開始。スイマセン、ワタシ、オシャベリなもんで・・・

撮影をしている間に、きれいなおねいさんたちによる私への取材が始まった。野菜について、農業について、MAKUWAURIというブランドについて私はひとつひとつ、質問に丁寧に答えていった。何と言っても「SPUR」は超有名女性誌、『MAKUWAURI』をPRする大きなチャンスである。しかし、単に質問に答えればそれで終わり、というものではない。これは素人の発想である。

私はPRのコンサルタントでもある。経営者にPRとADの違いなどをレクチャーしている身であり、取材を受ける際の"基本スタンス"を心得ている。それは、取材する側のメディア心理を掴むことにほかならない。メディアは何の情報が欲しいのか? どのような切り口を喜ぶのか? ニュースバリューはどこにあるのか? メディアが知らないような情報を提供して初めて、情報に価値が生まれ、記事となるのだ。

さて相手は「SPUR」。お堅い新聞とも、テレビのニュースとも異なる。ということで、私は女性誌特有のゆる~いメディアフックをイメージながら、印象的なテーマやキャッチーな言葉で、いかにこちらの出したい情報・訴求すべきポイントを記事化してもらうかに意識を集中して喋った。これが基本的かつ初歩的なパブリシティーである。

などと偉そうなコトを言っているのだが、しかしいざ取材が始まると、ついついいつもの悪いクセが出てしまうのは、やはり止められない。必要以上に喋りすぎるのだ・・・私は。そして、どうにか笑いを交えてやろうと、企んでしまうのだ。きれいなおねえさん効果も手伝い、私の声は次第に大きくなり、オシャベリモードが全開していく。

ふと、視線が気になる。難しい顔つきでパシャパシャしているカメラマンが、時おり、仕事の手を止めて私の方を振り返っていることに気づく。ちょっと変わった目で私を見ていた。何だか怪しんでいる雰囲気。きっと普通の農家が来ると思っていたのだろう。でも、やってきたのは<マイケル頭のオシャベリくん>。野菜のコトも詳しいが、なぜかマーケティングやコンサルなどの話も随所にちりばめており、妙に思ったようだ。

でも撮影後、カメラマンに野菜を食べてもらったところ「これ、超ウマイ! 味があるな~」と、笑ってくれた。ああ、このカメラマンさん、あの俳優に似てるな~、オレ、あの俳優好きなんだけど名前想い出せないから、あだ名付けられないか・・・などと考えながら、コーヒーを飲み飲み。そして、後で重大な事実を知った。この人は売れっ子の人気カメラマンだったと。あだ名をつけている場合ではない。

スイマセン・・・今回は顔出しナシなんですよ。

取材がひと段落して雑談をしていると、突然、編集者のお姉さんに謝られた。「すいません、今回は荒木さんの顔出しはナシということなので・・・」との申し訳なさそうな表情に、「ええ、問題ないですよ」と私は笑って答えるが、実はややがっかり。「SPUR」からオファーがあった時点で、私はとある理由のため、自身の顔出しを狙っていた。その理由とは・・・。

私の家族がすでに全員「SPUR」に登場済み、という不思議な状況にあり、私が出れば家族全員がめでたくSPUR完全制覇だったのだ。ちなみに私の家族は奥さんひとりと、パグ3匹という構成。最初に奥さんが登場したのは数年前のこと。"働く女性のこだわりの腕時計を見せてくださ~い"的な企画で、デカデカと顔出ししていた。当時はふ~ん、という程度。しかしその数年後、今度は我が家のパグ3匹にもオファーが入り(SPUR WEB版だが)、私だけが取り残されていたという状況。

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こんな感じの写真が掲載された。"雑誌の付録のリボンを犬につけてくださ~い"的な企画だった。今改めて見ると、並んで座る我が家のパグファミリーの表情がやや誇らしげに見えてくるのは、私のルサンチマンがそう思わせているのだろうか?

本日発売、「SPUR」2月号

その後、原稿のやりとりを数回していたので、誌面内容は当然ながら事前に知っている。掲載スペースは「とじ込みの特集トップ1P」という驚愕のVIP待遇。メジャーでもなんでもない、私と友人ふたりで細々とやっている超零細農業ビジネスという性質を考えると、PR業界の人間ならすぐに理解できるほどの"破格の扱い"である。いやはや、アワワ・・・。加えて『MAKUWAURI』の紹介もきっちりポイントをおさえた素晴らしい仕上がり。

さて本日、実際の誌面に目に通して、実感するのだった。プロカメラマンの技を。スタイリストの腕前を。そして、編集者のセンスを。私の顔出しなどあったら、これはイメージダウン必至だった。正しいジャッジだ!

でも、私は、企む。いつか「SPUR」に顔出ししてやるぞと。「働く女性として」のオファーは、当然来ない。「パグとして」のオファーも、やはり私には来ないだろう。さてさて、どうしたものか・・・。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

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