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Armをパクった? Intelの新プロセッサは本当にM1を超えられるのか?

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一時期元気の無かったIntelですが、ここへきて新しい半導体工場の建設計画を発表したり、TSMCとの提携を強化したりするなど、新CEOの元で攻勢を強めています。Intelが満を持して市場投入する新しいプロセッサの概要が見えてきました。

Intel、薄型軽量ノート向け第12世代Coreを出荷開始。28Wでも14コア

この第12世代Core(Alder Lake)は昨年発表され、これまでパフォーマンスで劣っていたAMDのRyzenや、AppleのM1 Maxに匹敵するか、それらを凌駕する性能を発揮するとされています。

モバイル版第12世代Coreは、M1 MaxやRyzen 9を超える性能を発揮

その秘密は、内部のマイクロアーキテクチャに大きな変更があったことです。それが、「高性能コア(Pコア)と高効率コア(Eコア)を利用したハイブリッドアーキテクチャ」です。これしかし、どこかで聞いたことがありますよね?そう、Armが2011年に発表し、AppleのM1も採用している「big.LITTLEアーキテクチャ」とそっくりなのです。

toilet_lever.png正確にはハイブリッドアーキテクチャはひとつ前の世代のLakefieldで採用されたのですが、あまりうまく行かなかったようで、今回はその改良版という位置づけなのかも知れません。Alder LakeについてWikipediaでは「ハイブリッドアーキテクチャ(big.LITTLE)」と書いちゃってますが、Intelはそうは言っていませんし、いくつか記事をあたってみましたが、まったく同じと言いきっている記事は見かけません。以下の記事では「IntelはArmのbig.LITTLEのアプローチと同じ手法を採用した」と書いています。

第12世代Core、PコアとEコアという2種類のCPUの組み合わせなのになぜRyzenより速い?

まあ、同じアイデアだけど、実装は違うという感じなのでしょうね。この記事にあるように、Armのbig.LITTLEは

実際の所、CPUの消費電力で最もバッテリ駆動時間に聞いてくるのは待機時の消費電力なので、バッテリ駆動時間を延ばすという観点ではこのアプローチはかなり有効で、「Armプロセッサは低消費電力」というイメージを持たれている最大の要因はこのbig.LITTLEだ

というように、省電力性に貢献しています。この点はIntelも同じでしょう。しかし、Wikipediaにもあるように、big.LITTLEはプロセッサの基本的な設計要素であり、それをどのように活用するかはチップ設計やOSに依存します。それに対し、今回のIntelのものは

具体的には「Intel Thread Director」(インテル・スレッド・ディレクター)と呼ばれる仕組みがそれで、CPUに内蔵されているハードウェアが、Windows 11のスケジューラと連動して動作することで、命令をより効率よくPコア、Eコアに割り当てて実行することができる仕組み

というように、もう少し凝った造りになっているようです。特に、事前にMicrosoftと最適化を行っていることは注目に値します。

Intel/AMDとAppleの違い

IntelとAMDは、共に半導体メーカーであり、OSを作っているわけではありません。そのため、OSまで含めてパフォーマンスを最適化するためには、OSベンダーとの協力が不可欠です。今回のようなモバイル向けプロセッサであれば、その対象はWindowsでありAndroidでしょう。Linuxは今のところサーバー向けがメインであり、モバイルでの存在感は薄い(AndroidはLinuxベースではありますが、違うものとみるのが普通でしょう)のが現状です。

Appleの強みは、ハードとソフトを1つの会社が作っているところです。ハードウェアとOS/アプリ/サービスが一体となって開発されることで最高レベルのUXを実現できるのです。そのAppleがプロセッサまで手掛けたのがM1です。(もちろんAシリーズもありますが)

ご存じの通り、M1はIntelのプロセッサを搭載したMacをものともしないパフォーマンスを見せつけました。これは、プロセッサに最適化されたOS/アプリの成果と言えますが、むしろOS/アプリ側からの要請に基づいてプロセッサが開発された部分すらあるのかも知れません。それほどまでに、アプリに最適化されたパフォーマンスを実現できています。

しかしIntelは自前のOSを持っておらず、Microsoftは自前のCPUを持っていません。(開発中との噂はありますが)この点についてはAMDも同じです。IntelやAMDがハードウェア上の工夫によってOSに頼らない高速化を達成できるのか、あるいはMicrosoftやGoogleと協力して、OSとのタイトな統合を達成できるかどうかが、Appleとの競争においてキモになるのでしょう。

 

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