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半導体不足はサプライチェーンの問題では無く、需要の高まりによるものだったのか?

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昨年は半導体不足で、コンピュータから自動車、給湯器まで、さまざまなものが作れずに入手困難となっていました。私の周りでも、最近何故かバイクを買う人が急増していて、新車は数ヶ月待ち、中古車価格も高騰(新車より高いケースもあるそうな)しています。これはてっきり、新型コロナのせいで半導体工場の生産が滞ったり、物流が混乱したためなのだろうと思っていたのですが。。どうやらそれだけではなかったようです。

Gartner、2021年の上位10社の電子機器メーカーによる半導体消費は25.2%増加したと発表

記事中にもあるように、コロナの影響もあったものの、なんと需要のほうが25%も増加していたのだそうです。それは足りなくなりますよね。日本では工場が火災にあったりして、悪い要因が重なったこともあるのでしょう。

Gartnerは

「2021年、半導体ベンダーは半導体チップの出荷量を増やしましたが、主要電子機器メーカーによる半導体需要はベンダーの生産能力をはるかに上回るものでした」

と言っており、ベンダーは悪条件の中でむしろ出荷量を増やしたのだということです。これは知りませんでした。半導体不足はベンダーのせいではなかったのですね。

building_koujou_entotsu.pngちなみに、Gartnerの発表資料にある上位10社とは、Apple、Samsung、Lenovo、BBK Electronics、Dell、Xaomi、Huawai、HP、Hon Hai、Hewlett Packard Enterpriseとなっています。やはりスマホ/PCベンダーが強いですね。BBKという会社は知りませんでしたが、傘下にOPPOやVivoを持つスマホメーカーのようです。上位10社で世界の半導体消費の42.1%を占めたということですので、スマホ恐るべしということですが、半導体を必要としているのは上位10社だけでないでしょう。世界中の製造業が半導体を求めて走り回っているはずです。製品が作れなければ、コロナ後の景気回復の波に乗り遅れてしまうからです。記事にも

マイコンや汎用ロジック集積回路 (ICs)、多種多様な特定用途向け半導体などの半導体チップは平均単価が15%以上も上昇しました。

とあります。「半導体不足により、主要電子機器メーカーの二重発注やパニック買いが加速し、半導体消費が急増しました」とも書いています。

そして、注意すべきなのは、この順位は「半導体購入額」だということです。上位10社が買っているのはスマホやPC用の「単価の高い」最先端の半導体(≑CPU)と思われますので、(上がったとはいえ)単価の安いICや特定用途向けなどの半導体の需要(数)はケタが違うと考えられます。産業界全体に与える影響は、想像以上と言えるでしょう。

しかし、そうなると半導体不足の解消はなかなか難しい問題となるかも知れません。コロナが原因であれば、収束に伴って半導体供給は正常化するでしょうが、製造が需要に追いついていないのだとすると、解消には時間がかかります。需要が減退するか、供給能力が上がる(新工場が建つ)まで待たなければならないからです。

むしろ、コロナの収束によって経済が回復し、需要はさらに増えることが予想されますから、いましばらくは事態は悪くなる一方、ということになるのかも知れません。今の半導体の製造設備はどんどん高精細化していますから、半年や1年で新工場を稼働させるのは難しいでしょう。そうなると、景気回復の足を引っ張りかねません。

Intelは昨年、新しい半導体工場の建設に着手しましたが、本格稼働は2024年と言うことです。さらに先月、さらなる工場の建設計画を発表しました。こちらは生産開始が2025年です。日本でも、TSMCが新工場を建設する計画がありますが、こちらも操業開始は2024年です。ということは、あと2-3年は結構厳しい状況が続く可能性があるわけで、せめてこれ以上は日本の工場も火災を起こしたりしないことを祈りたいものです。

 

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