DX は労働環境の改善から、というお話
先日、Facebookのタイムラインにこんな記事が流れてきました。
この記事が引いている朝日新聞の記事では、慶応大学の教授の言葉として、デジタル化によって
オフィスで働く非正規雇用の人を中心に、場合によっては数百万人が、コンピューターによって代替される恐れがあると指摘
している、と書いていますが、なんだかどこかで聞いたような話です。昨年くらいまではDXではなく、AIで仕事が奪われる、という話があちこちで取り上げられていました。まあ、AIもデジタル化のうちといえばそうなのですが。
この記事の主旨は、「米国では1990年代~2000年代にIT化が進み、オフィスでの単純作業はコンピューターに代替され、働き手は削減された。日本もその傾向はあるが、他国よりもゆるやかだった。同じ時期、労働者派遣法の改正などもあり、コンピューターに置き換わるはずの仕事が、非正規雇用の人たちに任されたからだ。」というものです。
これを受けて冒頭の記事では、バブルの崩壊もあり、企業はIT化のための投資ができず、低賃金の労働力(非正規)に安易に頼ってしまった、ということではないかと指摘しています。つまり、
日本企業はDXによる生産性向上ではなく、女と高齢者の労働力化と非正規雇用の拡大(低賃金労働者による人海戦術/人件費の変動費化)で収益性を高める方向へと事業を再構築した。
ということであり、それは
日本企業はデジタル革命に失敗したのではなく、必要としなかったのである。
ということだと言うのです。これは新しい見方ですが、当たっているのかも知れません。かくして、(正規も含めて)賃金は上昇せず、失われた30年に突入していった、ということなのでしょう。この見方が正しいとすると、日本のDXを進めるためには、まずは人件費を上げるところから始めないといけないということになります。
しかし、ことはそう簡単ではありません。賃金が上がるのは良いことですが、その反面、米国の例を見るならば、「働き手は削減」されるのです。つまり、失業が増えるということです。
これは、古くて新しい問題です。かねてより日本のホワイトカラーの生産性は先進国の中で最下位と言われてきました。そこを効率化しないと欧米には太刀打ちできない、と言われながら、何十年も改善されずにきています。しかし、ここを効率化すると言うことはホワイトカラーの大量失業を生み出してしまうわけで、それは社会としては受け入れられなかったという背景があるのでしょう。そして、そういった非効率性を許容できる大企業ではホワイトカラーの効率化が進まず、失業は抑えられながらも生産性は上がらない、という現状に結びついているようにも思えます。労働力が流動化せずに固定化してしまっているのも、そういったことが原因なのかも知れません。
それに、賃金を上げるためには企業の業績がまずは上がらないといけない、という問題もあります。そのためには景気を上げなければならず、そのためには個人消費を上げる必要があり、だったら賃金を上げろ、という(かなり簡略化していますが)ことになり、堂々巡りから抜けられません。
しかし、企業の内部留保は史上空前の水準あるとも言われており、賃金上昇の余力がないわけでも無さそうです。ここはDXへの投資と割り切って、まずは賃金から上げていって良い循環を生み出し、DXを成し遂げると同時に景気を良くし、そうすれば新しい職も増えて皆がハッピー、ということにはならないでしょうか。日本があまりに長く続いた不況から抜け出すためには、そのくらい思い切った対策が必要なのかも知れません。
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