好きなものを作れる Apple、そうはいかない Intel
先週、AppleがM1シリーズの最新プロセッサPro/Maxを搭載したMacbook Proを発表しました。
昨年のM1の発表は世界を驚かせましたが、今回の発表もまた、驚くべきものでした。昨年と違い、M1の拡張版が出ることは予想されていたのですが、それにしてもここまで拡張するとは、予想していなかった人も多いのでは無いでしょうか。
これまでの常識を覆す仕組みをいろいろ入れて驚きを呼んだM1とは違い、Pro/Maxはプロセス技術の進化によって増えたトランジスタをM1のアーキテクチャの強化に注ぎ込んだ「正当な進化」を遂げたチップということができそうです。具体的には、CPUコアやGPUを増やし、処理能力の強化を図りました。
M1→M1 Proでは
- 高性能コア(M1では4個)が最大8個に増加
- GPU(M1では8個)が最大16個に倍増
- メディアエンジン(M1には無し)の搭載
- ユニファイドメモリ(M1では16GB)が最大32GBに倍増
- メモリファブリックの速度(M1では100GM/s)が200GB/sに倍増
とまあ、だいだいどれも2倍くらいの強化が行われています。メディアエンジンは、オーディオやビデオのエンコード/デコードを高速化するエンジンのようです。M1にはISP(Image Signal Processor)がありましたが、その代わりかも知れません。
CPUについてはここ数日でベンチマークが出て来はじめましたが、
M1もPro/Maxもシングルコアスコアはほぼ同じで、コア自身の設計はM1もPro/Maxも同じと推測できます。そして、M1の4コア、Proの6コア、Maxの8コアと、数による差が綺麗に出ています。グラフィックのベンチマークはまだ出ていないようですが、数が増えた分だけの効果はあるのでしょう。
そして、メモリの倍増とともにファブリックの速度が倍増していることが重要です。本田さんの記事にもありますし、こちらにも書きましたが、大量のデータを扱う場合、プロセッサやGPUだけを強化しても不十分で、処理性能に見合うデータを供給できるデータ転送速度が重要になるのです。
「Pro」用のマシンを作りたかったApple
そしてM1 Pro→M1 Maxでは、
- 高性能コアは8個
- GPUが最大32個に倍増
- メディアエンジンのエンコーダを倍増
- ユニファイドメモリが最大64GBに倍増
- メモリファブリックの速度が400GB/sに倍増
が行われています。「グラフィック関連をさらに倍に」強化したわけですね。これはもう、一般のビジネスユーザーが必要とする能力を遙かに超えています。画像クリエイター専用マシンと言っても良いレベルではないでしょうか。
Appleは昔から、Macの最上位機種としてiMacやMac miniとは別次元のCPU/GPUを持たせたMac Proをラインナップしています。最大構成にすると100万円を超えることもあり、まさに一握りのプロフェッショナルのためのマシンと言えます。デスクトップマシンであるMac Proにも、ゆくゆくはM1 Max(もしくはその後継チップ)が搭載されるでしょうが、今回のMacbook Proへの搭載は、それを先取りしたものと言えるかのかも知れません。具体的なベンチマークは出てきていませんが、ユニファイドメモリによる高速化の効果も見込めますから、用途によっては現行のMac Proを置き換えることができるかも知れません。
作りたいものを作れるApple、作りたいものを作れないIntel
MacのCPUの座を失いかけているIntelですが、自社製品はM1に負けていない、との主張を強めています。昨日も、こんな記事が出ていました。
Alder LakeはIntelの次世代CPUです。M1やそのベースとなっているArmと同様に、高性能コアと高効率コアを組み合わせるアーキテクチャとなっており、省電力性も高まることが期待されています。そのCPUのベンチマークスコアが、M1 Maxよりも4%程度上回った、というのです。
ただ、上に書いたようにこのコアは昨年発表されたM1のコアと同じ物です。ということは1年前のCPUとの比較と言うことになります。また省電力性についてはわかりません。そして、GPUについての結果は出ていないようですが、ここはIntelも弱いところであり、それほど高性能なものではないと推測できます。
そもそもIntelを使うユーザーは、グラフィックス性能が必要なときはNvidiaやAMD等外付けのGPUを使うのが普通です。エンコードやデコード、そしてAI処理も、必要に応じてGPUやDSPを付加して使うことになります。つまりIntelは、汎用品として幅広い顧客にCPUを販売する以上、勝手に顧客が必要としていない機能を入れたり、特定の処理だけを突出して高速化するわけにはいかないのです。(一部大手企業向けにはカスタム品を収めることもあるようですが)GPUだけをいきなり従来の4倍にするなど考えられません。この辺は、垂直統合で自分たちの作りたいマシンを追求できるAppleのビジネスモデルが強みを発揮する部分です。
ただ、Appleも伊達や酔狂でGPUを強化しているわけではないでしょう。伝統的にクリエイター向けに強いし、そのマーケットは守りたいというのはもちろんですが、今後大きな成長を遂げるであろうVRへ向けての布石、と捉えることもできます。いずれにせよ、今後Appleがどのような方向性を打ち出し、それをサポートするハードウェアを出してくるのか、いよいよ楽しみになってきました。
ITの最新トレンドをわかりやすく解説するセミナー・研修を承ります
時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。
アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや研修を行っています。ブログでは少し難しい話も取り上げていますが、初心者様向けにかみ砕いた解説も可能です。もちろんオンラインにも対応できます。詳しくはこちらをご覧下さい。