オルタナティブ・ブログ > Mostly Harmless >

IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

Linux の 30 年とアジャイル開発

»

2021年8月25日はLinuxの30回目の誕生日でした。Linus TorvaldsがUsenet(昔はこれをネットニュースと読んでいたのですよね)に「386(486)ATクローン用の(フリーの)OS(単なる趣味で、GNUのような大規模なものでもプロフェッショナルなものでもない)に取り組んでいる」と書き込んだのが、フィンランド時間の1991年の8月25日だったのだそうです。

トーバルズ氏、Linuxの「次の楽しみな30年が待ち受けている」

当時はUnixが流行で、BSDやMINIXなどのUnix系OSのプロジェクトが目白押しでした。その中で何故Linuxがここまで成功したのかについて、Wikipediaでは

当初のLinuxの実装は極めて単純で、他の既存の自由でないUnixシステムのどれに対しても、その機能や実績において優位性はなかった。(中略)つまり、1990年代前半において、自由なUnix互換カーネルと呼べるようなもののうち、実用的で権利上の問題がないと考えられるのはLinuxのほかなかった。

とあり、ライバル達に問題が起こっているタイミングだったことを示唆しています。

landmark_notre_dame.pngもちろんそういった背景があったことも確かですが、もうひとつ、オープンソースプロジェクトの管理におけるLinusの能力が秀でていたことも大きな要因だったと言われています。それについて有名なのが、こちらです。

伽藍とバザール

原題は「The Cathedral and the Bazaar」。Cathedralは大聖堂で、Bazaarは市場/マーケットですね。エリック・レイモンドという人が、従来型の計画的なソフトウェア開発手法と、Linuxカーネルの一見無秩序な新しい手法を比較して述べた読み物です。そこには、

Linux は、ぼくがわかっているつもりでいたものを、大幅にひっくりかえしてくれた。(中略)一番だいじなソフト(OS や、Emacs みたいな本当に大規模なツール)は伽藍のように組み立てられなきゃダメ(中略)だと思っていた。

とあり、Linuxの開発手法がそれまでとはまったく違うものであったことが書かれています。

Linux コミュニティはむしろ、いろんな作業やアプローチが渦を巻く、でかい騒がしいバザールに似ているみたいだった(中略)。そしてそこから一貫した安定なシステムが出てくる なんて、奇跡がいくつも続かなければ不可能に思えた。

引用ばかりになってしまうのでこの辺で止めますが、面白い読み物なので是非読んでみて下さい。

Linuxとアジャイルの共通点とは

さて、今日の本題ですが、全部読むのは大変、という方のために「伽藍とバザール」の中で述べられていることがWikipediaに一覧表として掲載されています。その中に、面白い項目があるのです。

素早く頻繁なリリースを実施し、顧客の話を聞く。

これ、どこかで見たような。。そうです。これです。

アジャイルソフトウェア開発宣言

この中に、

動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースします。

というのがあります。Linuxの開発では数週間どころか数日ということもあったでしょうが、そう、Linuxの開発手法とアジャイルの開発手法の考え方が根底で非常に似ているのです。

「伽藍とバザール」が書かれたのは1997年、1999年に書籍として出版されたそうですが、アジャイルソフトウェア宣言は2001年に発表されています。時期的にも非常に近いですね。他にも、伽藍とバザールには

十分なベータテスターと共同開発者の基盤があれば、大半の問題はすぐに特定されて誰かが直す。

という項目がありますが、アジャイル開発では、短い間隔で顧客にリリースすることで、顧客をベータテスターとして活用しているとも考えられます。(しかも、誰よりも熱心なベータテスターになるでしょう!)

30年も前に、今に至る開発手法の革新を生み出していたこと、それに20年前にはいろいろな人が気づいていたというのは、なかなか凄いことです。日本でアジャイアルが話題になってきたのがここ数年、まだまだ本格的に活用できている企業は少ないとも言われています。「アジャイルに取り組んでいるけど、思った効果が上がらない」という方は、これらの原則を今一度読み直してみると、いろいろなヒントが得られるのではないでしょうか。

最後におまけですが、伽藍とバザールにはこんな項目もあります。

良いプログラマは何を書けば良いか知っている。凄いプログラマは何を書き直せば・何を再利用すれば良いか知っている。

これも面白いですね。ネットコマースさんと長年続けている「ITソリューション塾」(以下を参照 ^^;)には、トッププログラマの方も講師として来て下さることがあるのですが、同じ様なことを言っていました。「なるべくコードを書かずに目的を達成するのが良いプログラマ」なのだそうです。

 

【募集開始】次期・ITソリューション塾・第38期(106日〜)

ITsol.png次期・ITソリューション塾・第38期(106日 開講)の募集を始めました

ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。

また、何よりも大切だと考えているのでは、「本質」です。なぜ、このような変化が起きているのか、なぜ、このような取り組みが必要かの理由についても深く掘り下げます。それが理解できれば、実践は、自律的に進むでしょう。

  • IT企業にお勤めの皆さん
  • ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
  • デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん

そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。

特別講師の皆さん:

実務・実践のノウハウを活き活きとお伝えするために、現場の最前線で活躍する方に、講師をお願いしています。

戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践のプロフェッショナルを育成する戦略スタッフサービスの代表

吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援するテクノロジーセンター長

河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリードするCSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)

最終日の特別補講の講師についても、これからのITあるいはDXの実践者に、お話し頂く予定です。

詳しくはこちらをご覧下さい

  • 日程 :初回2021106()~最終回1215() 毎週18:3020:30
  • 回数 :全10回+特別補講
  • 定員 :120
  • 会場 :オンライン(ライブと録画)
  • 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000) 全期間の参加費と資料・教材を含む

詳細なスケジュールは、こちらに掲載しております。

Comment(0)