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「DX人材」は必ず社内にいる

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DXへの取り組みがなかなか進まない中、企業は「DXを遂行してくれる」人材を外部に求めているようです。

失敗確実な「DX人材募集」が続々、人事部は見て見ぬふりか

この記事の中で、日経BPの谷島さんは「大半は失敗に終わるに違いない」とけんもほろろです。そして、DXは社内の業務知識を持った人材が推進すべきであり、事業部門のエースを情シスに異動させて確保せよ、と書いています。私は前半は谷島さんに賛成ですが、後半はちょっと違う考えを持っています。

enjin_business.png現場の社員を教育し、デジタルに適応できる人を見つけ出す

谷島さんの記事では、外部から専門家を採用するのではなく、外部の専門家を有効に使いこなせるように企業の情シスに社内の事業部門から人材を異動させ、業務知識を持った人材がDXの司令塔となるべき、という考えを紹介していますが、私はこれがくせ者だと思います。このアイデア自体はDX以前からあると思いますが、最大の問題は事業部門が優秀な人材を情シスに出してくれるのか、という点にあったのではないでしょうか。優秀な人材こそ情シスへ異動させて会社全体のDXを推進すべき、という考え方が会社全体で共有されていれば良いですが、なかなかそのような会社は無いのではないかと思います。

私の考えは、業務に精通した人間がITの知識も持った上でDXを推進すべき、というところまでは同じですが、事業部門の人材に基礎的なIT教育を行い、その中からITに適性を持った人材を発掘して(事業部門に在籍したまま)DXにあたらせる方が良いのではないか、ということです。DXが目指すものは徹底したビジネススピードの高速化であり、そのための組織改革・意識改革です。その実現のためには、情シスやDXなんとか室のような部門が旗振りをするのではなく、全社員の意識を等しく変えなければなりません。

それまでITのことなど考えたこともなかったような人でも、やってみれば「DX適正」を持っている人は必ずいるものです。そういった人達を見つけ出し、きっかけと方向性さえ与えれば、あとは放っておいてもスキルアップしていくでしょう。そういった人の周りのスキルも、自然と上がって行くに違いありません。IT教育は、そのための第一歩なのです。コストも時間もかかるように思えますが、DXへの取り組みを根付かせるためにはそれが近道なのではないでしょうか。そしてこの取り組みは、最終的には全社的に行うべきです。経営幹部から間接部門まで、すべての社員・関係者が同じスピードで足並みを揃えられなければ、企業全体のスピードは上がりません。

IT教育と言っても、全員に本格的なプログラマになる必要はありません。まずは、コンピュータやスマホとクラウドとの関係や、アプリがどのように動いているのか、などを理解するところから始め、実際のプログラミング体験を経てノーコード開発環境での業務アプリ開発などを経験する中で、ITを使ったサービスがどのように実現されているのかを理解することです。

ここで大事なことは、スマホやクラウドを「何かを入力すると何かが出てくるブラックボックス」としてではなく、データをどのように取得し、それがどのように動き、どこでどのような処理が行われ、全体としてどのように連携しているかという「仕組み」として捉えることです。それにより、業務上の課題や顧客へのサービスを考える際に、「このデータを使ってスマホとクラウドを組み合わせれば、何とかなるのでは?」という発想を得ることができます。あたりまえのことですが、業務上の課題、顧客ニーズを最もわかっているのは現場です。その課題に最も近いところで、課題に最も詳しい担当者が自ら問題解決の糸口を見つけ、その場で解決できれば、当然サービスの品質は上がり、スピードは上がるでしょう。

とりあえず発想できるところまで行けば、あとはいくらでも手段はあります。その先は外部に発注しても良いですし、今流行のノーコード・ローコード開発環境を使って自ら開発しても良いでしょう。自分でコードを書ければ、それに越したことはありません。大事なのは発想の根底に「業務の理解」と「現場感覚」、そして「ITの仕組みの理解」があることです。これさえあれば、外部に依頼する場合でも的確な仕様を決めることができますし、最新のツールを使って自分たちで作ってしまうこともできます。自分たちで作ることができれば、その後の仕様変更や機能拡張などもいちいち外部に依頼すること無く、数時間~数日といった単位で行う事ができます。これによるビジネススピードの高速化こそが、DXを実現するための肝なのです。

最先端のクラウドサービスをうまく使いこなす

似たような話で、AI活用のためにデータサイエンティストを募集する、といった話もありましたが、これも今では怪しい話です。今はAIの研究が進み、一般企業が必要とするようなデータ分析などのAIモデルは汎用的なものができており、クラウドベンダーはそれをサービスとして提供し始めています。もはやAIモデルを一から作る必要はなく、出来合いのモデルを使えばかなり高度なことができるのです。むしろこれからの主流は、こちらになるのでは無いでしょうか。

GoogleやAmazon、Microsoftには、世界最高峰のエンジニアが最先端のテクノロジーに取り組んでおり、その成果をクラウドサービスとして惜しげも無く提供しているのです。これを使わない手はありません。使い手に必要なのは、どのサービスやテクノロジーが自社の戦略や業務に合っているかどうかを見極める力であり、そのための基礎能力がITの理解です。

外部のサービスで使えるものは使い倒し、社内にはサービスや技術を「目利き」できる担当者を育てる方が簡単ですし、技術の進化にもついて行きやすいでしょう。日進月歩のIT技術すべてについて社内の人材で追いついていくのは大変で、何でも自前主義を貫くのはもはや不可能です。その分野のトップエンジニアの成果を手軽に使えるのがクラウドの良いところです。こういった発想の転換をしていかなければ、最先端の技術を使いこなしていくのは難しい時代になっているのではないでしょうか。

 

「DXはなぜわかりにくいのか?」 ITの最新トレンドをわかりやすく解説するセミナー・講演を承ります

figure_question.png経済産業省のレポートで触れられた「2025年の崖」が話題になっています。多くの企業がこれに取り組み、乗り越えようとしていますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の全体像が掴めず、有効な策を打ち出せずにいる企業も多いのではないでしょうか。バズワードに惑わされず、本質を見極め、自社にとっての最適な道筋を見つけるためには、DXの成り立ちや未来へのトレンドについてを理解しなければなりません。

アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや講演、研修を行っています。ブログでは少し難しい話も取り上げていますが、初心者様向けにかみ砕いた解説も可能です。もちろんオンラインにも対応できます。詳しくはこちらをご覧下さい。

BCN CONFERENCEでの基調講演が記事化されました

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