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DXプラットフォームとは何か ~あるいは、何であるべきか

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このところ、「DXプラットフォーム」という言葉を目にすることが多くなってきました。しかし、その使われ方にはまだ明確なルールが無いようです。まあ、DX自体の理解すら様々な現状では、仕方ないことではあります。

「DXプラットフォーム」という言葉は、大手SIerの部署名に始まり、ハードウェアベンダー、クラウドベンダーなどがDXを実現するためのソリューションとして打ち出しています。しかし、これらの中身はハードウェアやクラウドサービス、AI、IoTなどの「DXのために必要とされる基礎技術」をベースに、様々な技術を一括でまとめて提供しようというものが多い様に見受けられます。「これだけのものを用意したから、何にでも対応できます。あとはお客様と一緒に、何ができるか考えましょう。」というスタンスなのではないでしょうか。それはそれでプラットフォームという用語の使い方としては間違っていないとも言えますが、それが今、お客様が求めているであろう「DXの悩みを解決してくれる」プラットフォームなのか、というと、ちょっと難しいのではないかと思います。

bg_digital_pattern_green.jpgDXプラットフォームの条件とは

現在、特に日本で求められているのは、こういった基礎的な技術を盛りだくさんに満載した「技術の寄せ集め」的なプラットフォームではなく、もっと実践に役立つ(言い換えれば、ソリューションを提供できる)、具体的な利用イメージを提案してくれるプラットフォームなのではないかと思います。

今のDXの定義は2015年末にIDCが発表したものが主に使われていますが、その中でDXとは「第3のプラットフォーム」を利用した変革であると定義しています。ここで言うプラットフォームは、クラウドやAIなどの要素技術を指していたのです。しかし、それはDXの要件であり、解決策ではありません。今求められているプラットフォームは、その上のアプリケーション層までを含んだもの、即ち、現場のデータを迅速に吸い上げて集約(ERP)し、データを分析して経営陣に提示(BI/AI)、即座に戦略に反映(CRM/SFA)させ、サービスを継続的に進化させる(Agile/DevOps)などの機能を、ひとつの流れとして提供できるのが、今求められている「DXプラットフォーム」なのではないでしょうか。

「テンプレート」を提供するのがDXプラットフォームの役割

自社でバリバリDXを推進できるのは、一部の企業に限られます。多くの企業では、「これに乗っかってもらえば、一定のレベルまでは行けます」というソリューションのほうがありがたいのではないかと思いますし、日本全体のDXレベルを上げるためには、そのほうが手っ取り早いと考えられます。これは、かつて一大ブームを巻き起こしたERPパッケージに似た考え方です。世界中の企業で実践され、成功が確認されているベストプラクティスに沿ったテンプレートがさまざま用意され、最も適合するものを導入して業務をそのテンプレートに合わせて修正すれば、グローバルレベルの業務プロセスを簡単に導入できるという考え方です。

余談ですが、日本では多くの企業がERP導入に失敗したと言われています。それは、日本企業は現場への拘りが強く、業務プロセスの変更に大きな抵抗があったためにテンプレートの大幅な修正を余儀なくされ、ベストプラクティスの恩恵を十分に得られなかったばかりか、バージョンアップの度に修正が必要になり、大幅なコスト増に繋がったからだとされています。DXでは同じ轍を踏まないようにしなければなりません。

こういった、テンプレートや「理想的な使い方」を具体的に提案でき、それに必要なサービスや製品を持ち、提案できるのは、ハードウェアベンダーでもIaaS中心のクラウドベンダーでも無く、クラウド上のソリューションを包括的に提供できる、SaaS系の事業者になるのだろうと思います。たとえば、これをすぐにでも提供できるポジションにいるのが、エンタープライズ向けの幅広いサービスをクラウド上で提供しているMicrosoftではないでしょうか。クラウドでトップを走るAmazonは、仮想マシンやミドルウェアは豊富に提供できますが、それらを組み合わせてソリューションを構築するのはあくまでも顧客であったり、SIerなのです。

その他に可能性があるのは、SAPやSalesforceなど、既に一定のソリューションを持ち、それを幹にサービスを拡大していける企業になるのではないでしょうか。SAPは、早くからプラットフォーム化を目指し、カラム型を取り入れた新型データベースであるHANAを投入し、機能強化を図ってきました。

SAP HANAは次世代の「プラットフォーム」として広がるか (1/2)

この頃はまだDXという言葉は広まっていませんでしたが、この取り組みが今まさにDXの実現に不可欠な要素となってきたことには、SAPの先見の明を感じます。DXプラットフォームとしての可能性は十分にあります。

あとは、IBMやOracleにもチャンスはあるでしょう。ちょうど、Oracleの新社長のインタビュー記事が出ていたのですが、

帰ってきた"ミスター日本オラクル"三澤社長 データベース戦略でDXの「開発」に何をもたらすのか

この中で三澤社長は

最先端の環境でアプリケーションを開発し、それを速さと安全性を備えたクラウドで運用することで、DXを実現する

と述べています。「大規模かつ高い可用性を求めるシステムのクラウド化に向けた市場はこれからだ。その領域でOracleは圧倒的に有利だと考えている」ということですが、確かにOracleのDBの信頼性は抜群です。他にもSFAやERPも持っていることから、DXプラットフォームとして有望とも言えます。OracleはDBを基本としてERP/CRM/SFA機能を強化してきているのに対し、SAPはERPからDBを追加してSFAやCRMを強化しているわけで、目指している方向性は同じ様です。

三澤社長も言われているように、ミッションクリティカル系では絶大な信頼を得ているOracleですから、その強みを活かしていけば一定のポジションを得ることは可能かと思います。ただ、このセグメントにはIBMという強敵が控えているのですが。。

 

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