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Apple M1 はスマホの技術を使った、スマホ時代の新しい PC なのか

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先々週、Apple Silicon(M1)を搭載したMacについての記事を書きましたが、そのとき「Intel Macよりも速い」かもしれないというベンチマーク結果をご紹介しました。

Appleの新M1チップの注目点はユニファイドメモリだ

当時はM1 Macのレビュー記事がまだ許可されていなかったようで、怪しい結果しか無かったのですが、その直後からApple M1を載せたマシンの試用レポートやベンチマークが続々と上がってきています。そして、そのほとんどが驚くべき結果を出しているということです。高速な上に消費電力が少なく、そのため発熱も少ないという、非の打ち所のないマシンに仕上がっているようです。

M1搭載Macの実力を改めて体感--Appleニュース一気読み

M1 Macの高速さは多くの業界人を驚愕させるだけのものです。コンピュータの世界でも、ここまで人々の予想を裏切るほどの進化を見せるテクノロジーというのはそうあるものではありません。ほとんどの場合、ベンダーがどれだけ自慢しても従来比数10%向上、とかいうレベルです。今回の、CPUで3.5倍、GPUで5倍という性能アップは異常ですし、このくらい違うと体感上も明らかにわかりますから、皆が驚愕したのも頷けます。

character_program_fast.pngそんなわけで、めちゃくちゃ売れまくっているようです。まあ、そりゃそうですよね。

M1搭載Mac mini発売でアップルの販売数量急増、メーカー別シェアでトップに

M1 Macの速さの秘密 ~ユニファイドメモリ以外の理由

先々週の記事で、M1 Macの高速性の秘密はユニファイドメモリであるということを書きました。その後いろいろな記事が出ましたが、それが大きな理由であることは間違い無いようです。

M1版MacとPS5、最新ハードに見える「快適さを生み出すため」の共通点

しかし、この記事やその他の記事を読んでいると、どうもそれだけでは無いようです。

Apple Silicon搭載Mac、3モデル徹底比較 M1の性能は予想外の「ほぼ同じ」(本田雅一)

この中で、

実際にはスマートフォン向けSoCをアップスケールしてパソコン向けに再アレンジすれば、どのプロセッサもM1ぐらいの電力あたりパフォーマンスを出せるのかもしれません

という記述がありました。M1はiPhone用のプロセッサであるAシリーズがベースになっていますが、Aシリーズは元々省電力で最高の性能を発揮するように設計されていたわけです。それをPCに転用すれば、チップサイズや消費電力の制約が少なくなるので、速くなるのはある意味当たり前だ、ということではないでしょうか。他のスマホ用プロセッサをPCに使っても、同様の性能向上が期待できるのかもしれない、というのが本田さんの記述の背景だと思います。

でも、それができるのは今のところAppleだけ、というのがミソですよね。スマホとPCを作り、チップもOSも内製できるメーカーは他にはありません。スマホチップのベンダーにしても、スマホに比べて数の出ないPC用プロセッサをスマホチップをベースにして新しく開発・製造しようというインセンティブがありませんし、作ったところでハードウェアメーカーに使ってもらえるかどうかもわからないでしょう。それに、OSや周辺機器も巻き込んで最適化しないと高性能は出せません。自分の欲しいものを自分で作る、垂直統合のAppleだからこそできたことなのでしょう。

同じくスマホ用のチップをラップトップ用に転用してWindowsを載せたSnapdragonでは、どうも目的を達成できていないようです。

Windows on ARM で Microsoft が実現したいこととは

本当はMicrosoftがチップを作ればAppleと同じ土俵に立てるのでしょうが、今のところはそのつもりは無いのでしょうね。

動画・SNS時代に最適化されたPCなのか

スマホのチップがベースと言うことは、スマホが得意な分野に強いのは当たり前です。M1への不満というか懸念として多いのが、やはり16GBの制限ですが、これも前の記事で書いたように、使い方次第ということで、普通にOfficeで仕事をし、動画を見、Webを見、SNSに投稿するためのショートムービーや画像の編集を行うには十分でしょう。M1はスマホが強い分野=動画視聴やSNSへの投稿に向いたプロセッサであり、それを使ったPCは動画・SNS向けのPCなのであると見ることもできます。

IntelやAMDのチップは、SNSへの最適化は考えていません。シミュレーションなどの科学技術計算などでも高い性能を出せるような(というか、特定の演算のみ高速なするような)構造にはなっていない筈です。そこが、今回のさまざまなベンチマーク(動画などが中心のように見えます)でM1が圧倒的な結果を出している背景にあるのかもしれません。今後さらにいろいろなベンチマークが出てくるかと思いますが、科学技術演算系でどのような結果が出るのか、楽しみです。

 

「?」をそのままにしておかないために

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