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サービスメッシュのオープン化に対するMicrosoftとGoogleのアプローチの違い

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MicrosoftがKubernetes対応のサービスメッシュであるOpen Service Mesh(OSM)を発表しました。OSMはサービスメッシュの標準仕様であるService Mesh Interfaceに準拠したオープンソース実装で、同時に将来CNCF(Cloud Native Computing Foundation)に寄贈する予定であることも発表されました。

マイクロソフト、サービスメッシュの新たなオープンソース実装「Open Service Mesh」発表。Envoy採用、CNCFへ寄贈予定

記事にあるように、そもそもService Mesh Interface(SMI)自身、Microsoftが主導して発表したものです。

マイクロソフトやHashiCorpらが「Service Mesh Interface」(SMI)を発表。Kubernetes上のサービスメッシュAPIが標準化へ

internet_router_mesh_network.pngのサムネイル画像サービスメッシュはESBの再来ではない?

サービスメッシュというのは、マイクロサービス同士を結びつけ、安全に通信できるようにするためのデータ交換インフラです。最初に聞いたとき、SOAにおけるESBみたいなものかと思って調べてみたのですが、ちょっと違うようです。

マイクロサービスアーキテクチャのためのアプリケーション統合:サービスメッシュはESBではない

記事には

ESBソリューションは通常、異種のシステムやAPIへのコネクタ、メッセージのルーティング、変換、回復力のある通信、永続性、トランザクションなど、すべての組み込み統合機能の原動力です

とあります。しかし、マイクロサービスでは

サービスメッシュはESBの一部であるいくつかの機能を提供するので、それがアプリケーション統合も行う分散型ESBであるという誤解があります。それは正しくありません。

ということです。

サービス間の通信のためのインフラストラクチャとしての使用のみを目的としており、その内部にビジネスロジックを構築するべきではありません

ということです。今回のOSMも、データプレーンにハイパフォーマンスプロキシのEnvoyが使われているということですので、ESBよりは低い階層を担当するものという位置づけのようです。

何故Googleは参加していないのか?

興味深いのは、上記のSMIにGoogleが参加していないことです。

cndjp春のService Mesh祭り!- cndjp第14回 レポ

Googleはこういった共通仕様やオープン化の取組みには積極的に参加するイメージがあります。ましてや、SMIはKubernetes上でのサービスメッシュの標準をOSSで開発しようとするものであり、KubernetesはGoogleがオープン化した技術です。本来であればSMIについてもそれを主導するか、少なくとも参加はしてきたのではないかと思うのですが、今回SMIに参加していないのは、何か理由があるのでしょうか?

私は、この背景にはサービスメッシュのデファクトはGoogleのIstioで決まりかけているということがあるように思います。Googleとしては、わざわざSMIに参加しなくても、自社の技術がデファクトになれば他が勝手にそれに合わせてくれば良い、と考えているのではないでしょうか。それに対して、出遅れたMicrosoftが2位以下のグループを束ねて標準化を行い、失地を回復しようとしていると考えれば、この展開も納得できます。

Google不参加ながらIstioには対応

SMIのサイトでは、パートナーシップの欄にGoogleの名前はありませんが、エコシステムの欄にはIstioのロゴがあります。これはSMIがIstioにも対応しているということです。

Service Mesh Interfaceの紹介 - Brendan Burns氏のQCon New Yorkでの講演より

によると、SMIは

Service Mesh Interface(SMI) 仕様は、さまざまなサービスメッシュ実装の上に抽象化レイヤを提供することで、システム内のプロセスを変更せずに実装を簡単に交換できるようにする。

ということですので、前述のIstio対応は、SMI陣営側がGoogleのIstioに対応した抽象化レイヤを提供している、ということなのでしょう。一方で、OSMはEnvoyに対応した抽象化レイヤと考えれば良さそうです。

OSSに潜む罠

この件でいろいろ調べていて、こんなエントリを見つけました。OSMのソースコードに、他のOSSのコードが含まれていたということです。

2020年8月7日 Linkerdが好きすぎて... Microsoft,「Open Service Mesh」一部コードのコピペを認める

これはOSSのリスクを表わしています。たとえ盗用のつもりが無くても、他人のコードが紛れ込むことはあり得ることで、しかもそれは結構な確率で発見されてしまいます(なんせソースが公開されていますから)。開発段階で一時的に他のソフトのコードを流用することはあるでしょうから、リリース時にそれが残っているということが起こりえます。今回のように即刻謝罪すれば大きな問題には発展しないと思いますが、不特定多数が参加する開発コミュニティにおいては、これを適切に管理するのはかなり難しい作業といえます。

 

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