日本でもコンテナがキャズム超えに 今後はコンテナオーケストレーションの活用方法が課題
日本でもやっと、コンテナが市民権を得つつあるようです。IDCの調査によると、コンテナ使用企業が急増し、年内にキャズムを超えるのでは、ということです。
Dockerコンテナを本番環境で使用している国内企業は14.2%。「年内にキャズムを超えることは確実」と、IDC Japan
キャズム(chasm)は「隔絶・溝」を意味する言葉で、新しい技術などが市場で受け入れられるためには一定のシェアをとらなければならない、という理論です。その割合が16%と言われており、コンテナの利用が近々これを超えそうだと言うことですね。2月の調査と言うことで新型コロナの影響が気になりますが、米国ではむしろクラウドへの移行が活性化しているようですから、日本でも同様なのではないかと思います。
それに加えて、調査では「コンテナを知らない」という人が昨年の20.9%から7.9%に激減しており、その点からも普及期に入ったとみても良いかも知れません。
当時はまだ国内では一部を除いてコンテナの活用は進んでおらず、
オンプレミスのサーバーをIaaS上の仮想マシンに移行して「クラウド化完了」と言っているような事例
が多かったように思います。「リフト&シフト」のリフトですね。やっとここまで来たということで、今後「シフト」あるいは「クラウドネイティブ」を目指さす条件が整ったと言うことでしょう。
この後はマルチクラウドへ
やっと海外に追いついてきた感じですが、この後の展開については、すでに先行例がありますので、当面の見通しはある意味簡単です。ただ、方向性は見えても、それを実現する手段が、欧米は「内製」日本は相変わらず「外注」という違いがありますので、この辺で違いが出てくるのかも知れません。
欧米でコンテナへの移行の後に起こりつつあるのは、ハイブリッド・マルチクラウドへの移行です。
Microsoft365を契約している企業がファイルシェアにBoxを使い始めた場合、言ってみればマルチクラウドですが、この場合はSaaSですので、特に珍しいことでもありません。ここでマルチクラウドと言うのは、IaaS/PaaS基盤を複数のクラウドベンダーに分散させるという使い方です。
この動きの背後には、ZDnetの記事にあるように、ベンダーロックインへの警戒があります。そもそもクラウドと言うのは、特定のハードウェアベンダーの製品を使い続けなければならないというベンダーロックインから解放されたい、という思いから発展してきた側面もあるのですが、その移行先のクラウドをいったん決めてしまうと、容易に他のベンダーに移れないというロックイン問題が発生してきたのです。VMwareを使うなどして頑張っていた企業もありますが、仮想マシンの仕様が微妙に違ったり、技術仕様がころころ変わったり、管理ツールが違ったりでなかなか難しいことになるようです。そもそもクラウドの世界は技術進歩が早く、新しい技術への対応もしていかなければなりませんから、ユーザー側もとても手が回らないということでしょう。
しかし、コンテナとそれを管理するコンテナオーケストレーションツールであるKubernetesが標準の位置を獲得したことで、事態は大きく変化しました。仮想マシンよりも簡単にワークロードをデータセンター間、あるいはクラウド間で簡単に移動させることができるようになったのです。Kubernetesによって、やっと本来のハイブリッド・マルチクラウドを実現できそうになってきました。
そして鍵はコンテナオーケストレーション
その中で、Kubernetesを使ってマルチクラウドを実現するためのプラットフォームが沢山出てきています。
GoogleのAnthos、Azure Kubernetes、Amazon Elastic Kubernetes Service (EKS)と、3大クラウドは各々Kubernetesを提供する環境を持っています。それぞれがオンプレミスのコンテナも管理でき、他のクラウドベンダーのコンテナも一元管理できます。【2020/5/27訂正:Azureのマルチクラウド環境はArcで、AWSはマルチクラウド対応ではありませんでした。他のマルチクラウドKubernetesとしてはVMware Tanzuがあります。】昨年、JEDI案件では存在感の薄かったGoogleですが、この分野では契約を勝ち取りました。まあ、元々Kubernetesを開発したのはGoogleですからね。
そして、もうひとつのKubernetes環境は、IBMが買収したRed Hatが提供するOpenShiftです。Google、Azureに続き、AWS版が先ごろ発表されました。こちらはOSまで含んだ環境ですから、汎用性はさらに高まると考えられ、今後の要注目技術でしょう。
このように、Kubernetesが出てきたから安心、ということではなく、今後しばらく(どれがデファクトになるかが決着するまで)は、どのベンダーでどのツールを使ってコンテナを管理していくか、ということが重要になるでしょう。もしかすると、Kubernetes以外のオーケストレーションツールが出てくるかもしれませんし。(そうなるとまた最初からやり直しなのでしょうか。。)
しかし、ユーザー企業がこの変化に追いついていくのは容易ではありません。SIerさんなどは、各クラウドの特徴を把握し、どのように組み合わせるのが最適なのかをお客様に提案できれば、コンテナ時代でも頼りにされるベンダーになることができるのではないでしょうか。
「?」をそのままにしておかないために
時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。
アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会を開催しています。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。