DoD入札で見せた米政府のしたたかさ
先月末、Microsoftが米国防総省の10年間100億ドル(1兆円超)におよぶ「JEDI」案件を落札して話題になりました。ずっとAWSが有利だとか、AWSしか応札できない仕様になっているとか言われていたため、Microsoftが落札したのは意外と受け止められたのです。ところがこの件で昨日新たな動きがありました。Amazonが政府を提訴したのです。
JEDIを巡っては、昨年Oracleが政府を訴えています。このときは「入札仕様がAmazonに有利だ」という理由だったのですが、今回Amazonは「Microsoftが落札した背景には政治的な影響がある」ということで訴えたようです。トランプ大統領の介入があったのではないか、ということですね。それにしても、入札がらみで政府を訴えるとは、日本ではちょっと考えられません。そういえば昔、「1円入札」ってのがあったよなあ、と思っていたら、なんと今でもやってるんですね。日本、大丈夫か?
漁夫の利を得たMicrosoft?
とにかくこのJEDIは参加メンバー(エリソン、ベゾス、トランプなど)が個性豊かで話題豊富です。こちらにざっくりとした経緯が書いてありますが、
この記事では、Oracleが訴訟を起こしたことで最終決定が今年にずれ込み、Microsoftに有利に働いたという見方をしています。
もう1つの問題は、RFIが公開された時点で、入札要件すべてを満たしているクラウドプロバイダーは1社、Amazon Web Servicesしか存在しなかったという点でした。結果的には、訴訟で長引いた2年もの間で、Microsoftが要件を満たすことはできましたが。
しかしこの案件、私が面白いと思ったのは、その契約方法です。
「10年間の一括契約」では無い!?
10年間、1兆円というのは「最大で」ということで、実際にMicrosoftに保障されているのは現時点で「2年間、100億円」だけなのだそうです。実際には2年間でさらに230億円程度が支払われる見込みということですが、その先は2年間の成果を見て、契約を継続するかどうかを決める、ということです。
米国防総省は、大きな人参をぶら下げて応札各社の競争を煽り、その実10年間のディールを1社に固定することを嫌い、段階的な契約としたのです。なんとしたたかなことでしょう。
確かに、現代において10年先までの契約を締結するのはかなりリスクがあります。Microsoftが潰れるとは思いませんが、10年後までクラウドの最先端を走っていられるかどうかはわかりません。そもそも、10年後にまだクラウドかどうか、という問題もあります。何か全く新しい環境になっている可能性もあるでしょう。当然、その間の技術革新を取込んでいくような契約にはなっているでしょうが、それでも1社にかけるのは危険すぎます。
上の記事にもありますが、Amazonが2012年にCIAのクラウド化案件を受注したとき、Amazonの技術力は圧倒的でした。その7年後、Microsoftに追いつかれ、失注してしまったわけです。しかも2年前だったらAmazonだっただろうという見方すらあるなら、10年間の契約を固定してしまうことはリスクが大きすぎます。(その意味では、OracleもAWSも、あるいは他社も2年目以降はまたチャンスがあるわけですね)
日本ももう少しなんとかしましょうよ
上の記事によると、国防総省は過去2年間でクラウドに110億ドルをつぎ込んでいるそうで、これは今回の10年間の契約金額を超えています。これらをJEDIへ移行するだけで、大幅なコスト削減になるのです。クラウドを集約することの経済効果が如何に大きいかわかります。
プレスリリースによれば同省が過去2年間に結んだクラウド契約は10種類にも及び、契約金額は合計110億ドル(約1兆2000億円)にも達していたという。国防総省は様々なクラウドで稼働しているシステムをJEDIに移行することで、クラウド運用の効率改善を図る。
これらはすべて米国民の税金です。税金を最大限効率的に使おうということでGAFAを締め上げるとは、米政府もなかなかやるではないですか。
翻って、日本政府のこの有様はなんでしょうか。
違う国というよりも、違う星の話に見えてしまいます。2025年の壁問題などで民間の尻を叩くようになった政府ですが、官公庁のITリテラシー向上も急いでいただかないといけません。そもそもIT担当相がはんこ議連会長という、ジョークのような状況はなんとかして頂きたいものです。
「?」をそのままにしておかないために
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