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大騒ぎになった「Libra」 ~その理由は?

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先週はFacebookの仮想通貨「Libra」が発表されましたが、政治まで巻き込んで大騒ぎになっています。IT関連の発表がここまでの騒ぎになるというのは珍しいのではないでしょうか。これは、Libraのインパクトの大きさに加え、ブロックチェーンの評価が未だ定まっていないことが原因なのかも知れません。

Libraについての解説記事は多く出ていますが、その構想自体は、合意形成などでの技術的課題を克服していること、ステーブルコインという決済に向いた特徴を持ち、投機目的に利用しづらいこと、ビットコインのような管理者のいないパブリックチェーンでは無く、コンソーシアム型であることなど、よく考えられたシステムという印象を受けます。

Facebookの仮想通貨、Libraが世界標準に?27億ユーザーを巻き込み、世界最大流通貨幣となるか

network_blockchain.pngしかし、今回の「Libra」についての報道を見ていると、IT業界を越えていきなり賛否両論が巻き起こっており、これは面白い現象だなと思いました。例えば、

Facebook、仮想通貨「Libra」を発表→米下院が即反応「やめて」

これ、笑えますねえ。事前に当局と調整とかしてないんでしょうか。日本だったら、確実に根回しが行われる事例だと思うのですが。他にも、

FacebookのLibraは暗号通貨よりむしろ信用紙幣、金融当局はシャドーバンク化を強く警戒

やはり、根回しとかしていないようですね。しかし、これがうまくいくとFacebookのユーザー27億人が使うかもしれないわけですから、影響は非常に大きいわけです。日本でいち早くビットコインの可能性を指摘した野口悠紀雄先生も、そのインパクトの大きさを強調しています。

「リブラ」は、国家管理に対する重大な挑戦になる

記事にあるように、仮に27億人が使う通貨になるとすれば、日本円はおろか、人民元よりも利用者数の多い通貨になるわけです。利用者数としては基軸通貨としての米ドルの方が多いかもしれませんが、その地位を脅かすとなれば、米政府も黙っていられないのでしょう。それを一企業がコントロールすることができるとなると、これは穏やかな話ではありません。(一応、コンソーシアム方式の立て付けにはなっていますが。。)

ホワイトペーパーが公開されていますが、技術的には、相場変動の少ないステーブルコインであること、ビットコインで指摘されていた合意形成の問題をクリアできていることなど、注目に値する特徴があります。ホワイトペーパーは読みにくいので、以下がよくまとまっています。

Facebookのリブラ・ブロックチェーン、注目すべき4つの特長

将来はオープン型に移行すると言っていますが、スタート時点ではコンソーシアム型というのは良いと思います。私も以前、ブロックチェーンの運用については当面はコンソーシアム型が良いのではないか、という話を書きました。

2019年はブロックチェーンの年になるのか

悲観論

悲観的な見方の中には、こんな意見もありました。

Facebookの仮想通貨Libraは設計的には失敗するだろう

内容としては、こんな面倒なもの先進国のユーザーは使わないだろうし、途上国ならドルを使うんじゃ無いか、ということですね。税金に焦点を当てているところがユニークだと思いました。しかし、

こんな税制上面倒なリブラを日常で使う人はまず日本には出てこないでしょう

まあ、日本って、仮想通貨どころかキャッシュレスすら後進国ですから、税制以前の問題かも知れません。

そして、最大の懸念はやはり、ブロックチェーンについての否定的な論調でしょう。5月にもこんな記事が出ています。

ブロックチェーンは何も解決しない。

正直、肯定派と否定派のどちらに理があるのか、現時点では(私には)わかりません。ビットコインはなんとか運用されているようですが、他の仮想通貨では改ざんなどの被害も出ているようです。恐らく、○か×かではなく、その間に正解があるのでしょう。極論、不完全なシステムでも、それをカバーする運用ができれば良いわけです。現在の金融システムだって、いろいと問題はあるわけですが、それでもなんとか使っているわけですから。

いずれにせよ、発表から1週間も経たないうちに、これだけ賛否両論が巻き起こるというのは、それだけ世間の関心が高いということでしょうし、本当に動き出したときのインパクトは相当大きいものになるでしょう。

 

「?」をそのままにしておかないために

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