IE の亡霊を断ち切れない Microsoft
先々週のMicrosoft Buildで、EdgeへのIEモードの搭載が発表されました。ここ数年、IEからの脱却を進めてきたMicrosoftにとって、大きな戦略転換です。IEを無くすことをあきらめ、共存していこうということでしょう。
Chromiumベースの「Microsoft Edge」には「IE mode」あり
[速報]次期Micrsoft Edgeに「Internet Explorer mode」搭載。企業向けにIE11のレンダリングも提供。
MicrosoftはEdgeのエンジンをChromiumに変更するという発表を行ったばかりですが、その新Edgeに、IE11との互換モードを搭載するというのです。
要約すると、
- 昔IEが市場の9割以上を占めていた時代に、Microsoftは独自の拡張機能を多くIEに追加し、それが便利だったため、それを使ったサイトが多数立ち上がり、企業の社内システム(イントラ)などでも広く使われた。
- しかし、IEのシェアが低下し、世の中がHTML5に移行するにつれ、公開のWebサイトはどんどんHTML5に移行した。
- しかし、企業の内部システムの改修にはコストがかかるため、MicrosoftがIEを提供してくれているのを良いことに、未だにIEでないと使えないサイトが多く残っている。
ということですね。しかしMicrosoftとしても、いつまでもIEを提供し続けるのはコストもかかりますし、根本的に作り直せない限りセキュリティ面でもよろしくありませんから、IEからEdgeに乗り換えるよう再三呼びかけを行ってきました。
実際、2月にもIEの使用を止めるように改めて要請を出したばかりでした。
この中で、
IEを使うということは長期的に見て最適な選択なのではなく、単に楽で移行の手間がかからないからそうしているだけで、かえって余分なコストを生み出している
というコメントが紹介されています。
なんとなく、IEを未だに使っているのは日本企業くらいなんじゃないか思っていましたが、これを見ると、世界中でまだまだ使われているのでしょうね。「余分なコスト」というのは、デジタルトランスフォーメーションの遅れなどを指すのでしょう。企業側も「わかっちゃいるけど。。」という状況なのでは無いでしょうか。
現実的な選択をしたMicrosoft
これだけ言ってもやめてもらえないのでは、Microsoftとしても、できることは限られてきます。かといって、そういったユーザーを切り捨てるわけにもいかない。しかし、IEはもうこれ以上提供したくない。ということで、EdgeにIE互換機能を付加することで、とにかく「まずは世の中からIE(及び古いOS)を無くしていく」という戦略に転換したのでしょう。
Publickeyの記事についてのまとめでは、「下位互換はもうやめてほしい」「退化してないか?」という意見もありますが、「現実的には仕方ない」という意見もあります。なかでも、
IEを絶滅させるにはwindowsからIEを削除することが必要だし、いったん全員をEdgeユーザーにさせるこのステップは悪くないと思う
という意見には賛成です。
ブラウザは差別化にならない
Microsoftの戦略転換の背景には、ブラウザの位置づけが変わったことがあります。かつて、ブラウザのシェアを取ることが市場を抑えることに繋がる時代があり、「ブラウザ戦争」が起こりました。その中で、他社との差別化を狙って独自の機能を追加して行った結果が今のIE問題に繋がっているわけですが、今や時代は変わりました。Microsoft以外の各社が協力してブラウザ依存の少ないHTML5を開発した結果、今ではどのブラウザを使っても、Webサイトは正しく表示され、使えるようになっています。
こうなると、自社製のブラウザに多大なリソースをかけても他社との差別化に繋がらず、メリットは少なくなります。EdgeがChromiumを採用することにしたのは、まさにこういった理由からと考えられます。
極端な話、標準に完全準拠したオープンソースのブラウザがひとつあって、それを皆が使えば、互換性問題も完全に無くなるでしょう。その筆頭候補がWebkitだった訳ですが、Googleはそれをフォークしてしまいました。Googleにはそれなりの理由があったようですが(その経緯についてはこちら)、元は同じですから兄弟のようなものです。今後は、この2つのエンジンを中心に、UIやちょっとした機能を加えてブラウザを作るということになっていくでしょう。
クラウドの未来はどうなるのか?
クラウドの世界は常に進化し続けています。御社では、未だにIEベースの社内システムが動いていたり、WebサイトでFlashなどの古い技術を使い続けたりしてはいませんか?
アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会のご相談に応じています。是非お気軽にお問い合わせ下さい。