個人情報を「集めないこと」が差別化になる時代
先週は毎年恒例のAppleの製品発表がありました。今年はハードウェアの発表は前の週に済ませてしまい、新しいサービスを中心とした発表になったことは、すでに報道されているとおりです。これは、Appleがハードウェアビジネスからサービスへ大きく舵を切ったことを意味しているということでしょう。
スマホは十分に普及し、インフラ化してしまいました。需要が無くなることは無いでしょうが、大きな成長は見込めないという状況にあります。その中で、サービスに活路を見出そうというのは順当な戦略といえます。
その中で登場したApple Cardは、Appleの個人情報保護への取り組みを反映した新しいセキュリティ思想を提示しました。
この記事の中で、提携先のゴールドマンサックスの「ゴールドマン・サックスはデータ収集しません」という言葉が紹介されています。Apple Cardの利用履歴はサーバーに送られず、デバイス側に保持されるということです。これは、今あちこちで問題になっている、プラットフォーマーによる個人情報の収集・利用について一石を投じるものです。
世界中に広がる『Apple Pay』利用者の購買データは、マーケティングにおいて非常に有効。これを使わないと宣言するとは、なんともったいなことをと思ったのだが、『Apple Card』には新しいセキュリティが設定され、ユーザーの購入品目や購入場所、金額などの利用履歴は、Appleのサーバーではなく、デバイス単位で作成される仕組み。宝の山をあえて追求せず、ユーザーのプライバシーを重視してシステムを構築しているところが、3つ目の革新的なポイントだ。
ここで「宝の山」と表現しているのは、GoogleやFacebook、Amazonが個人情報を元にビジネスを拡大させていることを指しているのでしょう。
個人情報をお金に換えるというビジネスモデル
Googleは、様々なサービスを無償で提供していますが、それはサイトに人を呼び込んで広告費収入を得るためです。広告を出すために、サイト訪問者の行動パターンや年齢・性別・居住地などのデータを収集し、最も効果の高い広告を画面上に表示させることで、広告の効果を高め、単価を上げ、広告収入を得ようとしているのです。Facebookも、Twitterも基本はおなじです。Amazonは商品を販売していますが、その背後で個人の購買履歴や行動パターンをベースに広告を打ったりレコメンドをしたりして売上を増加させています。個人情報は「宝の山」なのです。PayPayが派手なキャンペーンを打つのも、様々な決済サービスが顧客獲得競争を繰り広げるのも、同じ事です。プラットファーマーは、個人情報を収集し、効果的に利用することでビジネスを拡大させてきたのです。
欧州が怒った GDPRの意味
しかし、プラットフォーマーが個人情報を集めようとするあまり、ユーザーの意向を無視した形(ユーザーに黙って行動データを収集するなど)で情報を収集することが問題視され始めています。昨年EUで施行されたGDPRも、こういったプラットフォーマーの情報収集に一定の歯止めを掛けようとするものでしょう。
また、1月にはこんなこともありました。
FacebookやGoogleが規則に反する方法でiOSアプリを通じて個人情報を収集しようとしたとして、Appleがアプリ登録を抹消したのです。
この話にはさらに伏線があります。今年1月にラスベガスで開催されたCESの会場にAppleが出した広告です。
AppleはCESにはブースを出していませんでしたが、CESの会場からよく見える場所にこんな広告を出したのです。
「What happens on your iPhone, stays on your iPhone.(あなたのiPhoneで起こったことは、あなたのiPhoneの中にだけ残る)」
つまり、Appleはどこかの会社とは違って個人情報は収集しません、と言っているのです。個人情報を集め、処理することでビジネスを拡大させているプラットフォーマーに対し、明確にダメ出しをしていると言って良いでしょう。そして、それをすることが大きなメリットになると考えているのです。
FBIとも戦ったApple
さらに遡れば、こんなこともありました。
犯罪捜査のためにiPhoneのロックを解除してくれ、と頼んできたFBIに対し、Appleはプライバシーを楯に協力を拒んだのです。
Appleのサイトには、こんな宣言があります。
もはや「信念」とも言えるAppleのプライバシーへの取り組みは、個人情報の取扱いについて一石を投じようとしています。
これからのセキュリティを考える
サイバーセキュリティは、今後さらに大きな問題に発展していきます。特に、ハードウェア自体に脆弱性が発見されるなど、IoT時代を控えて新しいセキュリティへの取り組みは待ったなしの状況です。
こういった、プロセッサ脆弱性についても、その仕組みを理解し、リスクを正しく評価した上で無ければ、正しい対処はできません。
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