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Microsoftは何故QualcommとCaviumを選んだのか?

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MicrosoftがWindows ServerをARMに移植し、将来Azureで展開するという発表がありました。

米マイクロソフトは米国時間3月8日、組み込み機器向けプロセッサ「ARMプロセッサ」上にWindows Serverを移植し、性能検証を開始したと発表した。将来的に、Microsoft Azureなど同社のクラウドサービスの一部をARMプロセッサ搭載サーバー上で展開する計画だ。

ARMがサーバー分野でも存在感を増してきているという話は数年前から出ています。ちょっと調べたところ、ARMが64ビットアーキテクチャ「ARMv8」を発表したのが2011年、それを採用した初のサーバー向け64ビットARMチップApplied MicroのX-Geneを搭載したサーバーが出荷されたのが2014年末ということです。(これはサーバー向けの話で、本当に最初の64ビットARMはAppleのA7で、2013年に発売されたiPhone5sに搭載されています)

低消費電力が魅力のARMサーバー

これまでIntelやAMDが使われてきたデータセンターでARMが注目されたのは、やはりその消費電力の低さでしょう。元々組み込みやモバイル向けに設計されているARMは、省電力性能で勝っているとされます。ここ数年、消費電力はデータセンターでの大きな問題になっています。巨大なサーバーを大量に動かすことで電力を消費し、そのために発生した熱を冷やすためにまた電力が必要になる、という悪循環になっているのです。サーバー向けの64ビットアーキテクチャは長く待ち望まれていたのでしょう。

クラウドにおいては、OSとしてLinuxが使われていることも、ARM採用のハードルを下げています。Windowsはこれまでx86 (IntelとAMD) 上でしか動いていませんでしたが、Linuxはとっくの昔にARM対応しており、その他の多くのクラウド向けソフトもオープンソースですから、簡単にARMに対応できます。エンドユーザーから見れば、クラウドサーバー側で何のOSが動いていようが、プロセッサが何であろうが関係ありません。

MicrosoftがWindows ServerをARMに移植するというのは、今後クラウドサーバーではIntl/AMDからARMに比重が移っていくことを見越して (AMDもサーバー向けARMは作っていますが) のことでしょうから、これは納得できるところではあります。しかし、ARM対応のWindowsとしては、2011年に発表され2012年に出荷されたWindowsRTというのが既にあります。(いろいろ制限があり、市場に受け入れられずに無くなってしまいましたが) サーバー向けに対応するのであれば、もっと早くにできたのではないかという気もします。何故このタイミングだったのでしょうか? 調べてみたところ、いろいろと面白いことがわかりました。

Microsoftは64bitARMを待っていた?

プロセッサアーキテクチャといえばこの人、後藤弘茂さん。PC Watchの座談会でこんな話をされています。

みんなすごい誤解していて、ARMの64bitがほかのCPUの64bitと違うって事を全然考えてない。ARMはともかく32bitの出来がひどい。

要は、ARMは32ビットまではかなり特殊なアーキテクチャで、64ビットになってやっとまとも (≑IntelやAMDと似たアーキテクチャ?) になった、ということのようです。これで、Intel用に書かれていたWindowsも載せやすくなったのかもしれません。2012年に出たWindowsRTは32ビットARMで動いていたのでしょうから、いろいろ制限が出たのは仕方なかったのでしょうね。フル機能のサーバー用OSを載せるためには、64ビットベースのARMチップが出てくるのを待つ必要があったということでしょう。

しかも、QualcommとCaviumを指定

もうひとつ、今回の発表で気になったのが、以下の点です。

今回のデモで使用したCentriq 2400搭載マザーボード、およびThunderX2搭載マザーボード(台湾のサーバーメーカーInventecと共同開発)は、いずれもマイクロソフトが開発したOCP仕様のサーバー「Project Olympus」と互換性があり、マイクロソフトのデータセンターにシームレスに導入できるとしている。

「Windows ServerがARM64に対応」といえば良さそうなものですが、わざわざチップとマザーボードを指定しています。これ以外では動かないということ?

これも調べてみると、後藤さんはこの記事の中で

ARMは、サーバーだけに特化したCPUコアIPは、自社では開発していない。IPビジネスを行なうARMは、ニーズの高い市場にフォーカスしているためだ。サーバーに特化した高シングルスレッド性能コアは、ARMからアーキテクチャルライセンスを受けたベンダーによる開発を期待している。

と書いています。ということは、QualcommとCaviumのチップはARMの基本設計そのものではなく、拡張されているということでしょうか?

この先はなかなか情報が引っかかってこないのですが、QualcomのCentriqはFalcorというアーキテクチャで、詳細はよくわかりませんが、アウトオブオーダーをサポートしているようです。また、CaviumのThunderX2もARMv8をベースにアウトオブオーダーなどの機能を強化していると書いてあります。Windows Serverの移植には、これらのチップで採用された拡張機能が必要であった、ということなのかも知れません。このあたりは、また情報が出てきたら書きます。

 

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