【500万人】 若者は、いつから仕事に夢を描けなくなったのか〜アスキー新書『雇用崩壊』発刊によせて
4月9日付けの日経新聞でショッキングな記事を目にしました(以下、一部引用)。
- (前略)…「来年後半か来年末には失業率が7%(今年2月は4.4%)まで上がる可能性がある」。3月25日の経済財政諮問会議。内閣府の岩田一政・経済社会総合研究所長が発言すると、出席者は凍りついた。失業者がいまの300万人から【500万人】に拡大するという悪夢のシナリオだった…(後略)
派遣切り、内定取消、そして正社員への雇用調整など、雇用に対するネガティブなニュースが新聞に載らない日がないくらいですが、【500万人】はちょっと目を疑う数値です。もちろん国を挙げて雇用確保に向けた施策が講じられはじめています。「政府与党の案では、今後3年間で最大200万人の雇用を創出したい」(同新聞)とされ、21年度の補正予算でも雇用対策が前面に打ち出されています。
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気がつけば、バブル崩壊後、こうした雇用不安のニュースには少し慣れてしまったのかもしれません。リストラや就職氷河期が流行語にまでなった90年代以降、アップダウンを繰り返しながら雇用情勢は大きく変化してきています。
そんな中で私が一番気になっていることは、リクルート時代から見つめている若者たちのキャリア観です。バブル崩壊はすでに20年も前の話であり、その頃に生まれた世代が来年には大学を卒業して就職を迎えます。彼らはバブルの栄華を知らない世代なのです。もっと言えば、今の社会人のうち、20台・30台はすべてリストラ・大企業の倒産・就職氷河期をリアルに見ている世代なのです。
バブルを知らない彼らは、それまでの常識、つまり「がんばって勉強すれば、いい大学に入れる」「いい大学に入れば、大きな会社に入れる」「大きな会社に入れば、豊かな生活が保証される」といった全世代共通のモノサシを持ち合わせていない世代です。がんばって幸せを手に入れたはずの大人たちの悲劇を目の当たりにした彼らは、がんばる理由を失ってしまったのかもしれません。いつしか目標を探さなくなり、夢を口にしなくなってしまった。うまく路線に乗れない若者たちの多くは、歯を食いしばってがんばるより、フリーターやニートという生き方を選択しました。企業はそれを雇用の調整弁的に都合良く活用し、新しい就労構造ができあがりました。若者たちの間に、遠い将来の幸せを追いかけるより、今日楽しいことが大事だというような刹那的価値観が蔓延している背景に、こうした景気や雇用情勢の変化があるとは言えないでしょうか。
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4月10日、アスキー新書から『雇用崩壊』が出版されました。7人の筆者が分担し、それぞれの立場から雇用の現状と将来への処方箋を語っています。私は今回、その1人として、主に新卒者の就職動向に対する私見を執筆させていただきました。他の6人は、いずれも雇用のスペシャリストとして著名な方ばかりです。テレビでおなじみの民主党衆議院議員・枝野幸男氏、「若者はなぜ3年で会社を辞めるのか」を書かれた城繁幸氏、国際基督教大学の八代尚宏教授などが、それぞれの視点を寄せています。
『雇用崩壊』で伝えたいことは、決して崩壊している現状ではなく、明るい未来のために何ができるのかだと、アスキー新書の編集者は私に明示しました。とても難しいテーマですが、待っていては何も解決しません。じゃぁ、私にできることは何か。悲しいかな、たかがしれているかもしれません。ただ、私の記したことが、誰か1人でもいい、がんばる若者や大人の背中を押してあげることができればと願っています。。。