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【2.14倍】 速報:求人倍率調査~過去最高の求人数を更新するも、実態は格差社会

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 大学は今、新入学生を迎えて賑やかな季節を迎えていますが、一方で来春に卒業を控えた新卒者の採用戦線は早くも終盤戦を迎えていると言われています。そんな最中、リクルートワークス研究所から、定番の新卒採用市場調査結果の2009年卒者版が発表されました(4月22日付け)。正式な調査名称は『第25回ワークス大卒求人倍率調査(2009年卒)』。では順に見ていきましょう。

  ★求人総数は、過去最高を更新し、94.8万人。
   一方、民間企業への就職希望者数は44.3万人と、こちらも過去最高。
   その結果、求人倍率は昨年と同じ 【2.14倍】

 そもそも、この調査における求人倍率とは、【来春2009年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とする、全国の民間企業の求人総数】÷【民間企業への就職希望者数(2009年大学卒業予定者+2009年大学院卒業予定者)】で算出されています。簡単に書けば、

  『求人倍率=求人総数÷民間企業就職希望者数』

というわけで、これは『民間企業への就職を希望する学生1人に対する、企業の求人数』を表した数値となります。ですから、“1倍”を境目に、数値が1以上なら学生有利の売り手市場、1以下なら企業有利の買い手市場、と見られます。

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 これはあくまでマクロ的な見方です。つまり、2.14倍という数値から見れば、今年も新卒者有利の売り手市場ということになるのでしょうが、企業規模別、業種別で見ると、かなりの“格差”がはっきり見られます。

  ★企業規模別の求人倍率は、
   ・従業員1,000人未満企業: 4.26倍(2008年卒 4.22倍 2000年卒 1.55倍)
   ・従業員1,000人以上企業: 0.77倍(2008年卒 0.77倍 2000年卒 0.52倍)

  ★業種別の求人倍率は、
   ・製    造    業: 2.64倍(2008年卒 2.64倍 2000年卒 1.21倍)
   ・流    通    業: 7.15倍(2008年卒 7.31倍 2000年卒 3.19倍)
   ・金    融    業: 0.35倍(2008年卒 0.39倍 2000年卒 0.54倍)
   ・情報サービス業: 0.75倍(2008年卒 0.72倍 2000年卒 0.33倍)

 史上最高の求人倍率でありながら、従業員1,000人以上の企業(いわゆる大企業)への就職はやっぱり買い手市場だという現実がはっきり示されています。
 同様に、流通業は一人の学生に対して7名以上の求人がある、超売り手市場である一方で、金融業では0.35倍と、学生3人に対してやっと1人の求人枠がある程度という買い手市場だということが判ります。

 ちなみに上記の2000年卒というのは、調査開始以来最も求人倍率が低かった、“就職氷河期”と言われた年の数値。この氷河期でも、従業員1,000未満の企業(いわゆる中小企業)なら学生有利の売り手市場だったし、流通業なら学生1人に対して3人以上の求人枠があった売り手市場だったということです。

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 バブルが崩壊し、大企業が次々に倒産・合併により消滅する時代を迎えて以降、かつての就職構造は大きく変化したと言われています。採用に時間と労力をかける企業が増えています。採用する企業側からの言い方なら、いわゆる“厳選採用”ということでしょうが、同時に採用される学生側でも、じっくりと企業を、仕事を見つめて就活に取り組んだ人がベストマッチを実現できる、そんな時代になったと思います。

 つまり、学生のみなさんは、企業規模や業種といった大枠ではなく、企業そのものの魅力や仕事の中身で選ぶことが大事で、それこそが本来の就活の姿…のはずでしたが、数値を見る限りでは、企業選びの傾向は、求人状況がどうであれ、規模や業種といった大枠に左右されているようです。3年で3割辞めてしまうという数値が善か悪かは別として、少なくとも後で後悔することだけはないよう、地に足のついた就活ができることを願いたいところです。。。

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