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【41.4%】 就職白書2007~就職活動の早期化がもたらすもの

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 先週リクルートから発表された、就職ジャーナル版『就職白書2007』。08年卒学生の就職活動総括と同時に、09年卒者をめぐる活動予測がなされています。就職は時代を映す鏡ともいわれ、時々の景況感を色濃く反映する状況が毎年散見されますが、さて来年度はどうなるのでしょうか。

 昨今の求人状況は、求人倍率がバブル期を超えるほどで、どの企業も優秀な人材の獲得競争に必死です。とはいえ、バブル期と比べると、いろんな違いが見えてきます。この辺りはまた機会を改めてお話ししたいと思うのですが、今回の調査で一番気になったのは、採用活動スケジュールの見通しです。09年卒者の新卒採用スケジュールについて、【41.4%】の企業が「早まる」と回答し、逆に「遅くなる」と回答した企業は僅か0.5%でした。早期化の理由についての質問では、「より優秀な人材の確保」を挙げた企業が82.9%、「競合対策」が58.9%、「情報提供・選考プロセスの変化」が33.7%と続きます。バブル期、とにかく戦力確保を優先してきた新卒採用は、バブル崩壊とともに方向を大きく転換。企業業績が回復し、採用意欲が高まっている近年でも、企業が新卒者に求めるレベルは年々高くなり、どの企業もじっくりと時間をかけてでも優秀な人材を獲得しようとしているわけで、その結果が早期化ということになります。

 昨年12月17日付けの日経新聞に掲載された、就職状況調査(日本経済新聞社と日経HRの共同調査)によれば、「学生が会社説明会に参加した回数」が12月上旬ですでに10.5回(平均)に達していたそうです。さらに2割近い学生が、「自分または友人が内々定をもらった」と回答したとの結果が出ています。就職情報サービス会社が主催する合同会社説明会は、10月上旬からスタート。この時期から慣れないリクルートスーツを着た3年生が早くも就職活動を開始しているわけです。

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 実は新卒者の採用活動は、早期化と同時に長期化しています。現実問題として、採用活動は3年生の秋口からはじまり、終結するのは4年生の後半という企業が多くなっています。人事担当者の側から見れば、新卒者の採用活動はいつの間にか通年化しているのです。これが学生や大学にもたらす影響は少なくありません。

 一番大きな影響は、3年生後期がはじまったばかりの時期から就職活動に時間を割くことで、講義や実験実習など本来の“仕事”に力を注げないということです。大学にとっても就職は大きなテーマ。自由応募時代とはいえ、どの大学も必死に就職支援プログラムを展開していますが、これもどんどん早期化せざるを得ない。ですから3年生になると早々に、就職活動のオリエンテーションみたいなプログラムを始めることになるのです。

 企業側は学生に「大学で何を学び何を身につけてきたのか」を問いかけてきますが、3年の秋口で、まともに「コレを学びました!」「コレを成し遂げました!」と主張できる学生がどれくらいいるのでしょうか。この矛盾はなかなか解決策が見つからない、大きな問題となっています。

 企業側も早期化を歓迎しているわけではまったくないようです。大きな問題は、採用活動の長期化にともない、内定辞退者が増加しているという点。就職白書のデータでも、新卒学生一人当たりの内定者数は年々増加し、08年卒者では平均2.33社に達しています。企業側でも、59.7%が内定辞退を「かなり問題視している」と回答しています。

 私がリクルートに在籍し、新卒学生を対象とした採用情報誌・リクルートブック(東海版)の編集長をしていた時代とは、状況がかなり大きく変わっています。とはいえ、変わらないのは、いつの時代も、人材採用は企業にとって大きな課題だし、学生にとっても就職はこれまでの人生最大の試練だってこと。多分、近道はないんです。必死に汗かいてぶつかるしか、手はないのかもしれません。。。

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