モバイルビジネスの転換-第2回MVNOビジネスが携帯マーケットに与える影響-
【携帯電話市場の鈍化】
『携帯電話を持っていますか?』
この問いかけをした場合、大多数の方がYesと答えるはずである。携帯電話利用台数は
9,000万台を超えており、普及率は70%を超えており普及率は高い。
しかしながら、携帯電話の加入者数は徐々に鈍化しており、2000年の携帯電話加入者
数は前年同期比で20%近い伸び率であったものが、2006年には5.5%まで低下している。
前回ARPUの低下による携帯キャリアの収益面の課題を述べたが、携帯電話の加入
台数の低下により、携帯キャリア各社の売上鈍化につながる事が考えられる。
【国内MVNOビジネス本格化の兆し】
こうしたなか『MVNO』というビジネスがにわかに注目されている。 MVNOとは無線通信
インフラを他社から借り受けてサービスを提供している事業者のことである。日本では
2001年にウィルコムが通信回線を日本情報通信に貸し出し、日本情報通信がサービスを
提供するケースも見受けられる。
2005年以降、MVNO事業に参入する事業者が増加しており、音声通信サービスでは、
ボーダフォンやウィルコム、イーモバイルなどが参入しており、データ通信サービス分野
でもアイピーモバイル、YOZANなどが市場参入をしている。また、2006年の5月にはNTT
ドコモもMVNO事業に参入する意向を示しているなど、携帯キャリア各社のMVNOに関す
る見方は強まっていると言える。
アクセンチュアでは国内のMVNO利用者数は2006年時点で20~30万人程度であるが、
2010年には250万人、2010年には1,000万人を超えるものと試算している。
【MVNOビジネスが注目される理由】
なぜ、最近になってMVNO市場が注目されているのだろうか?そこには以下のような
要因が考えられる。
・携帯加入者数の鈍化により、新たな顧客囲い込みの戦略としてMVNOを推進
・総務省のMVNOビジネスに対する取組みの変化
・一般事業者のMVNOビジネスの注目度のアップ
携帯加入者数の鈍化により、既存携帯キャリアの顧客獲得に加え、イーモバイルなどの
新規キャリアの顧客獲得手段として期待されている。既存キャリアでは例えばウィルコム
ではサイボウズと連携して法人向けの携帯加入者の獲得を図る動きがでている他、イー
モバイルではニフティやSCNなどと提携してそれぞれの事業者の先にいるISP利用者の
獲得を狙う動きが出ている。
また、総務省のMVNOに対する姿勢も変化している。総務省では2002年にMVNOのガイ
ドラインを策定したが、よりMVNOの定義を明確化するためにガイドラインの見直しを図っ
ている。2005年末には民間事業者からのMVNO事業に対する意見書を募集する動きなど
が出ている。こうした政府の対応の変化もMVNO事業に拍車をかける要因となりうると
考えられる。
最後に民間事業者のMVNOに対する見方の変化が出ている。2001年頃より、MVNO
事業を開始する事業者は国内でも出現していたが、2005年までに2社程度のみしか
サービスを提供していなかった。しかしながら、2005年以降公開されている企業だけでも、
ジュピターテレコム、バンダイ、ニフティ、SCN、TOKAI、サイボウズなどがMVNO事業の開
始、及び開始予定/開始を検討しているなど明らかにMVNOに関心を持つ企業は増加して
いる。
【欧州のMVNO市場と国内のMVNO市場の動向と違い】
欧州ではMVNO事業は活発である。例えば欧州ではVirgineがMVNO事業者として有名
であるが、サービス開始後数百万人規模の顧客を獲得している。その他チボ、デビテル
など数数十社規模のMVNO事業者が存在する。米国でもVirgine USAのほか、ディズニー
モバイル、セブンイレブンなど多くの企業が参入している。欧米ともにVirgineのような
ブランド力のある事業者、またテスコ(流通業)のような販売チャネル・潜在顧客数が多い
事業者が成功を収めているので、国内でも同様の傾向が考えられる。
ただし欧米のMVNO事業と国内MVNO事業には以下のような大きな違いがあるので、
欧米の成功事例がそのまま当てはまるとはいえない。
・欧米の携帯電話事業の環境は製造や販売工程について携帯キャリアに依存しない
水平分業型が主であるが、国内では携帯キャリアと製造(メーカー)、販売まで一貫した
垂直統合モデルが主である。欧米では水平分業モデルが成り立っているゆえに、SIM
カ ードが一般的である。国内 の垂直統合モデルではSIMカードが浸透するとは考え
にくい。
・欧米では音声サービスが中心であり、データ通信サービスは日本程浸透していない。
国内では音声サービスに加えデータ通信サービスの提供も一般的である。
【結論】
国内MVNO市場は、携帯電話加入者数の鈍化を前提に①携帯キャリアの見方の変化、
②政府のMVNOに対する取組の変化、③一般事業者の参入の増加により注目を集め
つつある市場である。
しかしながら、欧米のMVNO事業との相違点は多く、同様なトレンドになるとはいえない。
例えばウィルコムが自社キャリア独自のみに利用できるW-SIMなどが出現している事など
を考えると国内独自の市場を形成すると考えられる。
今後のMVNO市場が楽しみである。
◎Appendix:PDF資料(この資料は独自に作成したものであり、数値・コメントは資料
作成者の推測に基づくものである)