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「女の子がたくさんいるクラブ」情報提供アプリの是非

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妻も娘もいる身の僕としては、まったく関係のない話ですが……「いま女の子がたくさん来店しているクラブはどこか」を教えてくれるアプリが登場しているとのこと:

Using Facial Recognition Technology To Choose Which Bar To Go To (Forbes)

SceneTap

左にあるのがそのアプリ"SceneTap"のイメージ画像。今月リリースされる予定とのことですが、その仕組みが大胆です。

実は「女の子がたくさんいる場所を教えてくれるアプリ」というものはこれまでも登場していたそうなのですが、そのほとんどが自己申告制、つまりFoursquareのような「チェックイン」行為を自主的的に行った結果をまとめるというものでした。

一方のSceneTapは、そのような能動的行為を必要としません。同社が契約した米国内の200店舗(特に本拠地であるシカゴでは50店舗以上)の出入り口にカメラを設置、その映像を自動解析して入場者の数と性別を把握してしまうというもの。ちょうど3年前に「目の前にいる通行人の属性を把握する看板」なるものが登場したことを書いていますが、これはその応用形と言えるでしょうか。

その意味では、SceneTapのように映像を自動解析して何かを割り出そうという発想は目新しいものではありません。例えばこちらは2年前の記事になりますが、「防犯カメラの映像から万引き犯を識別する」という試みがあることを紹介しています。ただし今回新しいのは、誰かを特定する情報ではないとはいえ、得られた情報が一般の人々に提供されるという点。これまではあくまでも企業内で活用されるデータの範疇に留まっていたわけですが(それでも100パーセント安心できる状況ではないものの)、ついにこうした形で公開される状況が登場しつつあるわけですね。

当然ながらSceneTap側は、何らかのプライバシー侵害が発生する可能性を指摘しています。設置されるカメラと識別ソフトは精度が低く、性別を把握するぐらいしかできないとのこと。「Facebookのプロフィール画像と接続して自動的に個人を判別する」とか、「その人物がお酒を飲んでいるかどうかを判別する」などということは不可能なようですが、そのような可能性が想像できてしまうという点で、プライバシー侵害の恐れを払拭することは難しいでしょう。

実際にSceneTapとは別に、Facebookのプロフィール画像と連動して個人特定するアプリが研究されています:

Viewdle、カメラに写った人物のFacebookアカウントを表示してくれるスマートフォンアプリを開発中

技術的にこうしたことが可能な状況になりつつある以上、SceneTapの試みはちょっと波紋を招くことになるかもしれません。またプライバシー意識は文化によって差があるでしょうから、SceneTapや類似企業が海外で同様のアイデアを実現しようとした際には、そこでまた別の議論が生まれるのでしょうね。

ちなみにSceneTapのビジネスモデルですが、監視カメラは無償でクラブ側に提供し、アプリも消費者に無償で配布した上で、広告やクーポンによって儲けるつもりとのこと。ただフォーブスの記事が面白い点を指摘しているのですが、より高度な画像解析技術を導入すれば、「来店客の美男美女率」など様々な分析が可能になります。また暗い店内では難しいかもしれませんが(でも映画の観客を分析する例もあるから大丈夫かも)、表情認識技術と組み合わせたり、あるいはマイクを導入して騒音度を把握することで、そのお店がどのくらい盛り上がっているかをリアルタイムで把握することが可能になるでしょう。そうした追加データを有料で提供したり(所謂フリーミアムモデル)、あるいは店舗経営者に向けた有料マーケティングデータとして提供したりすることで収益を上げるという道もあるかもしれません。

それ故に、SceneTapの経営がすんなりと軌道に乗るようであれば、こうした発展形が登場する可能性は高いのではないでしょうか。そしてさらに「どこから先がプライバシー侵害になるのか」という議論が踏み込んだ形で行われ、例えば「米国版では美男美女率が表示されるけど、日本版ではNG」のような状況も生まれてくるように思います。

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