リアル化するソーシャル・コミュニケーション
起業家たちがビジネス上の悩みを打ち明け、参加者たちがそれに対してアドバイスを行う――新しいウェブサービスの話、ではありません。実はこんなイベントが、リアルの場において行われるようになってきているとのこと:
■ An Open-Mike Event for Small-Business Ideas (New York Times)
米国で行われている bloblive というイベントについて。冒頭のように「起業家が参加者からアイデアをもらう」というものなのですが、実はこれを主催しているのは ideablob というサイト。このサイト自体、起業家が自分のビジネスについてユーザーからフィードバックが得られるというもので、要はバーチャルからリアルへとサービスの場を広げているわけですね。
About 40 small-business owners, self-employed professionals, and individuals arrived by 7 p.m., mingled over chicken fingers, checked one another’s name-card stickers and talked shop. Then Ami Kassar stepped to the microphone in a T-shirt and jeans and thanked everyone for coming.
“Being an entrepreneur, a small-business owner, it’s kind of lonely sometimes,” Mr. Kassar said. “What bloblive is trying to do is to create a community. Tonight when you come up and share an idea, something just might trigger for you. Someone will give you feedback or offer you a connection that could help you take your idea to the whole next level.”
Then he solicited a warm welcome for Steve from Philadelphia, passed the microphone, and the blobbing had begun.
午後7時。中小企業経営者、フリーランスの専門家、そして個人の参加者たちが合わせて40名ほど集まり、用意されたチキンを食べながら、お互いの名前を確認したり話し合ったりしていた。Ami Kassar がTシャツにジーンズという姿でマイクに向かうと、来場者に向かってお礼の言葉を述べた。
「起業家になったり、中小企業の経営者になるということは、時に孤独なものです」と、Kassar が話す。「bloblive が行おうとしているのは、コミュニティの構築です。今夜、ご来場いただいてアイデアを共有することを通じて、何かのきっかけが生まれるかもしれません。皆さんのアイデアを次のレベルへと導いてくれるような、フィードバックやコネクションを与えてくれる人がいるかもしれません。」
そして彼は、フィラデルフィアから来たスティーブを紹介し、観客に拍手を求めた。マイクがスティーブに渡され、bloblive が始まった。
と、なかなか楽しそうです。ちなみにイベントの様子はウェブ上でライブ中継され、ideablob の公式 Twitter 上でもアップデートされるそうですから、ご興味のある方は次の開催をチェックされると良いかもしれません。
さて、こうした企業・組織のカベを越えて経営者・技術者が集まるイベントというのは、若い方々には既に目新しいことではないかもしれません。ネットを通じて知り合った人々が勉強会を開いたり、識者を招いて講演会を開催したりということはごく当たり前のように行われていて、告知をいくらでもネット上で見つけることができます。またそこまでフォーマルでなくても、「いま~にいるからヒマな人飲もう!」というようなお誘いを Twitter 上で目にする、ということも珍しくなくなりました。ソーシャルテクノロジーによって発生したコミュニケーションが、バーチャルの世界で留まるのではなく、リアルの世界まで延長されるということが始まっているわけですね。
デジタルネイティブでない人々にとっては、「バーチャルな関係からリアルな関係へ」という移行がスムーズに行われることは理解しがたいかもしれません。「若者はネット上でしかコミュニケーションしようとしない」などといったステレオタイプをメディアが喧伝していることも、デジタルネイティブでない人々を誤解させる一因となっているでしょう。しかし若い人々にとっては、「リアルかバーチャルか」という切り分けをすることがそもそも無意味なのではないでしょうか。さらにはバーチャルな世界で生まれた「WEB2.0的」フラット・コミュニケーションが、リアルの世界においても行われるということは珍しくありません。上記の bloblive も、ideablob に参加している人々にとってはごく自然な行為として受け取られていることでしょう。
ここから先は勝手な想像でしかありませんが、ideablob のように、バーチャルなコミュニケーションを主催していた組織がリアルにも手を伸ばす、ということが増えてくるかもしれません(そういえば Mixi が本物の年賀状を出せるサービスを行った、などという事例もありましたね)。例えばごく簡単なアイデアですが、SNSの企業が各地にミーティングスペースを用意し、SNS内のコミュニティのために貸し出すなどというのはどうでしょうか。フィジカルなサービスの方が課金をしやすいですから、バーチャルなコミュニケーションをしている限りは無料、ただしリアルのサポートは有料、などというビジネスモデルも描けるかもしれません。いずれにせよバーチャル/リアルの垣根は、曖昧にしておいた方が面白くなるのではないでしょうか。
【関連記事】
■ 【書評】若者を理解するだけでなく、自らが変わるための一冊『デジタルネイティブが世界を変える』
【○年前の今日の記事】
■ レジ袋という生け贄 (2008年6月5日)
■ 「反応がなくてつまらない」と思ったら (2007年6月5日)
■ 84番目の問題 (2006年6月5日)