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【書評】若者を理解するだけでなく、自らが変わるための一冊『デジタルネイティブが世界を変える』

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待ち望んでいた一冊が翻訳されました。以前こちらでも書評を書いた、『ウィキノミクス』の著者ドン・タプスコット氏の最新刊『デジタルネイティブが世界を変える』です。ちなみに翻訳されたのは、オルタナブロガーでもある栗原潔さん。ご献本もいただきましたので、改めて書評を書いておきたいと思います。

ちなみに以前の書評はこちら:

【書評】"Grown Up Digital"

本書は現在11歳~31歳前後の若者を「ネット世代(Net Generation)」と名付け、邦題にある通り「デジタルネイティブ」(物心ついた頃から周囲にICT技術があり、それを当然のものとして使いこなす人々)である彼らがどのような行動基準を持っているか、そしてそれがどのような社会変革をもたらすかについて、世界中を対象にして行われた広範なリサーチをもとに考察したもの。3部構成になっており、第1部でネット世代の性格や特徴が論じられた上で、第2部・第3部でいま起きている具体的な事例が6つの分野(教育・職場・消費・家族・政治・社会貢献)にまたがって解説される、という形式になっています。新聞離れ/テレビ離れ、ソーシャルテクノロジーを通じた社内コラボレーション(社内SNSや社内Wiki等)、「プロシューマー」理論、そしてオバマ大統領に代表される新しい政治スタイルなど、ITmedia 読者の方々であれば最近よく目にする話題も網羅されていますよ。

さて、本書を改めて読み返してみて感じたのは、この本は読者にとって今後数年間の行動指針になっていくだろうという予感です。前回の書評でも述べた通り、本書には「ネット世代」を理解し、彼らと付き合っていく(消費者として、部下として、あるいは家族の一員として)上での具体的なアドバイスが無数に紹介されています。しかし、もちろんそういったアドバイスは貴重なものですが、本書の最も核となる価値は「これから社会はどのように変わり、私たち自身はどう変っていくべきか」を考えさせてくれるという点にあるでしょう。原書の副題"How the Net Generation is Changing Your World"(ネット世代はあなたの世界をどのように変えていくか)と、邦題『デジタルネイティブが世界を変える』は、その意味で非常に適切な一文であると思います。

実際、本書で紹介されている事例の中には「変化」というよりも「パラダイムシフト」と名付けた方が適切なほど、極めて先進的なものが登場します。もちろんその全てが今後主流になるとは限りませんが、重要なのは新しい流れを否定せず、新旧の世代が歩み寄ってベストな道を探れるかどうかでしょう。少し長いのですが、一箇所だけ本書から引用しておきたいと思います:

もちろん、ネット世代だけでは成果を生み出すことはできない。旧世代の従業員との協業も必要だ。カナダ2位の食料品小売り企業であるソーベイズのCEO、ビル・マクウェンは、毎日のようにこの事実を目撃している。ネット世代と旧世代の従業員が協力関係にある店舗が最も成功している、と彼は述べている。両世代はお互いから学んでいる。マクウェンの息子のマシューは多くの企業が「世代間ファイアウォール」の問題を抱えていると言っている。つまり、権力のある旧世代と新しいネット世代の従業員の間に壁があるということだ。世代間ファイアウォールの存在を許してしまうのは企業にとって大きな間違いである。ファイアウォールにより、ビジネスを熟知している旧世代の人々がネット世代のコラボレーションの方法、特にウィキなどのツールの活用方法を学ぶことができなくなる。また、ネット世代もベテラン従業員の経験から学べなくなる。このファイアウォールを排除できるか否かが勝者と敗者を分けることがある。バラク・オバマはファイアウォールを打ち崩した。ヒラリー・クリントンはそうではなかった。ベストバイはファイアウォールを打ち崩した。同社の競合であるサーキット・シティ(現在、業績に問題を抱えている)はそうではなかった。

やがて到来する新しい社会に向けて自分を変えるために、「世代間ファイアウォール」を乗り越え、若い世代から学ぼうというメンタリティを持てるかどうか。そもそもそんな態度になれない、という人物が本書を手にすることはないかもしれませんが、『デジタルネイティブが世界を変える』は読者自身の変化を促してくれる一冊だと思います。

若者の可能性について楽観的に過ぎる、と感じられますか?確かに僕も本書を読んでいて「ちょっと擁護し過ぎかなぁ」と感じる部分はあったのですが(もちろん肯定一辺倒ではなく、批判する箇所もあります)、マスメディアには「暴走する若者」「愚かになる若者」といったステレオタイプが溢れていますから、本書ぐらい若い世代に希望を感じさせる程度がバランスがとれて良いのかもしれません。いずれにしても大きな話題を呼ぶ一冊になるでしょうから、ぜひ一度手に取ってみて下さい。

< 余談 >

実はご献本いただいた一冊が届く前に、書店で並んでいたのを見つけ、一も二もなく購入してしまいました。ということで手元には2冊の『デジタルネイティブが世界を変える』が。寝かしてしまうのももったいないと思い、またこの本にふさわしい対応をと考え、Twitter 上で呼びかけてある方にお譲りすることにしました。栗原さん、翔泳社さん、一冊はちゃんと自分用に保管してありますので、ご容赦いただければと思います。

【○年前の今日の記事】

バリューチェーンの先へ (2006年5月11日)

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