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シリコンバレーで起業する?

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例によってへそ曲がりの観点から表題を論じてみよう。もちろん、題目が大きすぎて簡単に述べることはできないのだが、ここではある側面に限定して論じる。

ICTの分野では、焦点がハードからOSやミドルウェアに、さらにはアプリへと移り、そのアプリもいつの間にか、Webを一番下層のインフラとするアプリケーションだけになってしまったようだ。日本の新しいベンチャー会社を見ていると、その多くが、Webの上層のアプリやサービスに特化しているように感じられる。これはしかし、海外進出において不利に働くと思ってよい。スタックが上の方になってくると、サービスやアプリはビジネス手法や文化に根ざす傾向が強まる。つまり、日本で開発したアプリやサービスを米国に持ち込んでも、文化の壁があり、必ずしも受け入れられるとは限らない。もちろんインフラやミドルであれば、あまり文化やビジネス手法に左右されることはない。

その国や地域の様子、たとえば、生活環境、言葉、文化、ビジネス手法などを理解せずいきなり乗り込んでも成功する可能性は低い。これを日本市場で考えてみれば自明だろう。見かけも話す言葉もビジネス手法も異なる外国人が日本にやってきて、その母国で流行っているアプリやサービスを日本市場に売り込んで成功するだろうか。たとえ文化の壁を乗り越えて外国でも受け入れられる製品を持っていたとしても、それだけで売れるわけではない。Web Browserのように、ほとんど説明が必要ないものを除き、製品やサービスを売るには、その地域を理解している営業マンが必要となる。そういった営業マンを雇うにも、その地域のことを知らなければ有能な人を見分けることもできない。志を高く持つことは大切だが、行けばなんとかなるという特攻隊精神ではまず成功は難しい。

さて、否定的なことばかりではなく、少し肯定的なことも述べてみよう。まず、シリコンバレーで起業する目的はなんだろうか。米国市場を狙うのに決まっているだろうと言われてしまいそうだ。しかし、シリコンバレーで起業して日本市場を狙うのも可能だろう。もともとそうしようと計画したわけではないが、Trend Micro社は最初アメリカ市場に参入しようとして失敗して日本で活路を見出した。日本での成功を基に再びアメリカ市場に参入して成功を収めている。ここは、シリコンバレーで起業してアメリカ市場で大もうけをするという大望は少しおいて、まずシリコンバレーとはどんなところで、日本で言われているイメージと同じか、自分で確かめてみたらよいのではないか。何も知らないところで何も知らないまま起業するより、できるだけたくさんの情報を持っている方が有利だ。

シリコンバレーも、一時のことを思えば現在はそのネームバリューに陰りが見える。しかし、されどシリコンバレー、ベンチャー企業としては箔付けにはなる。箔付けだけではなく、日本で言われているとおりなのか、シリコンバレーを自分で体験するのは大切だろう。もちろん、単に物理的にシリコンバレーに居てもあまり役には立たない。シリコンバレーにいるメリットは、色々な経歴を持つ多くの人々との意見交換だ。シリコンバレーで実際に起業し、成功したり、失敗したりしている人たちと交流するのは大きなプラスになるはずだ。

たとえば、日本向けのサービスやアプリを開発する際、異なったアイデアを得るために一時的にシリコンバレーに滞在してはどうだろうか。もちろん色々と問題はある。言葉の問題はもとより、経費、住居・オフィス、コンタクト、ビザなどなど、決して簡単なことではあるまい。こういう話のなかでビザの問題はあまり議論されないが、長期にわたる滞在にはビザが必要だ。しかし、ビザなしの入国オプションでも一度に最高90日は入国・滞在できる。市場調査や箔付けには十分な時間だろう。滞在が可能となっても、自分の製品やアプリケーションに関連する人々とのコンタクトの問題は難しい。大体、どこに行って誰と話をすればよいか分からない。会いたい人、話したい人が分かっても、その人とどうやってコンタクトを取るのか。解決しなければならない問題が山ほどある。

こうした問題は、自分のコネを展開して解決するもよし、日本政府系のJetroなどはベンチャー企業を助けるインキュベーションのオフィスをシリコンバレーに持っているのでそういう所を利用するのもひとつの手だろう。正面から行くのではなくゲリラ的に攻めて、普通なら不可能なことを可能にすることこそベンチャー精神というものだ。以前、日大のビジネススクール大学院のY教授は、学生を引き連れ、夏休みを利用して10日ばかりシリコンバレーの会社を訪問するということを数年続けておられた。短期間とはいえ、それなりに新しい発見はあったようだ。Y先生とて最初からそんなにコネがあったわけではないが、色々コネを開拓し、毎日充実したミーティングをセットなさっていた。要はやる気の問題だ。

まとめると、まず自分の目でシリコンバレーを見ることが一番大切だ。日本とアメリカの報道を見ていると、どちらのメディアも常に相手の国を正しく理解して報道しているようには見えない。ひょっとすると日本で報道されている「シリコンバレー」は本当の姿でないのかもしれない。自分の目で見ることが絶対に必要だ。90日以内の滞在でも、かなり成果をあげられるかもしれない。極限すると「人の言うことは信じるな」と言っている訳だから、このブログを信用するかどうかもあなた次第だ。

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